第870話 タンドリア領、港湾都市バンダルゴウ

結局昨日のパイロの日はほぼ寝て過ごしてしまった。昼前にカムイに起こされて、また寝て。次に起きたら夜中だった。さすがにこの時間から冒険者達を起こして騒ぐ気分ではなかったので体を動かしてみた。型稽古だ。



よし、いい汗かいた。風呂に入ってまた寝よう。明日は朝からタンドリア領か。昔、スパラッシュさんと行った城塞都市よりもう少し南東だったな。通り道だしクタナツにも少し寄っておくかな。




私は朝からクタナツに戻った。特に用はないが、ギルドに顔を出しておこうと思っただけだ。少し並んで受付へ。


「カース・ド・マーティンです。何か伝言ある?」


「あれ? カースさん……罰金が来てますよ? 金貨百枚って……組合長の所へ行ってください。」


「マジですか……」


マジかよ……身に覚えなんかないぞ? 私は何をやらかしてしまったんだ?




「失礼します……」


「おおカースぅ、おめぇやってくれたのぉ……」


「すいません、何をやってしまったんですか?」


「ソルサリエのギルドでのぉ……」


組合長から説明されて思い出した。私が楽園の西で殺した奴らのリーダー、契約魔法をかけた奴が原因だった。パーティー名はミッドナイトブルースと言うらしい。聞いたような気がする。


そのリーダーは先日ソルサリエに現れたらしい。なんと単独で生きて歩き通したのだ。そしてギルドで悪巧みを話した後、腹を裂いて死んだ。ギルド内を汚したことと、死体の処理費用として罰金だそうだ。確かにその通りだ。あの時はムカついてたもので、何も考えてなかったんだよな。


「ご迷惑をおかけしました。ではこれを。」


私は大金貨を一枚差し出す。


「それからこれはお土産です。」


ルフロックの肉もドンと置いておく。


「なんじゃあ? 鳥系かぁ?」


「ルフロックです。うちのカムイが仕留めました。みなさんでどうぞ。」


「ほぉ、ルフロックかよ。あの狼もやるじゃねぇか。」




結局他愛のない話をするだけで終わった。罰金なんて初めてだからびっくりしたじゃないか。ミッドなんとかの奴らはやはり噂に踊らされたらしい。私を殺して楽園を手に入れたら貴族になれると。そんなわけないのに。しかし、噂の出所はやはりサヌミチアニらしい。闇ギルド連合の会長、クソ針の件と合わせて調べを入れてくれるようだ。頼りにしてるぜ組合長。



ついでだから実家にも帰ってきた。もうすぐここにも住めなくなるんだもんな。


「ただいまー。」


「あー、カース君おかえりー!」


「あれ? ベレンガリアさん一人?」


「そうなのよ。奥様は旦那様と代官府に行かれたわ。何事かしらね? それより何か食べる?」


「うん。三人分お願いできる?」


今日はコーちゃんもカムイも一緒だからな。助さん格さんが揃った気分だ。




「へー、それでコーちゃん達が今まで居なかったのね。」


「ピュイピュイ」


「山岳地帯ではペイチの実より美味しい実を見つけたんだって。すごいよね。」


なんと! 初耳だぞ。

これでまた山岳地帯に行く楽しみができたな。ペイチの実も最近食べてないよな。ノワールフォレストの森にあるらしいが。


「じゃあベレンガリアさん、母上によろしくね。今からタンドリアに行ってくるから。」


「タンドリア? また変わった所に行くのね。お土産楽しみにしてるわ。」


「あ、これお土産。ルフロックだよ。カムイが見事にやったんだ。」


当然ながらベレンガリアさんは驚いてくれた。気分がいいぜ。


さて、南の城門を出たら一路タンドリアへ。一時間もあれば着くだろうが、急ぐこともない。のんびり飛ぼう。


目的地はクタナツからは南南西、王都からは真東にある港湾都市バンダルゴウだ。東の国、ヒイズルと貿易なんかしてそうだよな。おまけにあれこれと密輸なんかも。教団や偽勇者が使ってた紫の鎧、出所はヒイズルが怪しいんだよな。つまりタンドリアも怪しい。今回のような用がなければ行くこともなかっただろうから、いい機会と言えばいい機会なんだよな。


おっ、見えてきた。あれかな。よし『隠形』を使って城壁の外に着地。後は歩いて城門まで。

うげー、結構並んでるな。待つしかないよな。あー面倒。


「き、君、こ、これは狼かい?」

「し、白いけど、まさかフェンリル狼!?」

「しかもその蛇ってもしかしてフォーチュンスネイク!?」

「そんなのを連れてるってことはまさか……」

「その服装! 魔王スタイルじゃないか!」

「魔王!?」


もうバレた。さすがに商人達の情報は正確なんだな。


「正解。よく分かったね。フェンリル狼のカムイとフォーチュンスネイクのコーネリアスだ。会話が通じるかわいい子達だよ。」


「ま、魔王さん! 私は王都でも指折りのバース商会の……」

「ワイはアレクサンドル領随一の商人カケィフや! ウチの商品は……」

「バンダルゴウで買い物なら何てったってオッカダ商会だ! ぜひうちの……」

「城塞都市ラフォートで女が欲しくなったら……」


うるさ過ぎるから『消音』を使ってやった。みんな口をパクパク動かしているが何も聞こえない。私達に近付こうとしても自動防御に弾かれている。やれやれだ。気付いてもらえないのも寂しいが、ここまで営業かけられても困る。今、私が欲しいのは……スパラッシュさんのような腕利きのガイドだろうな。いずれペイチの実やエビルヒュージトレントも狙うのだから。


「次!」


順番が近くなったので消音を解除しておいた。


「お務めご苦労様です。」


いつものように国王直属の身分証と銀貨一枚を手渡す。この身分証も半年もすれば使えなくなるのか。なんだか寂しいものだ。


「こ、これは……通ってよし……」


「どーも。」


スムーズで大変よろしい。ではエルネスト君を探すとしよう。デルヌモンテ伯爵家だったか。いや、先にギルドかな。一応マナーだしな。寄っておくとしよう。ギルドあるあるに出会えるものだろうか。

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