第1039話 国王のチーズと許可証

メイドさんに連れられて王宮内を歩く。フランツの自室からさほど離れていないようだ。十分とかからず到着した。ここは国王の執務室かな?


「失礼いたします。カース・マーティン様をお連れいたしました」


内側からドアが開き、私は中へと立ち入った。そこには当然のように国王と、見覚えのある側近さんがいた。


「カース、よく来てくれた。元気そうだな。まあ座れ。」


「はい、失礼します。」


気のせいか……少し見ないうちに国王の奴、老けたんじゃないか? 前回会った時は五十代後半って見た目だったが、今は六十代前半に見える。


「別段用があったわけではないのだがな。せっかくお前が王都に来てくれたのだ。余に顔ぐらい見せてくれてもよかろう?」


「ええ。陛下に拝謁できた喜びに打ち震えております。」


「ふあっはっは! 心にもないことを言うではないか! お前も成長したものよのぉ!」


このオッさんは嫌いじゃないからな。これぐらいのリップサービスはするさ。


「そうそう、こちらスペチアーレ男爵からです。ぜひ陛下にお飲みいただきたいそうです。」


本当は私が貰った物だが、半分ぐらい分けてやってもいいだろう。


「ほう? ダンとよしみを得たか。抜け目のない奴よ。どれ……」


国王の奴、いきなり飲みやがった。毒見もなしに。仕事はいいのか?


「うむ。絶品だ。さすがはダンよの。センクウの酒も旨いがこれは別格だ。」


「ピュイピュイ!」


コーちゃんが自分にも飲ませろと言っている。


「そなたも飲むのか? ならば近う寄れ。」


「ピュイピュイ」


私だって飲みたいぞ。コーちゃんは国王の首に巻きついて、国王のグラスから酒を飲んでいる。無礼者って言われそうだが側近はスルーか。あ、そうだ。せっかく王都に来たんだしグラスを買おう。アレクとペアグラスだ。


「ふむ、つまみが欲しいな。アレを持て。」


アレとは? 国王の指示により側近さんが動く。私やコーちゃんが酒を飲む時っていつも焼いた肉ばっかりなんだよな。国王のつまみとはどのようなものだろうか。気になるな。




二分後、側近さんが戻ってきた。


「カース殿もどうぞ」


「いただきます。」

「ピュイピュイ!」


おお、チーズだ。それも酒場でたまに出てくる安っぽいやつではない。スモーキーで味が濃い! これは旨い!


「うむ、旨い。ダンの酒によく合う。カースよ、どうだ?」


「美味しいです。初めて食べる味です。普通のチーズと何が違うんですか?」


「これはゾルゲニアチーズと言ってな、聖地バラモロードにて放牧されているゾルゲンバーバリシープの乳から作っている。それを数年熟成させた後、燻して完成というわけだ。名人の業なくしては生まれぬ珠玉の味よ。」


それはすごい。いいものを食べてしまった。コーちゃんも大満足だ。それにしてもやっぱ国王は良い物食べてんだなあ。聖地バラモロードか……勇者が育った寒村だったかな。ますます行ってみたくなった。


「そういえばカースよ。お前に授けた数々の許可証、それから身分証だがな。余の退位に伴い効力を失ってしまう。三月以降にクレナウッドが再発行する故、取りに来るがいい。」


「お気遣いありがとうございます。喜んで参ります。」


すっかり忘れてた。国王が死ぬまで有効とは聞いていたが、退位した場合のことは知らなかったもんな。




酒もなくなり、コーちゃんも国王から離れた。そろそろお暇しようかね。こちらから言い出すわけにはいかないが。


「カースよ。本日は大儀であった。またまみえん日を楽しみにしているぞ。次はアレクサンドリーネも連れて参るがいい。」


「はい、陛下もどうかご壮健で。それでは失礼いたします。」


さすが国王。空気の読めるレベルが半端じゃないな。さてと、魔法学院に戻ろうかな。さっきの続きを楽しむとしよう。

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