第1140話 猛毒の脅威

やはり山岳地帯は恐ろしい。少しでもスピードを緩めるとあちこちから魔物が襲ってくる。そのうちの何匹かは間抜けにもスライムに取り込まれてしまっていたが。ちょっとぶつかっただけでアレだもんなー。スライムって嫌だねー。


「ニンちゃーん、重くなったんだけどー!」


「このぐらい何てことありません。きちんと魔力を練りなさい。」


ぼやくクロミをマリーが嗜める。先輩だもんな。


さて、そろそろだろうか。景色はどこも同じだからイグドラシルが立ってないとマジで区別がつかないんだよな。




「ニンちゃん! そろそろだよ!」


やっとか。あーキツかった。


「よし、じゃあマリーとクロミはそのまま浮身を使っておいて。僕は毒を獲ってくるから。」


母上の魔道具を借りて、この中に入れてこよう。




くっ……婆ちゃんの呻き声が聴こえる……なんて苦しそうなんだ……

待っててくれよな。きっと私が……


『水操』


毒を少量採取する。くぅっ、液体なのに金操以上に魔力を食うではないか……厄介だな。やっぱ偽物とは全然違うか。


よし、収納したぞ。こいつを少量ずつスライムに注入して実験を始め……「ギャワワギャワワッ!」

コーちゃんどうした! ぬおうっ箱が! 慌てて投げ捨てる!


マジかよ……投げるのが一瞬遅れてたら私の手に毒が付着するところだった……コーちゃんありがとね。「ピュイピュイ」


仕方ない、水操で直接運ぶか。ほんの少しだけ。




「お待たせ。母上ごめん、あの魔道具に入れたら溶けちゃったよ。だからとりあえずこれほど持ってきた。早速やってみようか。」


「やはり本物は違うのね。慎重にやるわよ。」


まずは水で百倍程度に薄め、少しずつスライムに注入してみる。問題なく取り込んでいるようだ。


「ふうむ、まずいな。スライムにだんだん魔法が効かなくなってきている。イザベルはどうだ?」


「ええ、毒を吸収するにつれて魔力抵抗が上がってるようね。このままだと拘禁束縛を解かれてしまうわね。」


「じゃあ手に負えなくなったら毒沼に落とす? 早々と実験が終わってしまうのは困るけどね。」


このスライムが毒を全部吸収してくれたら解決するんだけどな。いや、最悪の猛毒スライムが誕生するのか? さすがにあり得ないか。


「もう少し実験したいわね。そこらに下ろすわよ。そしてカースが拘禁束縛を使いなさい。」


「押忍。じゃあ毒沼から離して……あの辺がいいかな。」


村の跡地なので平地は結構広い。直径百メイル近くあったイグドラシル跡は丸ごと毒沼になってしまっているが……


『拘禁束縛』


母上たちに代わってスライムを押さえておく。実験開始だ。

母上も伯父さんもスライムをちぎったり、毒を汲んで来たりしてあれこれやっている。あ、伯父さんの毒スライムも現れた。


「カース、お疲れだったわね。」


「アレクこそ警戒ありがとね。助かったよ。」


襲いくる魔物を撃退したのはアレクとお姉ちゃんだからな。

あ、お姉ちゃんは毒蜘蛛を召喚してるじゃないか。


「大丈夫なの? さすがのアトレクスも危なくない?」


「分かってるわよ。毒沼の空気を吸わせるだけ。せっかくここまで来たんだから少しぐらい収穫がないとね。」


「あそこは近付くだけで危険だから注意してね。お姉ちゃんは近付かない方がいいよ。」


「そうね。アトレクスだけに行かせるとするわ。さあ、行ってらっしゃい。」

「ギーギー」


うーん、ヤツメファンネルスパイダーか。いくら猛毒蜘蛛でもさすがにキツいよな? スライムみたいな単純生物じゃないだろうし。


あ、お姉ちゃんたら早速苦しそうにしてる。『同調』を使ってるな? 死ぬなよ。




それにしても……スライムって謎の生物だよな。何でも溶かして何でも食べる。食べた物に合わせて進化したり。砂のスライムやアンデッドのスライム、そのうち植物や虫のスライムなんて現れたりしてな。


「カース、最後の実験をするわよ。死汚危神の原液をスライムに吸収させるわ。しっかり押さえておくのよ?」


「押忍!」


さて、この巨大スライムはどこまで吸収できるんだろうな。


母上が毒をスライムの表面に垂らす。一滴、二滴。


あんなわずかな量なのに毒が触れた箇所が見る見る溶け落ちていく。焼けた鉄球を発泡スチロールに落としたらこうなるのかな。いや、それ以上か。

スライムの魔力抵抗が高まる気配はない。つまり、この毒を全く取り込めてないってことになる。まあ、薄めた毒なら取り込めて、なおかつ強くなるってのも意味が分からんが。さすがのスライムも禁術の毒には勝てないってことだな。


「なるほどね。だいたい分かったわ。毒の濃さによって吸収できるかどうかが変わるようね。」


「なるほどね。おまけにスライムを溶かした分だけ毒が消えてるっぽいね。」


これは収穫だ。毒が濃縮されるでもなく見事に消えているように見える。まあ毒一滴に対してスライム一立方メイルぐらい溶けてるけど。


「そうみたいね。じゃあカース。残ったスライムは沼に落としていいわよ。」


「分かった。ちょっと行ってくるね。」


これだけのスライムがあれば少しは沼の毒が減ればいいが……


飛び散らないようゆっくりと降ろす。

うわぁ……沼に触れる端からしゅわしゅわ溶けていくではないか……


スライムはそのまま沼に沈むことなく全て溶けてしまった。途中で降ろすのをやめて浮かせたりしたのだが、上まで浸食するように溶けてしまった。猛毒でもあり強酸でもあるのか。はぁ……スライムも死汚危神も意味が分からなすぎる。参るな……

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