1308話 カムイの挑戦と三十七階
結局素材は出てこなかった。新たにボスも現れなかったので、この斧が素材代わりってことだろうな。いらねぇ……
地べたに膝をつき、呼吸も荒いアレク。よくがんばったね。
「お見事だったよ。この斧はアレクが持っててよ。記念ぐらいにはなるかな。」
せめて小遣いぐらいになればいいのだが。
「はあっ……はぁ……ありがと……かなり手強かったわ……あ……この斧、少し呪われてるわね。魔剣の類かしら? でもこの程度なら問題ないわ……とりあえず私が収納しておくわね。」
呪われた斧なら……
「もしかしてボスが飛斬を撃ちまくってたのはあいつの力じゃなくてこの斧の効果だったのかもね。」
「あり得るわね。人間だと魔力ではなく命を吸い取って威力に変えるタイプかもね。残念ながら使い道はなさそうね。」
アレクが消耗していることだし、少し休憩だな。一時間が経過する前に出れば問題ないだろう。
「ガウガウ」
なんだカムイ。戦いたいのか? あのボスは手強かったもんな。
「ガウガウ」
あの時の猿とどっちが強いが気になった? 私が見たところ、明らかにあの猿の方が強かったぞ? 確かエンコウ猿の族長カカザンって言ったか。なんせカムイに匹敵するスピードに、カムイを上回るパワー。おまけに毛皮の強靭さときたら。それをわずか一年足らずで超えてしまうんだからカムイも大概だよな。
まあそれなら二時間近く休憩できることだし、構わないよ。がんばれカムイ。
疲労したアレクと体がろくに動かない私。二人仲良くお風呂タイムだ。途中で大量のレッドキャップが現れもしたが、私の氷壁は破れまい。やがてカムイに駆逐された。そして再び本当のボスが現れた。あれ? 斧を持ってないぞ? 棍棒二刀流かよ。当たれば痛そうだけど……
うん。知ってた。やはりカムイの相手にはならなかったようだ。でもしぶとかったな。首がざっくり切れて血が吹き出てるのに平気で棍棒を振り回してたんだから。
その後、カムイは同じことをもう二回やって、ようやく奴の首を落とした。首が落ちても数秒は棍棒を振り回し続けていたのには驚いたけど。
で、やはり素材はなし。その場には棍棒が一本だけ残った。さすがに要らないな……まあ寒い時の木材代わりにするかね。私の魔力庫には木材って意外と少ないし。だって使わないから……
「ガウガウ」
カムイの戦いぶりは湯船から見ていた。
手洗いじゃなくていいから洗えって? お前も好きだなぁ。ならばキアラ方式で洗ってやろう。
『水操』
水、いやお湯で人形を作り、その人形に洗わせる。これもある意味手洗いだよな。精密制御のいい稽古になることだし。
「ピュイピュイ」
コーちゃんは退屈だから酒が欲しいって? 少しだけだよ。
「ピュイッピ」
酒も行商人から買った中に結構入ってたんだよな。この迷宮をクリアするぐらいまでなら持つよな? スペチアーレ男爵から貰った酒は残り少ないし。
よし、では地下三十七階に突入だ。またレッドキャップなんだろうか。
その通りだった。一度に七、八匹ぐらい襲ってくるのでそれなりに対処が面倒だ。だからどいつもこいつも火球で丸焼きにしてやった。さっさと安全地帯を見つけて休みたいからな。しっかり休憩はしたけど、今日はもう終わりにするつもりだし。この階の攻略は明日でいい。体調を回復させることが優先だからな。
そしてようやく安全地帯に着いた。着いたのだが……赤兜どもが居やがった。
よし、ここは私の演技の見せどころだな。
「お、お助けください! 命からがらここまでやって来たんです! ど、どうかお慈悲を!」
嘘は言ってない。カムイが死にかけたのは本当なのだから。
「ほう? 冒険者か」
「よくぞここまで来たな」
「天晴れな奴らよ」
「どこが痛いのだ? 見せてみろ」
「腹具合はどうだ? 一緒に食べるか?」
「ほれ、こっちに来い」
あれ? めっちゃいい奴らっぽいぞ。てっきり弱みを見せたら遠慮なく食いついてくる下衆どもかと思ったのに。そしたら遠慮なく皆殺しにしてやるつもりだったのに……これはこれで困るな……
「悪い。やり直しだ。」
うおっほん。対応を変えよう。
「は? お前は何を言っている?」
「やり直し? 何を?」
「つまりお前は元気なのか?」
「俺達はローランド王国から来た冒険者だ。名前はカース・マーティン。この迷宮には物見遊山のつもりで潜っている。そして赤兜、お前達にかけられた洗脳魔法を解呪してやりたいとも思っている。」
「は? お前は何を言っている?」
「洗脳魔法? 何を?」
「つまりお前はヒイズルの民ではないのだな?」
とにかく問答無用で『解呪』
あらら、あっさり効いたじゃないか。さあ、こいつらはどう出るか……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます