第1269話 蚯蚓千本

森の中へ入ると、多少は雨足も弱まった気がする。風壁で防いでいるため本当に弱まったかどうかは分からないが。


『水壁』


「この上に座るなり横になるなりするといい。」


私は寝るぞ。アレクの膝枕で。


「きゃーきゃー! ぼよんぼよんするしー!」

「この上でアレしたら最高なんじゃんー?」

「きゃはーそれいいー! ねータツさーん、どう?」


「うるせぇ! 黙って休んでろ! 先ぁ長えんだからよ!」


へー、売り物には手を出さないってタイプか。真面目なんだね。


「ピュイピュイ」


遊びに行く? いいよ。行っておいで。


「ガウガウ」


カムイも? こんな土砂降りなのにお前も好きだなぁ。


あらー、二人とももう見えなくなっちゃったよ。大雨でテンションが上がったって感じだろうか。大雨だけにキャッツ アンド ドッグス……コー アンド カムイ……ふふ、違うか。


『風壁』


周囲を全て覆っておいた。これで少しぐらい魔物が出ても大丈夫だろう。


「アレク、周囲の警戒ね。」


私は寝るんだから。


「ええ、任せておいて。」


ああ、アレクの膝枕は最高だ。私の水壁だって最高級ウォーターベッド並みだからな。そりゃあ眠くなるってもんさ。まあ最高級ウォーターベッドになんか寝たことないけど。




うーん、あんまり寝た気がしないがウォーターベッドが揺れるもんだから目が覚めてしまったぞ。大きいのを一つではなくて分割しておけばよかったな。


「おはよ。僕はどのぐらい寝てた?」


「三十分ぐらいかしら。あの女達が暴れたものだから目が覚めたのね。せっかくカースがゆっくり寝てたのに。」


「よぉ魔王さん、あれどうする?」


「ん? あれ? うっわキモ。」


私の風壁が何やら触手っぽいものに覆われている。キモすぎる……ぐるぐる巻きだ。

そういえば、これと似たようなことがあったなぁ。あの時は確かムリーマ山脈で、氷壁の中でアレクとイチャイチャしてたらメガシルクスパイダーの糸でぐるぐる巻きにされてたんだっけ? 今回はおおかた例のミミズだろ。

うーん、まだ雨が止んでないし……放置だな。


「雨が止んだら退治するからそれまで休んでな。もう少し寝かせろよ。」


「ま、魔王さんがそう言うなら……」


今すぐ退治してもいいんだが、その場合濡れるのはお前らなんだぞ。どうせ私には自動防御があるから濡れることはない。


「だから水壁を揺らさないよう大人しく休んでおきな。さすがに雨はもうすぐ止むだろ。」


天気のことなんか私に分かるわけないけどさ。


『水壁』


風壁の内側に黒い水壁を張ってやった。これで安全性アップの上にキモい物が見えなくなっただろ。全方位を黒くしたら真っ暗になってしまうから一部は透明なままにしておいた。よし寝よ。アレクの太ももはすべすべ。







むっ! 水壁が破られた! まさかあんなミミズに!?


なんだカムイか。もー、せっかくよく寝てたのに……


「ガウガウ」


このミミズを焼けって? 生だとマズいって?


「ピュイピュイ」


コーちゃんも同じ意見なのね。何も水壁を破らなくてもいいだろうに。もー。


「ちょっと出てくるね。アレクは濡れたらいけないから待っててね。」


「分かったわ。でも雨ぐらい平気よ?」


「分かってるって。それでもだよ。」


さて、外に出てみると触手の束としか見えないキモい魔物がいた。太さも様々なら長さも様々な触手を伸ばしてカムイやコーちゃんに襲いかかっている。まあ……襲いかかる端から食べられているんだが……


私のことも獲物と定めたようで触手が伸びてきたが『火球』

丸焼きにしてやるよ。焦げすぎないように……


終わった。


さすがに均一に焼くのは無理だった。ところどころ炭になってしまっている。


「ガウガウ」


ミディアムな焼き具合の所が旨いだと? どこでそんな言葉を覚えたんだ?


「ピュイピュイ」


コーちゃんは生焼けの所がいいのね。レアとすら言えないほど火が通ってない辺りか。タタキ?


ちょうど雨も止んだことだし、これで出発できるな。とりあえず魔石を取っておくか……魔石はどーこだ。


うーん、ミミズの密度が酷いな。どんだけ密集してるんだ。『風斬』

とりあえず全体を半分に分けてみた。なるほど、やはりこいつは一匹ずつの生物ではなく数千ものミミズで一つの魔物か。中心部の球部分から無数に生えてやがる。これはまるでマウントイーターみたいだな。山岳地帯最悪のあの魔物のようだ。見た目だけは。


おっ、魔石みっけ。珍しい魔物みたいだし、これは売らずにキープだな。


「ガウガウ」


洗えって? 全身泥まみれになりやがって。全くもう『浄化』

風呂はどこかに着いてからな。これでも充分きれいになっただろ?


「ピュイピュイ」


森の幸は美味しかったって? それはよかった。楽しんできたみたいだね。

おや、タツや他の女達が呆然としているじゃないか。


「ん、どうした? 出発しないのか?」


「いや、出発するけどよ……びっくりだ……蚯蚓千本をあんなにあっさりと……魔王だけでなくそのペットまで……どんだけ驚けばいいんか全く分からん……」


「あいつって厄介な魔物なのか?」


「聞いた話だがな……あいつに襲われると全身からありとあらゆる体液を吸い尽くされるらしいぜ?」


「ふーん、それは怖いな。まあみんなが無事でよかったじゃん。じゃ、出発しようぜ。」


「お、おお……」


ミミズのくせに吸い尽くすって意味が分からん。それともマウントイーターの仲間だったりするんだろうか。魔力を吸うタイプじゃなくてよかったわー。

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