第1048話 ドラゴンダイブの滝

翌朝。私達にしては珍しく早く目が覚めた。


「おはよ。今日は何しようか?」


「おはよう。ノワールフォレストの森に行ってみたいわ。」


「いいよ。さっそく今日から頑張るんだね。アレクは偉いよね。」


「どうかしら? 待ってて、朝食を用意するわね。」




寝て待っているとワゴンを転がしてアレクがやってきた。てっきりコーちゃんが呼びに来ると思ったら。


「たまには寝室で朝食も悪くないんじゃない?」


「うん。いいね! わざわざありがとね。」


温かいオニオンスープ。カリッと焼いたパンに香ばしいバター。数種類の生野菜サラダに塩味ドレッシング。薄切りにして焼いたオーク肉。朝からかなりの贅沢だ。




「うん! どれも美味しいよ! さすがアレクだね。」


「ありがとう。カースが用意してくれた材料がよかったのよ。」


たしかにたっぷりと用意はした。ここには二週間ぐらい滞在する予定だが、その何十倍は用意してあるのだ。ここの住人と宴会をするかも知れないしね。

だとしても絶妙な焼き加減や材料の均等な切り方。そういった事は私にはできないからな。アレクの料理は美味しいのだ。




「美味しかったよ。ご馳走様。じゃあ行こうか。」


「どういたしまして。そう言ってもらえて嬉しいわ。」


「ピュイピュイ」


コーちゃんも美味しいと言っている。さすがだ。





さて、ここはノワールフォレストの森の中西部。広大なこの森で行ったことのないエリアなんていくらでもある。今までは中部から東部、北部によく行っていたので、今日は西部ってわけだ。本当に羅針盤は便利でありがたい。


実際のところ中西部とは私が勝手に言ってるだけで、それが正しいのかさっぱり分からない。ここは広すぎるのだから。地道にマッピングしてもいいが、私には大した価値はないな。そりゃあ詳細な地図があれば値段は青天井になるだろうが。


密林、湿地、大河。高地、低山、岩山。ありとあらゆる地形を見ることができるノワールフォレストの森だが、ここ中西部は……滝だらけだ。例えば今、目の前に見えている景色はまるでナイアガラの滝……の高さが三倍になったかのような大瀑布だ。


「すごい……わね……これが噂に名高いドラゴンダイブの滝なのかしら……」


「それ初耳だよ。たくさんのドラゴンが飛び込んだかのようなド派手な滝だもんね。」


「ここには主と呼ばれるドラゴンがいたそうだけど、どこに住んでるのかしらね?」


「ドラゴンが!? それは怖いね。もう少し景色を眺めたら場所を変えようか。」


あ、でも少し泳いでもいいな。人生で一度ぐらいは滝壺に飛び込んでみたかったしね。


「そうね……ドラゴンと戦うカースを見てみたい気もするけど……」


「もーアレクったら。無茶を言うもんじゃないよ。それより泳がない? 『水中気』と足裏からの『水滴』は使えるようになった?」


「カースの方が無茶言ってるわよ! こんなに寒いのに! その二つはどうにか使えるけど……」


そりゃそうだ。十二月末、冬休みの真っ最中なんだから。


「じゃあ少し待っててくれる? ちょっと滝壺に潜ってくるから。」


「ピュイピュイ!」


コーちゃんも行きたいそうだ。


「もぉ……早く帰ってきてよね!」


自動防御を薄く張るテクニックを身につけてからというもの、季節感が全くなくなってしまった。寒中水泳ですら楽勝だ。当然海パンに着替えることすらしない。


と、思ったら……顔にも自動防御を張っているため水中気が使えない。そういえば普段だって口周りには張ったり張らなかったりだもんな。うっかりうっかり。では口周辺だけ解除。うっわ、冷た! 当たり前か。そしてすごい流れだ。ちょっと滝壺に近づいただけなのにもう巻き込まれた。そりゃ普通は死ぬわな。そして一気に水底へと。大きい滝ってこんな流れになってたのね。勉強になった。ところでコーちゃんはどこに行ったんだ?


『水中視』


あ、いた。そこらの小魚を器用に食べているでないか。よく小魚なんか見つけられるもんだな。この激しい流れの中で……


よし、そろそろ帰ろう。口の周りが冷たすぎてもう麻痺しちゃってんだよな。それにしても水底ってのは意外にゴツゴツしてんだな。水流に削られて滑らかになってそうなのに。こんなところで水流に身を任せてしまったら、たちまち擦り下ろされてしまうな。


よし、堪能した。アレクが待ってるから帰ろう。足裏からの水滴をパワーアップ! ドラゴンブーツ越し、自動防御越しだろうと発動に全く問題なし!



ん? 水底が揺れてないか? 地震……なわけない。


ん? 目? なんで岩と岩の間に目が開くんだ? 私の身長より大きな目が……


『ギャワワッギャワワッ!』


突然岩が裂け、私は水流により吸い込まれていった……

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る