第1046話 フランティアの興亡

私とアレクは腕を絡めて歩いている。まっすぐ自宅へと。


「今回も私が首席だったわ。でも、アイリーンがいないのに……胸を張って首席だなんて言えないわ……」


数少ない友人にしてライバルのアイリーンちゃんの自主退学。もうすぐ卒業だってのにな……


「次に会った時に負けないようにアレクも頑張らないとね。」


「そうね。アイリーンには負けられないわ! 明日から楽園で頼むわね!」


「うん。お互い頑張ろうね!」




そして我が家へ到着。まずは風呂だな。昼からも放課後も色々して汚れたし。


「ギャハハハ! だからカースってよぉ……」

「アハハハ! だからボスってさぁ……」

「オホホホ! やはり旦那様は……」

「そ、そうなのですね……」


うん。いつもの光景で安心した。


「ただいま。おーラグナ。セグノがよろしくってよ。」


「ああボス、おかえり。なんだいボスは王都に行ってきたのかい?」


「まあな。ゼマティス家当主のお手付きになってたぞ。」


「ふふ、遊ばれて終わりじゃなかったのかい。ゼマティスの旦那も人が良いねぇ。」


闇ギルドの元幹部が上級貴族当主の妾。大出世だな。ラグナも似たようなものか。


「え!? カース王都に行ってきたの?」


「あれ? 言ってなかったっけ?」


そういえばアレクに言ってなかったっけ?

よし、事情説明だ。もちろんディオン侯爵家の件は内緒だ。




「そうだったのね……フランツウッド王子が……」


「やるじゃねぇか。王子じきじきのお誘いかよ。で、魔法学院にぁ行くのか?」


「それも悪くないと思ったんだがな。やはり予定通りに旅に出るつもりさ。今のところな。」


「カース……いいの? 私のことなんか気にしないで好きに決めていいのよ?」


アレクが心配している。将来の栄達を考えたら魔法学院は普通にエリートコースだもんな。むしろアレクだって将来を考えたら魔法学院に行くべきなんだけどな。


「今考えてるのはね。旅から帰った後にこそ、魔法学院に行くのも面白いかもってことだよ。勉強なんて何歳になってからでもできるんだからさ。」


魔力の伸びや思考の柔軟性、暗記力なんかを考えたら若いうちに行っておいた方がいいんだけどね。


「カース! すごいわ! その考えはなかったわ! 確かにカースは国王陛下直々に進学の自由をいただいているものね! 何歳からでも入学できるわ!」


「行くときはアレクも一緒だよ。王子もそう言ってたから。」


「ああっ、カース!」


いつものように抱きついてくるアレク。うーん、かわいいなぁ。抱きしめてあげよう。


「アレク!」


「お前ら俺らのことを無視してんじゃねぇよ……」


うるせぇなダミアン。さっさと帰れよ。いや居候だったか……ラグナも居候なのか?


「お茶が入りましたよ。旦那様が何年お留守にされてもこのお家は私が守っておきますわ。」


「マーリンありがとう。よろしく頼むよ。お土産持って帰るからね。」


五年分ぐらい給金を払っておこうかな。


「できることなら……私はお二人のお世話に同行したいと思うのですが……」


おお、リリス。献身的だね。出張手当を付けてやろうか。でもなぁ……


「うーん、リリスは魔力も高いし多分それなりに戦えるよな。だからこの家とマーリンを守って欲しいんだよな。」


「旦那様がそうおっしゃるなら。でも、身の回りのお世話は必要ありませんか?」


そうだなぁ……掃除や洗濯は私がやる。炊事はアレクがやるし、私も肉ぐらいなら焼ける。多分リリスが淹れたお茶の方がアレクより旨いぐらいか? 僅差だろうけど。

身の回りの世話には夜のお相手も含まれるが、それこそ私には必要ないしな。うーん、あ! いいこと思いついた!


「リリス。旅にはついて来なくていい。代わりに学校に行ってみないか? 魔法学校でも料理の修行でも何でもいい。何かやりたいことはないか? もちろん金は出すから心配するな。」


「旦那様……ありがとうございます……考えさせていただき、ます……」


あ、感涙してる。思いついてよかった。だってこの家は広いけど私達がいなくなったらすることなくてだいぶヒマになってしまうもんな。ダミアン達が入り浸りそうだけど。


「さあさあ夕食の時間ですよ。たくさん食べてくださいね!」


いつもながらマーリンはタイミングがいい。元アレクサンドル家のメイド長か。料理長は別にいただろうに料理まできっちりこなせるとは凄いもんだ。




あぁ美味しかった。旅に出てしまえば当分食べられなくなるのが残念だ。たっぷり作っておいてもらって、時々食べよう。うん、それがいいな。


そういえば気になってることがある。


「ダミアンさあ。例のトンネルの件どうなった? 領都に有力冒険者が続々と集まってんだよな?」


「おお。バーンズが上手くやってくれた上によぉ、クタナツ組合長まで来てくれてな。春までの期間限定じゃああるが冒険者をまとめてくれることになったぜ。領都のギルドぁ形無しだがな。」


「え? 組合長まだ領都にいんの? 春まで?」


「おお。娼館やらマリアンヌの所に泊まったりしてるらしいぜ。面白れぇオッさんだぜ。」


マリアンヌ、と言えば受付嬢だったかな? 確か黒百合とか。あのオッさんはナンパまで凄腕なのか。自分の歳を考えろって話だよな。でも春で引退だよな? それからどうするつもりなんだろ。


「じゃあもしかして春までに動き始めるのか?」


「おお。その可能性が高くなってきたぜ。どうにか予算の目処もついてな。今はルートを検討してる段階だ。ムリーマ山脈の南側の領主どもからするとよ? 是が非でも自分のとこに通って欲しいもんなぁ。」


「なるほど。色々と考えることがあんのな。春までだったら少しは助けてやるからさ。オメーもがんばれよ。」


「おお。期待してんぜ。まあルート選定が難航しそうだがよ。」


「あ、そうそう。アブハイン川の上流にはスペチアーレ男爵の領地があるからな。あの辺は避けた方がいいかもな。」


「くっくっく。そんなことを加味するわけねぇだろうが。まああっち方面は王都に遠いからよ。ハナから候補じゃねぇさ。」


それなら一安心。男爵の領地が荒れたら大変だもんな。さてと、風呂に入ろうかな。ダミアンも意外に大変だよな。ここで活躍しとけばほぼ確実に辺境伯の座はゲットできるもんな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る