第1067話 アラン VS 砂漠の掃除屋

「お前ら固まれ! 背中を見せるんじゃないぞ! 目の前の魔物だけぁ絶対斬り捨てろ!」


アランの指揮通りに騎士達は戦う。冒険者も同様だ。逃走のタイミングを逃してその場に留まらざるを得なかった者達だ。いち早く逃げ出した平民達はこの場にいない。つまり、足手まといはいない。


「マーティンさん! アンタなんで騎士をやめちまったんすか!」


「あぁ!? 無尽流の都合に決まってんだろぉ! 目の前に集中しろや!」


「帰ってきてくださいよ! 俺らぁアンタの下で戦いてぇんだよ!」


「うるせぇんだよ! 生き残ったら聞いてやるよ!」


アランも騎士達も無駄口を叩きながらも魔物を難なく斬り伏せている。暗闇の中、アランは心眼こそ使えないものの目の前に迫った魔物ならば感知できているようだ。




それから一時間。ひたすら同じ行動を繰り返している。もう何百という魔物を斬り捨てた。剣の切れ味がなくなっても、その度に武器を交換しながら陣形を維持している。騎士達も冒険者達も誰一人壁を崩していない。

魔物はアラン達をスルーして進むものもいれば襲いかかってくるものもいる。


「マーティンさん! へばってないでしょうねー!?」


「当たり前だ! このまま朝までだっていけんぜぇ! おうお前ら! 死にそうな奴ぁすぐ言えよ!」


「舐めんなぁ!」

「俺ぁ平気だぜ!」

「マーティンさんこそ頼んますよ!」

「アンタ甘すぎんだよぉ! 自分の心配しなよぉ!」


「へっ、生き残ったら酒でも飲ませてやるぜ。イザベルの酌付きでな!」


「うひょおおおー!」

「マジかぁ!」

「信じるぜ! 信じるからなぁ!」

「旦那ぁ頼んますよ!」


士気は高いままだが魔物達の勢いは衰えない。かなりの数がグラスクリークへと向かっていることだろう。いや、そちらだけではない。ソルサリエ、クタナツ方面へも……




いつしか、津波のように押し寄せていた魔物がぴたりと止み、辺りは凪いでいた。


「誰か! 光源使えるか!?」


「おう! 任せな旦那ぁ!」


『光源』


冒険者の一人が魔法を使った。


焚き火程度の灯りが夜の魔境を照らす。つまり、それまでは数時間に渡りどいつもこいつも星明かりのみで戦い続けていたということになる。


「どうしたんすか!?」


「やべぇぜ……大物の気配だ! 俺が相手をするけどな……いいかお前ら! やべぇ魔物だったらさっさと逃げろよ!」


焚き火が照らす範囲に徐々に姿を見せたのは砂の塊だった。それも直径五メイルを超す球に近いような形をしている。ずり……ずり……と耳障りな音を立てながら近寄ってくる。


「ちっ、サンドスライムかよ……お前ら近寄るんじゃねーぞ!」


『飛斬』


飛ぶ斬撃がサンドスライムを襲う。ゴーレムやスライムの倒し方は単純だ。体内のどこかにある魔石を破壊すること、それだけだ。カースであれば抜き取ることもできようが、ろくに魔法が使えないアランにそれは不可能だ。しかし、魔力量だけは豊富にあるため飛斬はいくらでも撃てる。数十発の飛斬を連続して撃った結果、たちまちスライムは縦に真っ二つにされてしまった。


「くそっ、ねぇ!」


そう。スライムはいくらでも再生する。魔石を発見し、破壊しない限り。無数の砂の触手が鞭のようにアランに襲いかかる。堅実な防御に定評のあるアランだからこそ無傷で凌ぎきっているが、他の騎士や冒険者であれば到底かすり傷では済まない。


今度は端から斬り裂いていく。砂の触手も胴体もお構いなしに飛斬をぶち当てている。


「すげぇぜマーティンさん! サンドスライムでも相手じゃねぇ!」

「そのままいっけー!」

「やっちまえー!」


「うるせぇぞ! お前らはそっちを警戒してろ!」


魔境のお約束としてはボスクラスの大物が現れると、その一帯から雑魚魔物が消えるということがある。アラン以外の者は大物から離れているが、いつ新たな魔物が現れるか分からないため警戒を緩めるなと言っているのだ。



『ナーモーフ・カーシーギ・イーコール

風よ、その姿を表せ 微風ほのかぜ


アランが使える数少ない魔法の一つ、初級魔法微風。そよ風がサンドスライムに向かって吹き始めた。


『飛斬』


触手だろうが本体だろうが知ったことかと無数の飛斬を乱れ撃つアラン。


サンドスライムはやがてその姿を……

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