第919話 生死の境
「ガウガウガウガウ!」
う……うぅん……カムイ、どうした?
「ガウガウ!」
コーちゃんが呼んでる?
すぐ近く?
「カース……?」
「アレクは寝てて。ちょっと出てくるね。」
一瞬で服を着替えて窓から飛び出す。カムイ、案内を頼む。
「ガウガウ」
着いた。我が家と行政府の中間辺りに……ダミアンとリゼットが……倒れていた……
辺りには一面の血が……
「ダミアン! リゼット! しっかりしろ!」
「ピュイピュイ!」
コーちゃん! 大丈夫!?
いや、それよりもポーションだ!
二人にぶっかける!
「ピュイピュイ!」
え? コーちゃんもやる?
そう言ってコーちゃんは市販のポーションを飲み込んだ。そして次にダミアンの口に頭を突っ込んでいる。リゼットにも同じことをしている。胃袋に直接飲ませているのか。
よし、次だ。
二人をミスリルボードに乗せて治療院まで運ばねば。確かギルドの近くにあるはずだ。
「カース!」
アレクも来てくれた。カムイ、わざわざ引き返してアレクを案内してくれたのか。
「アレク! 僕はこいつらを治療院に連れて行くからここをお願い! カムイも!」
「分かったわ!」
「ガウガウ」
くっそ、なんでこんな夜中に出歩いてんだよ! 護衛は何やってんだ!
よし、着いた!
「おい! 急患だ! 診てくれ!」
くそ、閉まってんのか!? そんなわけないだろ!
激しくドアを叩くも反応がない!
『風球』
ドアをブチ壊しても中身はもぬけの殻だ。くっそ、どうなってんだよ!
行くしかないのか……
二人の命には変えられない……
コーちゃん、二人の命を頼むよ。私は全力で飛ぶから!
「ピュイッ!」
行くぜ帰るぜクタナツ! 全力で飛んでやる!
体感で四十分、クタナツの実家……に帰りかけて
無尽流の道場に着陸。両親はどこで寝てるんだ?
とりあえずアッカーマン先生夫妻が暮らしていた母屋を叩いてみる。
「誰かいませんか! 緊急です!」
くそ、物音一つしない! ハルさんもいないのか!?
なら治療院だ!
「すいません! お願いします!」
よし、ここなら治癒魔法使いがいるだろ!
「カース!?」
「母上!? 何やってんの!?」
「今それどころじゃないの! 後にしなさい!」
母上が鬼気迫る表情で治療をしている相手は……
「父上! は、母上、父上がどうして! 何が!?」
「黙ってなさい!」
母上に余裕がない……見たところ父上は血塗れだ……どこを怪我しているのかすら分からない……
「坊ちゃん! ポーションの類はお持ちですね? 全部出してください。」
「マリー……いいよ。全部出す。これ、姉上から預かってたゼマティス家のポーションも。」
「カース! それを寄越しなさい!」
「も、もちろん……」
母上がまともじゃない……私からポーションを乱暴に奪いとるだなんて……
当然か……一体何が……
「マリー、この二人を診てくれない!? この臭いポーションも使って!」
「ええ、診てみましょう……」
ひとまずマリーが診てくれるんなら大丈夫だろう…….
落ち着いて周囲を見渡してみると、怪我をしているのは父上だけではない。十数人が倒れ伏し、治癒魔法使い達が必死で治療にあたっていた。
「ピュイピュイ!」
コーちゃんも父上に直接ポーションを飲ませている。くっそ、一体どうなってんだ!?
「カース! 来なさい!」
母上のお呼びだ。
「押忍!」
「手を出して!」
「押忍!」
血塗れの手で私の手を握る母上。もしかしてこれは……
「そのままよ! 錬魔循環してなさい!」
「押忍!」
これはあれだ。王都の治癒魔法使いナーサリーさんもやっていた魔力を吸い取るやつだ。さすがに母上が吸い取る魔力量はナーサリーさんとは桁が違う……たぶん二桁ぐらいは。
思えば母上は私が小さい頃、魔力放出を教える前段階として何度か私から魔力を抜いていたな。ナーサリーさんは母上から教わったのか。
でも、来てよかった……まさか父上の危機だなんて……
それから母上は幾度となく私から魔力を吸い取っていった。
「ふぅ、これでアランはもう大丈夫……カース、待たせたわね。マリー、状況は?」
「ギリギリです。傷はあらかた塞がっておりますが、血を流しすぎているようです。」
「分かったわ。交代するわよ。あら、確か辺境伯家の?」
「そうなんだよ。母上お願いだよ! ダミアンを、リゼットも助けてやってよ!」
「ええ、分かっているわ。マリーはそっちを頼むわね。」
「はい奥様!」
くそ……ダミアンの野郎……弱っちいくせに夜道なんか歩きやがって……
不幸中の幸いだったのはコーちゃんが付いていてくれたことか……もしコーちゃんがいなかったら朝には冷たくなっていただろうな……
いや、それどころかきっちりトドメを刺されていたはずだ。コーちゃんがいたからこそ、何らかの理由でトドメを刺せぬまま犯人は逃走したんだろうな。
まあいい……犯人についてはアレクが何とかしてくれるはずだ。カムイだっているんだから。頼むぞ……
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