第991話 帰らぬアレクサンドリーネ

領都に無事到着。


「じゃあリゼット、セプティクさん。今日はありがとう。また何かあったら頼むね。」


「こちらこそありがとうございました。カース様のためなら何でもいたしますので!」

「ありがとうございました。今度こちらのお屋敷の方にも点検にあがりますので。」


そういやここの我が家にもスライム式浄化槽はあるもんな。浄化槽部屋の鍵がないが……辺境伯家に行けば分かるかな?


「ああ、頼む。じゃあまた。」

「ピュイピュイ」

「ガウガウ」


城門前で二人と別れて帰ろうと思ったら……


「リゼット、何やってんだ?」


「カース様のお屋敷までご一緒してはいけませんか?」


「そりゃまあ構わんが。」


辺境伯家三男の婚約者が街を見知らぬ男と歩いてもいいのか? 知らないぞ?




「会長! 探しましたよ! どちらに行かれてたのですかぁー!」


突然登場したのは役立たずの護衛。えーっとジャンヌだったか。


「あらジャンヌ。あなた今日も休みじゃなかったかしら?」


「確かにお休みをいただいてましたけど! ふと会長が心配になったもので! どちらに行かれてたのですか!?」


「ふふ、カース様とデートよ。野暮なことは言わないの。だから護衛はいらないわ。明日からまた頑張ってね。」


「そ、それはもう。で、会長どちらに行かれてたのですか?」


「天国かしら? カース様ったらすごかったんだから。」


「そ、そうなのですか! それは一体どこの連れ込み宿で!?」


何なんだこいつは……リゼットの浮気の証拠でも掴みたいのかな。役に立たないにもほどがある護衛だな。


「うふ、内緒。じゃあまた明日ね?」


「ああ、会長そんな……」




「あいつはいつまで泳がせとくの?」


「どうしましょう? たった一度だけ役に立ってくれたらそれでいいんですわ。それまではこのままですわね。」


「ふーん。色んな考え方があるんだな。」


スパイは排除するだけが能じゃないんだな。さて我が家に到着。




「おかえりなさいませ旦那様。」

「おかえりなさいませ。」


マーリンとリリスが揃って挨拶をしてくる。


「ただいま。アレクは帰ってきてる?」


「いえ、まだのようです。ではお食事はお嬢様の分もご用意しましょうね。」


「それで頼むよ。もちろんリゼットの分もね。」


「かしこまりました。」


「カース様ったらやっぱり優しいお方! ダミアン様に嫁ぐ我が身が恨めしいです……」


嘘つけ。


「ダミアンと結婚してもここに来る気満々だろ。どうせダミアンもちょくちょく来そうだし。」


「ですよね! ではお風呂にしましょう! さあ入りましょう!」


「ガウガウ」


そうかそうか。


「カムイと入っててくれよ。そんでしっかり洗ってやって。カムイを相手に点数稼ぎするのも悪くないだろ?」


「もぉー仕方ないですね。アレックス様が来られたらカース様もお風呂に来てくださいよ?」


「来たらな。」


「ガウガウ」


「カムイが早く洗えってさ。頼むな。」


「もぉー! 行くわよカムイちゃん。」


「ガウガウ」


ほんとカムイのやつ、いつからこんなに風呂好きになったんだ? 野生の誇りを失ってないだろうな?

さーてアレクはまだかなー。




「おう帰ったぜ。」


ダミアンかよ。ここはオメーんちじゃねぇぞ。


「おかえりなさい。」

「おかえりなさいませ。」


マーリンもリリスもきっちりしてるのね。


「おうカースいたのか。いい酒持ってきたぜ! 飲むよな?」


「おお。飲む飲む。ただしアレクが帰ってからな。オメーはそれまで適当に何か摘んでろよ。」


私はまだ食べないけど。


「ピュイピュイ」


コーちゃんは待ちきれないよなー。いいんだよ。好きに飲み食いしてていいからね。リリスがさっとツマミを出している。手際がいいし結構うまそうだな。


「おーリリス。いつもすまんな。ありがとよ。」


「いえ、お口に合えば幸いです。」


おっ、リリスとダミアン。何かあるのか?


「ピュイピュイ」


コーちゃんもリリスのツマミが好き? 飲兵衛だねえ。




アレクが来ない……

そろそろ日没だぞ……アレクが約束を破るはずがない。もしかして……何かあったのか?

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