第1044話 魔法学校での出来事

王都を出てフランティア領都へと帰る。その道中でムリーマ山脈に寄って大岩をいくつか収納しておこう。

以前庭石をあれこれ加工したらひどくダサい庭になってしまったからな。天然石をさりげなく転がす風流な庭にするんだ。その点、辺境伯家の庭っていい感じだよな。あれを手本にしよう。


前回来た時はここでグリフォンに遭遇したんだっけな。落雷が全然効かなかったんだよな。ペガサスの卵、マルカを拾ったのもこの辺だったなあ。




特に強い魔物とも出会わなかった。普通のオーク、オーガ、トロル。そのぐらいだ。放課後までにはまだまだ時間があることだし、たまには自分で解体をやってみようかな。フェルナンド先生の言いつけをほとんど守ってなかったことだし……




一時間後。オーク四匹の解体が終わった。魔法を併用し、吊り上げたり、血抜きをしたりすることでかなりスムーズに行うことができたのだ。これはいい発見だ。最初の一匹に三十分ぐらいかかったが、二匹目は十五分、三匹目は十分、四匹目でついに五分ちょいってところだ。ミスリルの解体ナイフの切れ味がいいってこともあるが、金操を駆使してオークの手足や内臓を思うままに引っ張ったことで驚きの作業効率となった。

やはりフェルナンド先生の言うことに間違いはない。解体って大事だわ。


よし、この勢いでオーガの解体にも挑戦してみよう。オーガって肉はあんまり高く売れないけど角やら骨が高いんだよな。しかしオークより大きいし肉は硬いしで難しかったりする。コツコツ行こう。


一時間かかってどうにか二匹。今日はここまでかな。なお、オークもオーガも売れない部分の内臓はコーちゃんが食べた。早く食べないとすぐ傷むからな。コーちゃんが食べなかった部分は全て土に埋めておいた。燃やしてもよかったのだが、今から帰るってのに魔物が来たら嫌だからね。最後に私とコーちゃんに付いた血をきれいにして終わりだ。さあ、帰ろう。


それにしても……魔力を失っていた頃は王都からここまで二、三週間もかかったんだよな。それが今では一時間半とかからないか……我ながらとんでもないよな。




さて、放課後まであと一時間ぐらいか。ならばギルドに素材を売りに行こうかな。お金を稼がないとね。


この時間帯は混雑しておらず、並ぶことなく売り終えた。やはり解体済みだと一割引かれないのは地味にいいものだな。オークの肉は売らずトロルはそのまま売ったが、全部で金貨二十枚ってところだ。さすがに金貸しほどは儲からないが、これで十分だろう。むしろ今の私から素直に金を借りる奴なんているのか? いればいいのに。今さらなのだがトイチは高利すぎるか……いや、鴉金のシンバリーなんて奴だっていたんだ。トイチは高くない。


さて、魔法学校の校門前でアレクを待とう。明日からはついに冬休みだ。およそ二十日ほどアレクと二人きりで、おっとコーちゃんもだね、みんなで楽しく過ごそうじゃないか。「ピュイピュイ」


校門前で待っていると、他所から歩いて来たのは……アイリーンちゃんか……?

ずいぶん見た目が変わったな。ボサボサだった髪は短く整えられており一段とボーイッシュな印象を受ける。反面、服装は露出が多いが……寒くないのか? もう年末だぞ?


「やあアイリーンちゃん。おしゃれになったね。よく似合ってるよ。」


「いいところで会った。中で稽古をつけてくれ。どうせアレックスを待っているんだろう?」


「まあ、いいけど……」


全然私の話を聞いてないな……まあいいや。いつものように守衛さんに挨拶をして校庭へと立ち入る。もちろんアレクにも伝達済みだ。


「とりあえず魔力なしで相手をしてくれないか?」


「いいよ。武器はありにする?」


「いや、せっかくだから素手でどうだ? 少し試したいことがあってな。」


私に勝ち目ないじゃん……


「まあ、いいけどさ……」


「では、いくぞ!」


体を沈めるように私に接近するアイリーンちゃん。いきなり前蹴り、しかも金的! ミニスカートでそんなことして……下着は黒か。


わずかに躱した私をすかさず殴ってくる。それは素直に防御しておこう。


「いきなり急所なんか狙っても当たるもんじゃないよ?」


「さすがにカース君は甘くない、な!」


今度は回し蹴りかよ……脇腹を狙っているようだからそのまま蹴らせてやった。アイリーンちゃんの右脚が私の左脇腹を襲う。私はその脚を捕まえて、アキレス腱を極める。が、左脚で私の腹を蹴った勢いで脱出されてしまった。さすがに極め方が甘かったか。寝技や関節技の稽古なんかやってないし、できる相手もいない……あ! アレクとやればいいんだ! お互いのためになる! アレクの護身術としても最適だ! これはいいアイデアだ!


「脇腹を蹴られても微動だにしないとはな……」


「装備がいいからね。」


私の装備は反則だもんな。


「ならば! これはどうだ!」


避けるに決まってる。首に貫手ってマジか? 殺す気か? しかも避けたと思ったら反対の左手から砂をまかれた。いつ拾ったんだよ! 容赦なさすぎだろ……目をつぶりつつ一歩下がる。それに合わせてドロップキック……だと!? アイリーンちゃん何考えてんだ!? 腹にくらった私は少し後ろに飛ばされたが、倒れるほどではなく、踏ん張ることはできた。しかし、その隙を見逃さないアイリーンちゃん、猛然と掴みかかってきた。腕力的には私と同じ程度だろうに、さっきから何を考えてるんだ?

お互い向き合い、手四つに組んでしまった。握力も同程度か。


「アイリーンちゃんは素手でも強いね。」


「女の私と同じ程度の腕力で恥ずかしくないのか?」


痛いところを突いてくるじゃないか……


「ぐっ!」


私の顎を目がけて頭突きかよ……こんな状態からよくもまあ……こっちは腹に膝を突き立ててやったから痛み分けだがね。あー痛い……


くそ、まだまだ攻めてきやがる……

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