第915話 ムリーマ山脈の狩り

魔物あるあるなのかも知れないが、ボス的な魔物が現れると、他の雑魚って姿を見せないんだよな。それでも現れるとしたらそいつより強い奴だけなんだろうな。


さて、ボスオーガだが動きが速い。鈍重なオーガにしては珍しくドスドスとアレクに迫っている。アレクはアレクで距離をとろうとするが、走っていては間に合わない。『浮身』と『風操』で巧みに飛んでいる。


しかし、高速飛行中に他の魔法を使うことは難しい。従ってある程度距離を稼いだら着地して魔法で攻撃、そしてまた逃走を繰り返している。


水中で一つの魔法を使うのも難しいが、空飛ぶ魔法を使いながら他の魔法を同時に使うのも難しいんだよな。だから魔法使いは空中戦を避ける傾向がある。私には関係ないが。


さて、そんなボスオーガは動きが素早いだけでなく攻撃力、防御力も高い。奴の間合いに入ってしまえば終わりだ。『落とし穴』には引っかからず『氷弾』も防がれている。もう魔力だって限界のはずだが……


その時だった。アレクは向きを変えボスオーガへと突っ込んでいった。なんて無茶を……


ボスオーガから見ればアレクは足元に纏わり付く子犬のようなものだろう。踏み潰そうと足を上げ、下ろす! 危なっ! 間一髪じゃないか。アレクは踏み付けの衝撃で飛ばされている。しかし、間髪入れずかかと付近に走り寄り、斬りつけている。あれはサウザンドミヅチの短剣!


たったの一振りでオーガは倒れ込む。まさかあの一発でアキレス腱を斬ったのか!? 倒れたまま両手足をバタバタと振り乱している。アレクが危ない!


しかし心配は無用だった。アレクはとっくに距離をとって様子を見ている。さすがにここまでかな。




「アレク、心配したよ。見事だったね。」


「カース……疲れたわ……もうダメ……」


「いいよ。トドメは僕が刺しておくね。」


「ごめんなさい、お願いするわ……」


あの巨大なオーガにギリギリまで接近して見事アキレス腱を一撃か……真似できないな……


『狙撃』


暴れるオーガの目玉に当てるのは普通なら難しいが、私の魔法はホーミングだからな。狙った所は外さない。


息絶えたオーガを収納したらお昼にしようかな。


「ガウガウ」


カムイは狩りに行くそうだ。手強い相手なんているのか?


「ピュイピュイ」


コーちゃんも付いて行くのね。夕方までには帰ってきてね。




「じゃあ二人でお昼にしようか。肉でも焼こうか?」


「ふふ、お弁当作ってきたのよ。」


なんと!? いつの間に!? さすがアレク。





「いやぁおいしかったよ。ありがと。」


「どういたしまして。ねぇ、お昼からはカースのカッコいいところが見たいわ。」


「もちろんいいよ。休憩してからね。」


「ええ、お願い……」





一時間後。


「ふう。そろそろ行こうか。」


「はぁ、はぁ……ええ……」


天気はいい。どっち方面に行ってみようかな。その前に『氷壁解除』そして『榴弾』


魔物が相当集まってたんだよな。私は素材になんて拘ってないからな。穴だらけになったって構いやしない。


「いつも通りめちゃくちゃね。うっとりしてしまうわ。」


「いやぁ照れるなぁ。」


さて、収納収納。




では出発。高度を低めに飛んで乱獲してくれよう。珍しい魔物はいないかなー。





全然いなかった……雑魚としか出会わなかった……




そして夕方。昼までいた位置まで戻ってみると、カムイが帰ってきていた。コーちゃんは?


「ガウガウ」


え? 付いて来いって?

そう言って走り出すカムイ。どこへ行くんだ?


カムイの移動はかなり速い。まさに疾風だ。


そして五分後。そこは岩場だった。峻険ってほどではないが、ゴツゴツしており歩きにくそうだ。そしてその岩場にはワイバーンのみならず、コカトリス、バジリスク、ガルーダとムリーマ山脈のみならず魔境で厄介とされる魔物達が転がっていた……だから私は雑魚しか見つからなかったのか……

ちなみにコーちゃんはそこらの魔物を貪り食っている。


「すごいわ……それなのにカムイったらほとんど汚れてないのね……」


「ガウガウ」


毛並みが乱れた? ブラッシングしろ?

明日はブラシでも探してみるか……


「収納するから待っててね。早く帰らないと城門が閉まるしね。」


今後は野営用に小さな一軒家でも用意しておこうかな。アレクを寝心地のよくない鉄製簡易ハウスなんかに寝かせたくないもんな。




手早く収納を済ませて領都へと帰還する。自宅に帰る前にギルドに寄ろうかな。なんせ大量だからな。


私とアレクがギルドに入ると途端にざわつき始めた。


「お、おい、あれ、魔王か……」

「き、きっとそうだぜ……」

「氷の女神まで一緒かよ……」

「おい目ぇ合わせんな……」


そして人が割れる。珍しいな。ようやく私の顔と名前、そして姿がセットで売れたのだろうか。待たなくて済むのはありがたい。さあ受付だ。


「い、いらっしゃいませ。どのようなご用件でしょうか。」


「獲物を売りに来ました。大量なので倉庫に出したいと思います。」


「は、はひ! こちらへどうぞ!」


うーん、スムーズだ。これは楽でいいな。獲物のほとんどを倉庫へと出して再びギルドのホールへ。大した用はないのだが、たまには依頼などの掲示物をチェックしておかないとな。

ちなみに私のクリムゾンドラゴンの魔石についてこんな文章が貼ってあった。


『九月初頭、領都を襲った魔物のうちクリムゾンドラゴンの魔石を盗んだ者がいる。本来の持ち主は魔王カースである。魔王は返却さえすれば罪は問わないとの仰せである。魔王本人に見つかる前にギルドへ返却する方が賢明である』


「見つかるといいわね。」


「フランティアの外に出てなければまだ希望はあるんだけどね。」


さすがにもうだめかな。失くした物を見つけてくれる占い師とかいないのかな。意外といそうなもんだが。

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