第1282話 カゲキョー迷宮再突入

それから、何の変哲もない二日が過ぎた。初日に私に食料を売った行商人も何人か戻ってきたし、かなり大量に買うことができた。

これって一体何人の何日分にあたることやら。


では、いよいよカゲキョー洞窟に再アタックといこうか。


街に立ち入るが、特に変わった様子は見られない。さすがにまだ食料不足の影響など出てないってことか。だが、これから街の人口は増えるだろうし、赤兜の暴走も始まる。行商人が新たに運んでくる食料など焼け石に水だろうな。

ふふ、では詰所に行こうかね。




おー赤兜どもがいるいる。


「おやぁ? また来たのかぁ?」

「やめとけやめとけ。今度は死ぬぞぉ?」

「せっかくのかわい子ちゃんを殺す気かぁ?」

「げっ……」


『解呪』


一人だけ見覚えのある奴がいたが、気にせずまとめて解呪。あらら、先日こいつにかけた契約魔法まで解けちゃったよ。うっかり。


「あれ? えーと迷宮に入るんだったな」

「これに署名な」

「よし、せいぜい死ぬなよ」


夢うつつで目が覚めたような顔してやがる。やはり洗脳魔法をかけられていたか。


「なあ、今この詰所付近には何人の赤兜がいるんだ?」


「あ、ああ……二十人ぐらいだと思う……」


ほう、結構いるな。


「呼んできてくれよ。いいものやるからさ。こんな風に。」


じゃらりと金を撒く。


天王の洗脳が解けた今、こいつらは普段の態度が出るはずだ。ならばこれは効くだろ。


「おっと、まだ触るなよ? 全員集まってからだぜ?」


うーん、やはりここの奴らには金が効くんだねえ。飛びつこうとしやがった。


赤兜が詰所に入ってくるたびに解呪をかけてやる。これでお前らも嫌な仕事しなくて済むだろ?




そして二十数人に解呪をかけ終わった。まだまだ赤兜は残ってるが、とりあえずこんなものかな。ついでに迷宮に入る奴に契約魔法をかけるための書類も全部燃やしてやった。これで当分の間は手が出せないだろう。潜り放題だ。先ほど私達にかかった契約魔法は解呪してやったし。


それにしても解呪って便利だよな。本来なら高位のアンデッド系魔物が使う呪いの魔法を解くためなんだけどな。ここでも魔力のごり押しが生きてるね。まあ、そもそも高位のアンデッドなんて遭ったこともないし。




さーて、後は迷宮内で会った奴を片っ端から解呪してやればいいだろう。迷宮から出てきた時、ここがどうなっているか楽しみだ。


「よし、待たせたね。いよいよ潜ろうね!」


「ええ。今度はしばらく出ないのよね? また一年経ってたら怖いわね。」


「うん。できるなら最深部まで行ってみたいしね。また祝福が貰えるかもよ?」


捕らぬ狸ってこともあるが、言うだけなら自由だしね。


「そんなのどうだっていいわよ。大事なのはカースと一緒にすごせるってことなんだから。」


「アレク……僕もそう思うよ。神域での苦労は分かってるつもりだけど、アレクと一緒、いやみんなと一緒なら……ね!」


「ピュイピュイ」

「ガウガウ」


コーちゃんもカムイもやる気になってるな。よーし、私も頑張るぞ!




さーてまずは地下一階だな。ここはコボルトしか出ないんだよな。しばらくは私の稽古台になってもらおうか。棍術の稽古のね。




うーん、不動の威力が凄すぎて全然稽古にならない。しまったな、普通の棍も用意しておけば良かったか。まあいいや、型稽古だと考えよう。まだ筋肉痛が酷いことだし。


「ねえカース、不思議なことが起きてるわよ?」


「え? 何かあったの?」


どうしたアレク?


「ここの壁を見てくれる?」


「ん? 別に不思議じゃなくない?」


他の壁と何ら変わりはないが……


「ここってカースが穴を穿ったところよ? それなのに何事もなかったかのように……」


「あー、ここだったんだ。さすがアレク。よく覚えてるね! まあ神域だし、そんなもんなんじゃない?」


私の魔法の中で最強の貫通力であろう徹甲紫弾でさえ無傷な壁。それに無理矢理穴を開けたのにもう塞がってんのかよ。意味が分からん。これはつまり、壁を壊してショートカットとかできないってことだな。ケチな神だな。


神か……いつかのクラウディライトネリアドラゴンもそうだが、この世界には私より強い者なんていくらでも存在する。この迷宮の壁を容易く破壊できるようになれば、そういった強者に少しは追いつけるってことだろうか。頑張ろう。


あ、もうボス部屋だ。今回は結構早く着いたな。


よし、カムイには悪いが私の棍術がどこまで通用するか試してみるか。魔法なしで勝負だ。

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