第867話 カース、十五歳 昼

酒が進み、みんな程よく酔ってきた。さっき消えた二人組も戻ってきていた。早くないか?


よーし、それならパーティーゲームといこうか。


自宅から持ってきたミスリルのアレク像。これを一人一言褒めてもらうとしよう。無茶振り? とんでもない。アレクを褒める権利をくれてやるんだ。ありがたく受け取れって話だよな。


「よーし、そっちからな。」


「あぁ? 俺かぁ? うーん、かわえー」


もっと具体的に言えよ。でもまあ合格。


「胸がでかい」


まあ、ギリギリ合格。本当のことだしな。


「美しー!」


だから具体的に言えっての。でも合格。


「生き生きとした表情の中に揺れる乙女心を感じる。そしてフォーチュンスネイクの躍動感たるや、これを彫ったのはさぞかし名のある奴だな。金で買えない価値を感じるぜ」


いきなりまともな意見。アレクを褒めてくれよ。


「正解。剣鬼フェルナンド先生と放蕩三男ダミアンの合作だな。ミスリルを加工するのに俺だって魔力を流し続けたぞ。」


「マジかよ! 剣鬼かよ!」

「ダミアンって辺境伯家だよな!?」

「魔王の人脈やべぇな!」

「俺は知ってたぜ!」


確かこの話前回もしたもんな。さあ、次! もっとアレクを褒めろ!


「スタイルいいよな」

「性格はキツそうだぜ?」

「氷の女神って言われるぐらいだしな」

「こんな子が意外と脇が臭かったりするんだぜ?」


『風球』


楽園の外まで飛んでいきなよ。アレクは汗だくになった後でもいい匂いがするんだよ。まったく……


「次! そろそろ一周したか?」


「二周してんぞ?」

「魔王の意見を言えよー」

「そーそー馴れ初めを言えよー」

「あんな高めの女をどうやっていてこましたんだよー」


「んー? 聞きたいのか? 俺とアレクの出会いをよー?」


聞かれたからには答えよう。

あれは忘れもしない、クタナツ初等学校の入学式だった。アレクは入学式で挨拶したんだよな。狼アレックスと呼ばれてるなんて言ってたよな。懐かしいな。十年前か。昼の弁当を一人で食べてたから声をかけたんだよな。それから五人で遊ぶようになって。いつの間にかアレクが私に懐いて。そしてクタナツの城壁の外をデートしてる最中に私が告白して。その頃ってアレックスちゃんって呼んでたんだよな。

それから卒業、クタナツと領都で遠距離恋愛になって。今でもそうだが、会えるのは二週間に一回。その間にも色々あったよな。

領都の子供武闘会で優勝したり、王国一武闘会で準優勝したり、優勝したり。魔力を失ったり復活したり。大抵いつもアレクと一緒だったよな。コーちゃんとの付き合いも五年を過ぎてるし、カムイだって三年ぐらいかな。

そんなあれこれを経て今に至るんだが、楽園を作ったのっていつだっけ? 二年前だったかな? アレクと初めて結ばれたのも楽園だったよな。いやーこの楽園は最高の別荘だよな。ノワールフォレストの森で活動する冒険者にも受けがいいし。


あ、誰も私の話を聞いてない。コーちゃんと酒を飲んだりカムイに肉を食わせたりしてる。まったく自分らで聞いたくせに。




そろそろ昼か。だらだらとした飲みは続いている。すっかり腹も膨れてしまった。


「おっ? 何やってんだ?」

「昼からいい匂いがしんてんじゃねーか」

「うっ? 魔王か?」

「帰ったゼー」


おや、新しい冒険者か。


「おーお前ら無事かよ」

「今日は魔王の誕生日だとよー」

「まざれよー」

「飲め飲めー」


「俺らはマッドリックス。俺はリーダーのグラムスミス、六等星だ。二ヶ月ぐらい前からここで世話になってる。挨拶するのは初めてだな。これからもよろしく頼むわ」


おお、掘っ立て小屋の住人か。


「おう。家賃をきっちり払ってくれれば問題ないさ。腹へってんだろ? どんどん焼くから食ってくれ。」


人数が少ない理由が分かったぞ。みんな冒険に出てるのか。こいつらは三日ぶりに帰ってきたそうだ。


「おお! いただくぜ!」

「ありがとよ魔王!」

「うまそうじゃねーか!」

「まさかワイバーンか!?」


それからはマッドリックスの仕事を肴に再び盛り上がった。どこで何を獲ったとか、何が手強かったとか。解体済みの素材を見ながら情報を交換し合っている。


「そういやーよ? 北側のありゃあ何だ? 魔王の仕業なんだろ?」

「俺も気になったぞ。領地を広げてんのか?」


「その通り。大した意味はないけどな。国王陛下がここの西に新しく街を作ろうとしてるのは知ってるだろ? だから東半分だけ貰っておこうと思ってな。」


「意味わかんねーよ!」

「街なんか作れんのかー?」

「魔王も立派な大領主様だな!」


「あ、それで思い出した。公衆便所と公衆浴場を発注してるからよ。楽しみにしといてくれよ。」


そろそろ出来るころだろうか。


「マジかよ! 風呂かよ!」

「こたえらんねーぜ! 魔境で風呂かよ!」

「やっぱ魔王ハンパねーな!」


それならついでにサービスしてやろう。


「さっき帰ってきたマッドリックスだっけ? 疲れてんだろ? 風呂入るか?」


「マジか!?」

「いいんかよ!」

「入る入る!」

「魔王万歳だぜ!」


パーティーしてる所から少し離れた所に湯船を出す。最近全然出番がなかった鉄湯船だ。


「好きに入っていいからな。」


せっかくだからあの湯船はあのままここに置いておこう。みんなで使うといいよな。何人か女性もいるが私の知ったことではない。協力し合って入るといい。


「ねぇジェロムぅ、アタシたちも後ではいろうよぉー」

「ああジェシカ。入らせてもらおうな」


ちっ、バカップルめ。勝手に入りやがれ。それにしても秋晴れの元で昼から酒盛り、肉食って酔って風呂入ってイチャイチャして。楽しいではないか。コーちゃんもご機嫌だし、カムイもハッピーそうだ。どれだけ強くなったんだろうな。タンドリア領でしっかり見せてもらうとしよう。私達はきっと無敵だな。


そんなことを考えていると急に曇ってきた。『ギャワワッギャワワッ!』


コーちゃんの警告だ!


空を見上げて見ると、急降下してくる巨鳥ルフロックの姿があった。

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