第1171話 楽園の新人

クタナツの南門に到着した。女達は門の外に待たせて私とアレクは中に入る。


「じゃあ僕はファトナトゥールとラジアルに行ってくるから、アレクは実家だね。」


「ええ。母上に挨拶してくるわ。」


「僕もその後、自宅に顔を出してから南門に行くよ。じゃあ、後でね。」


女達の護衛にはカムイとコーちゃんだ。城門の外だからな。荒くれ冒険者に絡まれたらいけないもんな。




さーて、まずはファトナトゥールでメイド服を受け取って……


「まいどー。サウザンドミヅチの革も残り少なくなってきたねー。ご利用は計画的にねー。」


「どうも。いつもありがとうございます。」


うん、いい出来だ。無敵のメイド服だな。きっとリリスに似合うだろう。色気はないが威厳が出そうかな。あ、ブーツも注文しておいてやれば良かったな。うっかり。




次は鍛冶屋ラジアルだ。

ミスリルギロチンの研ぎはばっちり。そして……


「できてるよ。いやー大変だったよ。」


コバルトドラゴンの角から作られた短剣だ。うーんカッコいいじゃないか。これならアレクの持ってるサウザンドミヅチの牙製短剣に勝てるな。しかも握り部分はエビルヒュージトレントの木刀を利用してもらった。もう木刀としては役に立たないもんな。これで握りもばっちりだ。フェルナンド先生に貰った剣と合わせて二剣流もできるかな。うーん技術的に難しいな。


「見事ですね。手に馴染みます。ありがとうございます。」


「毎度。角と木刀の余りがあるから金貨百二十枚に負けとくよ。」


「それはどうも。また研ぎなど頼みますね。」


よし次は実家だ。母上はいるかな。




いた。


「と言うわけで楽園に寄ってからバンダルゴウに行くよ。そこでどうするか決めるつもりなんだよね。」


「ヒイズルね。私はカースが無事に帰ってくれさえすれば何でもいいわ。楽しんでらっしゃい。」

「お土産楽しみにしてるからね!」


ジーンはいないけどベレンガリアさんはいる。


「何か用意するよ。ヒイズルの石とかでいいよね。」


「カース君……それはあんまりだわ……」


「冗談だって。ベレンガリアさんに似合いそうなものを選ぶとするよ。何があるかは分からないけどね。母上も楽しみにしておいてね。」


「ええ。楽しみにしておくわ。それにしても、普通ならヒイズルに行くのは命がけなのよ? まったくカースったら。」


乗ってる船が沈んだとしても私達は適当に飛べばいいし、船室に閉じ込められたまま沈んだとしても特に問題ないもんな。私ってすごいな。でも油断せずにいこう。


「じゃあ二人とも元気でね。父上とジーンにもよろしく!」


「いってらっしゃい。」

「カース君も元気でね!」




よし、クタナツでの用は済んだ。いよいよ旅立ちだ。いや、その前にギルドに寄って……




魔力庫内の銀貨、金貨、大金貨を全てギルドカードに入金しておいた。つまり、手持ちは銅貨のみ。バンダルゴウで困るかも知れないがカード払いをすればいいや。長旅に出ることも組合長ゴレライアスさんに伝えたし、これで心置きなく出発できるな。




「お待たせ。遅くなってごめんね。」


「ううん、そんなことないわ。何回か絡まれそうになったけどカムイがいるから平気だったわ。」

「ガウガウ」


女だけの集団だもんな。そこにアレクみたいな美少女がいたら当然だ。カムイ、よくやったぞ。

「ガウガウ」


よし、改めて楽園へ出発だ。




眼下に旧スティクス湖跡が見える。変化はない。安心は安心だが、スパラッシュさんが名付けた湖がこのままなくなってしまうのは少し寂しいかな。


「あ、あの……魔王様……」


「ん? 何だい?」


最年少の女の子が話しかけてきた。


「あの……私……向こうで、やっぱり娼婦を……」


「ん?」


「娼婦をしないと……いけないん、でしょうか……」


「さあ? 嫌なら代官にお願いしてみたら?」


その場合、他にどんな仕事をすることになるのか分からんがね。どっちにしてもリリスの言うことには絶対服従の契約魔法がかかってるしな。そこら辺はリリスの胸先三寸だな。

私としてはこんな小さな女の子に娼婦をさせたくはない。しかし楽園の経営に口を出す気もない。少なくとも今は。


「はい……」


ふと思い出した、ベレンガリアさんのことを。

あの人が実家、上級貴族ダキテーヌ家から勘当されたのは初等学校時代だったと思う。確か五年生の時だったような。つまり、この子より歳下の時に。

オディ兄から聞いたが、その時ベレンガリアさんは一人で冒険者をやるぐらいなら娼婦をやると言っていたそうだ。

あの人のことだ。オディ兄とパーティーを組めなかったら本当に娼婦になっていたはずだ。変な人だけど、あれで芯は通ってるんだよな。変な人だけど。


まあいいや。この子とベレンガリアさんを比べても仕方ない。見た感じ平民だし、そんなものだろう。

アレクも少しあきれているような顔をしている。納得して来たんでしょう、と。




「さて、着いたぞ。ここが楽園エデンだ。」


ちなみに降り立ったのは冒険者達の掘立小屋エリア。ここに降りた理由は……


「ん? 魔王?」

「魔王だって?」

「うわぁ! マジで魔王じゃねぇか!」

「おい、女連れてんぞ? あれってもしかして……」

「お、俺、ま、魔王の隣のあの女が……」

「バカ! ありゃ氷の女神じゃねぇか! 指一本触れんじゃねぇぞ!」

「て、ことは……それ以外が……」


新商品のアピール、宣伝だ。


「ようお前ら。この内の何人が娼婦になるのかは分からんが、新人候補だぜ。」


「えれぇ若ぇのもいんな……」

「俺ぁそっちの乳がでけぇ女が……」

「じゃあ俺はあっちのピンク髪の……」


「それより、約束通り宴会やるぞ。一時間後にうちの石垣前に集合な。」


すっかり忘れてたが、こいつらの顔を見て思い出した。今日は楽しく宴会をして、明日出発だな。


「うおおおーー!」

「ほんとかよー!」

「いい肉食わしてくれるんだよなぁ!」

「頼むぜ魔王ぉー!」


在庫は何があったかな。食い切れないほどあるのは間違いないが。




我が家に入る。今日も繁盛してるのかねえ。


「旦那様おかえりなさいませ」


お、執事ゴーレムのバトラーだ。


「ただいま。リリスはいるか?」


「はい呼んで参ります」


こいつらをリリスに引き渡したら……まずは風呂かな。屋敷の風呂にするか、それとも空中露天風呂にするか……

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る