第1028話 カースの急襲

「てめえガキぁ! 騙しやがったなあ!」

「ただの七等星じゃねえなぁ!?」


おっ、理解が早い。それなりに腕もある二人組ってことか。

とりあえず水温五十度。


「ぐあぉあちちちぃ!」

「なにしやがる! あっちぃ!」


もう少し様子見。


「や、あち、やめろ! なにが、あっち、目的だあ!」

「何とかいえや! あっ、あちいいいあ!」


「ちょいと聞きたいことがあるだけさ。正直に教えてくれたらこの金貨もやるし、命は助ける。約束するぜ?」


「ふざけんな! そんならはじめからそう言えやぁ!」

「あち、ダブルアクセルなめんなぁ! ちっと魔法が使えるぐれぇで吹きあがってんじゃねぇぞ!」


口しか動かせないくせに。水温六十度。


「あじぃぉあいい! やめろこらぁ!」

「どこだ! どこに口利いてほしいってんだぁ!」


そんなことは言ってないぞ。


「聞かれたことに答えな。正直に教えるかどうかだ。」


「あががぁ! わかったぁ! わかったっかっらっぁば」

「くそがぁ! ダブルアクセル舐めんじゃねえ!」


一人にかかったからもういいや。水壁解除。


「よし、お前に金貨十枚やるよ。よかったな。生きて帰れるぞ。」


「あ、ああ……」

「ふざけんな! 俺をどうするってんだぁ!」


ここで服装チェンジ『換装』


「この服装見てを俺が誰か分からないか?」


私のトレードマーク。黒いトラスザーズ、白いシャツ。そして黒いウエストコート。最近はカフリンクスにも気を使っているんだぞ。


「あ、ああ、ま……」

「ふざけんな! そんな流行の服装なんざ誰でも……カース? フランティア?」


おっ、気付いたか。嬉しいねえ。


「正解。お前らは魔王相手にタカリかけたんだよ。そりゃ死ぬよな? でも素直なそっちの君、よかったね。命も金貨十枚もゲットだ。」


「わかったぁ! 約束する! 何でも言うから助けてくれぇえええーっどっあがっ」


おっと遅れてかかったか。よかったねえ。死なずに済むよ。


「よし、お前らに聞きたいことなんだけどな……」




やったー! こいつらディオン侯爵家の場所を知ってやがったー! 大当たり! 苦労したかいがあった! ちなみにこいつらはディオン侯爵家の隣の隣、ファイアフィールド伯爵家のお抱えだそうだ。こんな奴らをお抱えにしてるようじゃロクな貴族じゃなさそうだ。


「さーてお前ら、よく話してくれたな。もうお前らに用はないから死ね。と、言いたいところだが俺は約束は守るタイプなんでな。命は助けてやるよ。」


「ほ、ほんとに……」

「頼むぅ! 助けてくれぇぇーー!」


こいつらって土壇場で正反対の本性を現しやがったよな。


「なーに、簡単なことだ。今日のことを誰にも言わなければいいのさ。誰に会って何を話したってな。如何なる手段であれ他人に伝えようとしなければいい。簡単だろ? 約束できるな?」


「あ、ああっのねひなっぶ」

「言わねええむまってひね」


よし、かかった。


「もし漏らそうとしたら二人まとめて二度と口が開かなくなるからな。いいな?」


「あ、ああっねめぼ」

「おう言わねてねへれ」


めちゃくちゃよく効いてるな。


「よし、そんじゃあお前ら帰っていいぜ。こいつはサービスだ。」


高級ポーションを振りかけた上に服を乾かしてやる。


「本物だったんだな……」

「これが魔王……」


さて、もう今夜のうちに行ってこよう。面倒なことはさっさと済ませるに限るからな。でもまだ時間が早いな。もう少し夜が更けるのを待った方がいいだろう。




私は鞄からコーちゃんを出してあげた。ずいぶん待たせてしまったね。


「ピュイピュイ」


お腹空いた? もう少し待ってね。とりあえず干し肉でも食べるかい?


「ピュイピュイ」


分かってるって。魔力もしっかり込めるとも。




こうして路地裏でコーちゃんと戯れること一時間半。そろそろいいだろうか。魔力庫から『霞の外套』を取り出し身にまとう。コーちゃんは外套の中、私の腹に巻きついて襟元から顔を出している。


『浮身』


第三城壁内に入るわけだが、かなり上まで登ってみた。何か魔力的な警報があるかも知れないからな。そうやって高高度から直接舞い降りる。ディオン侯爵家の屋根へと。『暗視』を覚えておいてよかった。紋章も聞いていた通りで間違いない。ここだ。

さーて、当主の部屋はどこかなー。こんな時って母上みたいに短距離転移が使えたらなぁ……ドアや窓を開けなくても侵入できるんだろうな。私は未だに魔法陣の上のコーヒーカップすら動かせないってのに。


どこから行こう? 魔力探査でてっとり早くいきたいところだが、さすがにバレかねんからな。最初は慎重にやろう。庭にも警備がいるしね。




それにしても『霞の外套』は便利すぎる。廊下をすれ違ってもバレなかったんだから。ちなみに庭の警備はお抱え冒険者、建物内部の警備は騎士のようだった。




辺境伯の執務室のような雰囲気のドアを発見。内部に人気はない。せっかくだから証拠書類か何か探ってみるべきか……

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る