1313話 オーガベアのボス

そして、なす術もなく押し潰されたオーガベアの群れ。いやーここみたいな密室だとめっちゃ強力な魔法だよな。さすがアレク、氷の女神と呼ばれるだけあって氷系の魔法はあれこれきっちり修得してるよね。偉い。


「カース、後は頼むわね……ちょっと無理しすぎちゃった……」


「いいよ。ささ、座っておいてよ。」


アレクの魔力はすっかり空っぽになっている。鉄ボードの上に座っておいてもらおう。大きな魔法だったもんなぁ。カムイごと押し潰してしまいかねないけど、あいつなら避けてるよな。


「ガウガウ」


ほら来た。おや、結構汚れてるな。血がこびりついてるじゃないか。後で洗ってやるよ。


「ピュイピュイ」


おかえり。コーちゃんは問題ないよね。いつでも無人の野を行くがごとくだもんね。




そして、部屋の中心部の氷が弾け飛んだ。真打登場か。

おお、身の丈二十メイルのオーガベアか。大き過ぎだろ。


『徹甲弾』


まずは挨拶代わりに額にぶち込む。うん、効いてないね。ちっ。


『ギガァァアアアアアアアアアーーーー!!』


『消音』


さすがにこのクラスのボスともなれば普通に『魔声』を使えるんだな。だが効かん。うるさいから消音は使ったけど。


『徹甲白弾』


おっ、効いた。貫通はしなかったが額がごっそり削れてるではないか。なのに生きてんのかよ。巨腕を振るいアレクの氷壁をかち割りながらこちらに迫ってくる。でも残念ながら終わりだ。


『徹甲弾』


傷ついた額では防ぎ切れまい。頭部の奥深くに徹甲弾はめり込み、オーガベアのボスは絶命した。後に残された素材は特大の熊胆だった。一メイルはあるな……重っ……

今度から朝の目覚めに熊胆を一欠片食べてみようかな。まずくて目が覚める上に、すごく健康になりそうだ。まあ今まで生きてきて病気なんかしてことないけどさ。魔力が高いから当然だしね。


「やっぱりカースは鮮やかね。あの凶暴そうな巨大オーガベアをわずか三発で仕留めるなんて。でもその気でやれば一発でもできたのよね。最高よ……」


「ありがと。そうだね。一発でもいけたね。魔力がごっそり無くなるけど。」


うーん、アレクが濡れた目つきで見つめてくるじゃないか。でもこの部屋は氷だらけで少し寒いからさっさと出たいかな。次の安全地帯までお互い我慢しようじゃないか。


「ガウガウ」


またかよ……そんなに戦いたいのか……

仕方ないな。その代わり風呂は次の安全地帯に着いてからだぞ?


「ガウガウ」


やれやれ。


「アレク、例によってカムイがボスと戦いたいんだって。少し休憩しようか。」


「いいわよ。休憩するんなら……ね? カース……」


もうアレクったら。悪い子だ。せっかく私は我慢しようとしていたのに。


氷の上にピラミッドシェルターを出して……一時間だけ休憩だ!





うおっ、シェルターが揺れる! 何事だ!?


あ、ボスが現れたのか。無数のオーガベアども。今度は生意気に氷壁を壊しやがった。開幕無敵的な?


コーちゃん、カムイ、こっちにおいで。まとめて仕留めるから。


『風壁』

『燎原の火』


いくら広くても密室だからな。ここが酸欠にならないことは分かってるが、熱はどうにもなるまい。全部燃えてしまえ。


よし、終わり。いよいよ大きいボス戦だ。カムイ頑張れよ。


「ガウガウ」


『ギギャガァァアアアアアアアアアーーーー!!』


お、出た出た。離れた所で見てもデカいなぁ。赤兜の奴らはこんな化け物をどうやって倒すんだろうね? ムラサキメタリックの剣なら楽勝で通用するんだろうけどさ。


『ガアアアアアアアアアーーーーーー!!』


おお、カムイも負けじと魔声で応戦か。いい勝負だ。


足元に駆け込むカムイを振り払うかのように足を動かすボスだが、スピードが違いすぎて全く意味がない。それどころかすれ違い様にアキレス腱あたりを切ってるな? さすがカムイ。それでも倒れないボスもさすがだな。いや、むしろカムイを無視してこっちに来ているな。そりゃあ悪手だね。カムイに背中を見せるだなんて。


あー、ほら。両足ともアキレス腱をぶち切られてしまったじゃないか。それにはさすがのボスも前向きに倒れてしまったな。大きな音を立てちゃってまあ。


そして倒れてしまったら、もう終わりだ。


カムイがボスの首の後を飛ぶように何度も往復する。その度に傷口が広がっていく。そろそろ首が……


おっ? 寝た状態から突如仰向けに切り替えたボス。下から掬い上げるようにカムイを爪で狙うが……当たるわけないよなぁ……

少しヒヤッとしたが問題なしだ。しかも仰向けになったせいで今度は喉笛が狙われるはめに。魔声も使えなくなってしまうな。


だが、それでもボスはしぶとい。上半身だけでも起こし、少しでもカムイの攻撃から遠ざかろうとしている。しかも、腕だけでなく口まで使ってカムイを食い殺そうとしているようだ。さすがのカムイもあれに噛まれたら即死だからな。気をつけて欲しいが……


うおっ!? カムイのやつ、ボスの肩から顔の横を通って頭の天辺まで登った!? そこからさらに飛び上がり、天井を蹴ってダイブ!?

危ない! オーガベアの角に狙われる!?


おお……ギリギリで角を躱し……

額をスパッと斬り裂いたではないか……すごいな。

確かにカムイはドラゴンの皮膚ですら斬り裂けるやつだもんな。それに比べればいくらオーガベアのボスだろうと相手ではないってことか……


だが、まだ生きている。カムイの魔力の刃ってそこまで長くないんだよな。ボスはもう狂乱といった感じで大暴れをしている。両手を嵐のように振り回し、両足だって駄々っ子のように床に叩きつけている。巻き込まれると危ないな。


それでもカムイは止まらない。一筋の光が走ったかと思えば、ボスの首筋から血が噴き出た。見事だ。本気出しやがったな?


声にならない断末魔の悲鳴とともにオーガベアのボスは姿を消した。残された素材は……魔石か? これはこれで悪くないな。カムイお疲れ。


「ガウガウ」


手洗いしろって? 分かってるって。次の安全地帯でな。また一段と汚しやがって。とりあえず『浄化』


さあ、次は地下四十一階だ。

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