1343話 アレクサンドリーネの目論見

それから間もなく休憩時間になったようだ。すると看板娘だけでなく、店主っぽいおじさんまでやってきた。


「あの、うちのイロハがお世話になったそうで……」


世話になったと説明されてんのか……


「私の叔父なんです。亡くなった母の弟で、私をここで働かせてくれてるんです……」


「そう。で、なぜ借金があるのかしら?」


「それは姉、イロハの母が難病にかかったもので……その治療費として……」


あらら。それはツイてなかったね。今だったら私が万能薬を持ってるってのに。


「でも借りたのは五十万ナラーなんです! それがなんでこんな金額に……」


「利息に決まってるじゃない。まあそんなことはどうでもいいわ。あなた、田畑を持っているのよね? 何を育ててるの?」


あー、さっきの奴らが田畑がどうのこうの言ってたもんな。


「ほとんどがイグサと、後は少しの野菜です……」


「イグサの収穫期は夏のはず。今の時期は何をやってるの?」


え? アレク、そんなこと知ってるの? イグサって夏に収穫するの? 知らなかった……


「イグサ田の追肥を行ったり苗の準備をしたりです……」


「じゃあ苗の準備が終わり次第すぐに植えなさい。」


え? アレク、それはいくら何でも……


「いや、そう言われましても……温度が……それに水も……」


「問題ないわ。さっき言ったわよね? このカースはローランド王国最強の魔法使いよ。温度も水量も自由自在。気にせず植えなさい。それできっちり収穫できた暁にはイグサと引き換えに借金をなしにしてあげるわ。」


なるほど! アレクの目的はそれか!

私のためにイグサをゲットしようとしてくれてるのか! 先程のわずかな会話から、この看板娘がイグサ田を持っているとアタリをつけて! うーん、さすがアレク。深慮遠謀だな。


「イグサの育成はそんな甘いものじゃありません……そちらの方がいくら凄腕の魔法使いだからって! 無茶言わないでください!」


「私はどっちでもいいのよ? でもこの方法以外に返済する方法があるとでも言うの? まあ、こちらとしては別に体を売って返してくれても構わないわよ?」


おお……アレク容赦ない……

少しの甘えも許さないと言わんばかりだ。


「で、でもいくら苗が用意できても……まずは田を耕さないことには……」


「何度も言わせないでくれるかしら? この魔王カースはローランドの国王陛下も恐れる最高の魔法使いなの。田畑を耕すぐらい一瞬で終わるわ。あなたの返事は『はい』か『いいえ』のみ。さあ、どうするの?」


うーん、さすがアレク。有無を言わせず話を進めるではないか。田畑を魔法で耕す……どうしよう……


「やります……植えます……でも、上手くいかなかったら……」


「その時はその時ね。仮にあなたの所でイグサが収穫できたら、タタミだったかしら。タタミ何枚分に相当するのかしら?」


「普段なら人も使って……軽く百畳分は収穫してましたけど……今や、うちを助けてくれるほど余裕のある所はありません……」


「その辺の事情には興味ないわ。とりあえずその百ジョウ分の苗を用意しなさい。それなりに時間がかかるのよね?」


「そうです……若苗を経て二次苗にまで育てる必要があります……それから植えるんですけど……植え付けの人数が足りなくて……」


すごいなアレク。めっちゃ詳しいじゃないか。


「じゃあ今必要なことは? 正確に言いなさい。」


「二次苗にまで育てて……追肥して……イグサ田を耕して……水を溜めたら一応は植えられます……」


「よく分かったわ。ねぇカース? どう思う?」


いきなりだな。


「耕すのも水も問題なさそうだね。とりあえず案内してもらおうか。」


「分かったわね? 案内してもらうわよ。いいわね、店主?」


「へ、へぇ……あ、あの、どうかイロハをお願いします……」


こいつは叔父なのに助けてやんないのかよ。


店を後にして歩く私達。このまま街を出て田園風景の中を歩く。


「ここです。これを植え替えて二次苗まで育てるんです……」


「なるほど。分かった。どこに植えたらいい?」


ここは苗代か。まずはまとめてある程度まで育てて、段々と広い場所に移していくってことだな。


「この四つの田に分散して植える予定でした……」


「分かった。じゃあこの田を耕して水を張ればいいってことだな?」


「そうです……」


よーし。アレクが期待してることだし、やってやるぜ。


「おっと、耕す深さはどのぐらい?」


「これぐらいです……」


看板娘ちゃんが手で示したのはだいたい二十センチか。任せな。


『風壁』

『風斬』


風斬を竜巻のように回転させる。ただし、刃が地面に対して垂直になるように。それを田の幅に合わせて発動し、二十センチの深さまで耕せるようにセットする。その上に風壁で蓋をして土が飛び散らないようにして……いくぜ!


「なるほどね。さすがカースだわ。私もやってみるわね。」


アレクも隣の田で同じ事を始めた。技術的にはそこまで難しいことではないからな。技術的には……

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