第1188話 いつものカース

私が何かをするまでもなく、アレクの氷壁が奴らを覆った。例によって頭だけは出している。


「カースどうする? 殺す?」


アレクの口に物騒なセリフは似合わないな。それでも可愛らしいけど。


「うーん、少し待とうか。ちょっと場所も移動しないとね。」


街中だもんな。さすがに街中で惨殺はまずい。こんな所で絡んでくる方もくる方だが。


『浮身』


「てめっ! 何しやがんだぁ!」

「さっさと出さねぇとぶち殺すぞ!」

「俺らぁここの騎士にも顔がきくんだぞぉ!」


『水球』


うるさいから頭部は水で覆ってみた。




とりあえず路地裏へ来た。水球解除。


「がばぁっ、はぁ、ばはっ」

「てめっ、ころ、ぜって」

「はぁっ、はぁぁ、はぁあうぐぅう」


「これ以上お前らなんかに時間を使う気はないぞ。詫び入れるかこの場で死ぬか決めろ。」


いつものことだが、こいつら系ってよく今まで生きてこれたよな? 私でなくともうっかり強い奴に絡んだりしなかったんだろうか。それともそういう嗅覚だけは優れていたとか? それなら何か? よほど私は弱く見えるってことか? うーん……まあこの服装なら仕方ないか、私はオシャレだからな。あ、それに魔力だって感じないんだろうし、そりゃそうか。

なんだかなー。


「ふざっ、けんな、だれが、てめぇごとっ『風斬』ぎぃぅぁ」


あーあ。可哀想に。首がざっくり切れちゃってるよ。


「カースの言うことが理解できなかったのね。そんな悪い頭なんていらないわよね。そっちの二人はもっとすっきりと首から上を軽くしてあげようかしら?」


アレクが氷壁を解除すると、死んだ男の体から金や装備がジャラジャラと落ちてきた。こいつは冒険者らしく死んだら魔力庫の中身をぶち撒ける設定にしていたようだ。


「なっ、ヒテヤ!? 殺しやがった!?」

「てめぇら! ここでこんなことしてタダで済むっぶ『風斬』


おっ、今度は鼻から上を水平に切断か。首を切り落とすよりよほど難しいのに。アレクもやるよな。


「本当に頭が悪いのね。最後のあなたはどうする? 別にどっちでもいいわよ?」


ちなみに死体は私が焼却している。魔力庫に入れてから海に捨ててもいいのだが、こんな奴らを収納したくないんだよな。


「わっ、わかっとぁ! 俺が悪かったぁ! たす、たすけてくふれぇ!」


「素直な男は嫌いじゃないわ。ならカースの言う事をよく聞くのよ? はいカース、後は任せたわ。」


うーん、おかげで随分と楽ができてしまった。さすがアレク。


「とりあえず命だけは助けてやるから約束な? 洗いざらい話してもらうぜ?」


「ああ……わかっとぁっぐっぶぅ……」


よしオッケー。


まずは有り金を全部没収して……それから情報収集だな。現在のバンダルゴウは……


ふむふむ。ヒイズルからの渡航者が増えて 、ますます治安が悪くなってるのね。でもここの騎士は金で簡単に転ぶのでまともに取り締まる奴は稀だと。そしてこいつらは騎士に金を払ってる側なのね。そうやってバンダルゴウに来た他所者から金を巻き上げること多数、ローランド王国民、ヒイズルの民を問わず弱そうな奴らをターゲットにしていたと。ならず者あるあるだな。

で、今回の依頼でヒイズルに行って豪遊しつつ査定もアップする予定だったのが台無しになったもので、腹いせと実利を兼ねて私達に絡んできたそうだ。バカ過ぎる……


ちなみにこいつらの魔力庫から手に入れた現金は金貨が百二十枚だった。どうやらヒイズルに行く予定だったためにギルドの口座から引き出していたらしい。しかもそのままヒイズルに持ち出しをする気だったと。ローランド王国の金貨や銀貨はあっちではいい値がつくらしい。国力の差を考えれば無理もない話だが、どこか引っかかるなぁ。まあいい、こいつもにもう用はない。私達の宿を伝えて解放してやった。復讐したいならいつでも、何人でも連れて来いと伝えて。


それにしても、貴金属の国外持ち出しは重大な犯罪だ。魔力庫があるせいでなかなか取り締まりが難しいんだけどね。それにしてもヒイズルは何を考えてんだか……

こいつら程度のダメ冒険者でも知ってるってことは結構この情報が出回ってるってことだよな? つまり、そこでもローランド王国にケンカ売ってるってことだ。つくづく舐めた国だな。観光を楽しむつもりなのだが、どうなることやら。


出港までもう一週間あるし、その間は海中で魔力制御トレーニングなどをしながらのんびりしてよう。海の幸もゲットできるしね。いつもの事だが、私の魔力庫には野菜類が少ないんだよなぁ……

補充しとこうかな。

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