第854話 九等星昇進試験 後

ゴレライアスさんに連れられて北の城門から外に出た。


「いいかぁお前ら! 今から閉門までに一人五匹ほど魔物を仕留めてこい! 魔石は抜くなよ? 死体のまま持って来い! 閉門に遅れた奴は失格だぁ! そのまま野宿でもしてろ! 分かったな!? 行けぇ!」


みんな一斉に走り出す。今から閉門まではおよそ五時間。時間的には余裕だが、往復に要する時間と十等星の力量を考えた場合、狙うエリアが限られる。先を急ぐのも当然だ。


「ゴレライアスさん。新鮮な魔物ならたくさん持ってますけど、それじゃあダメですよね?」


「当たりめぇーだ。仕留めて数時間の鮮度を保ってるってんなら黙って渡せば融通を利かせてやったんだがよぉ。おら、さっさと行けや。」


だよな。行くとしよう。ここで大きな魔法を使って魔物を呼び寄せてもいいんだが、十等星が多いからな。死なれても気分が悪い。素直に探すとしよう。せっかくだから私も走ろうかな。これもきっと青春の一ページさ。




北西に向かって一時間。魔物とは全然遭遇しない。やーめた。飛ぼう。飛んでオウエスト山にでも行って適当に狩るとしよう。




コボルトを狩っていたら銀色のゴーレムが現れたので、魔石を抜き取り体は収納しておいた。さすがに汚れ銀ではない。何ゴーレムだろう。ゴレライアスさんに聞けば分かるだろう。さて、コボルトを七匹ほど仕留めたので帰るとしよう。もう誰か戻ってる頃だろうか?




おっ、二人ほど戻ってる。あいつ、イクラムもか、中々やるじゃん。その場で魔石の抜き取り作業をしているようだ。あー、解体の手際も点数のうちってことかな。


「ただ今戻りました。」


そう言ってゴレライアスさんの前にコボルトを五匹だけ出す。


「よし、なら魔石を取り出しておけ。それ以外の部位は売るなり捨てるなり好きにしろや。」


「押忍!」


ならば魔石だけだな。それ以外はゴミだ。収納しておこう。


「終わりました。どうぞ。」


ゴレライアスさんに魔石を提出する。


「おし、オメーが合格第一号だ。こいつを持って受付に行きな。」


「押忍! ありがとうございます!」


先に着いていた二人は魔石以外の部位を売ろうとしているようだ。そりゃあ時間がかかるよな。お先にー。


城門を通り抜けギルドへと歩く。しばらく歩いていると。


「おーい、待てよ。俺も終わったぜ!」


イクラムだっけ?


「おう。合格したのか。よかったな。」


「お前コボルトなんてどこにいたんだ? こっちぁ運良くゴブリンがいたんだけどよ。」


「ああ、オウエスト山まで行ってきた。近くに魔物が全然いなくてな。」


「はぁ!? オウエスト山だあ!? あんなとこまでどうやって……」


「飛んで行ったに決まってる。走ったら着くだけで夕方になっちまうからな。」


当たり前だ。


「お前カースって言ったよな……そしてその服装……まさか、魔王なのか?」


おっ、意外と勘がいいのか。


「正解。俺が言い出したわけではないが魔王って呼ばれてる。」


「なんであの魔王がまだ十等星なんだよ……」


「ランクに興味がなかったからな。今回は組合長から七等星になれって言われたから仕方なく参加したってわけだ。だから来週の八等星の試験も参加する。」


アレクも八等星なんだよな。お揃いだ。


「昔、領都の城門やら城壁をぶち壊したってのはマジか?」


「いや、知らん。大型の魔物が突っ込んで来たって聞いてるぜ?」


「表向きは、だろ? 魔王には代官や辺境伯まで一目置いているらしいじゃないか。」


「お代官様からは同格とか兄弟みたいなものって言われたな。辺境伯には少し世話になったか。」


「へっ、とんでもねぇ同期がいたもんだ。まあ、よろしく頼むぜ。」


「ああ。そんなに依頼を受ける方じゃないから顔を合わすことは少ないだろうがな。」


そうやって素直に言われたらこちらも応えようではないか。

さて、ギルドに到着。受付に提出する。


「おめでとうございます。九等星に昇格です」


新しいギルドカードを渡された。見た目に変化はないな。少し新しいぐらいか。


「よう、せっかく知り合ったんだ。ちょいと飲まねぇか? 奢るぜ?」


「いいのか? 俺けっこう飲むぞ?」


「ミルクセーキなんか飲んでる奴が言うじゃねーか。好きなだけ飲め。」


あーあ。知らないぞ?


「おう野郎ども! イクラムが九等星昇格祝いで奢りだとよ! 好きなだけ飲めやぁ!」


「お、おいバカ!」


「ゴチになるぜ!」

「九等星だあ!?」

「払えんのかぁ!?」

「カンケーねーよ! 飲め飲め!」

「イクラムにかんぱーい!」


わらわらと寄って来てしまった。イクラムは涙目だ。ちょっと可哀想になってきた。


「冗談だ。俺が払うから気にすんな。お前も飲め。」


「ま、魔王、バカ! べ、別に払えるし!」


まあ同期じゃないけど同期のよしみだ。それにしてもまだ夕方にもなってないのに意外と集まるもんだな。吟遊詩人とかも来ればいいのに。


「カース君、久しぶり。」


ん? この逞しい青年は誰だ?


「ごめん、誰だっけ?」


「僕だよ。同級生だったグランツだよ。」


おお! 一組に唯一の平民だったグランツ・アポリネール君か!


「おお! 久しぶり! 全然面影がないよ! 大きくなりすぎ!」


「さすがカース君だよね。一抜けだったね!」


「え!? グランツ君いたの?」


「いたよぉー! 全然気づいてくれないんだから!」


そんな少しだけ髪を切った女の子みたいに言われても。


「今日九等星になったの?」


「うん、やっと合格したよ。カース君って全然ギルドで会わないよね。」


「あー、あちこち行ってるからね。グランツ君は今日学校休んだの?」


「そうなんだ。試験って大抵ヴァルの日だからね。」


これが現代日本なら試験は大抵休日のはずだ。ここでは試験官だって休日は休みたいもんな。社畜などいない!

まあその代わり休んだ分の保障なんかあるはずもないが。


「よかったら好きに飲み食いしてよ。今日のところは楽しく盛り上がろうよ。」


「ありがたくいただくね。それにしてもカース君て魔力を全然感じないのに、なんていうか風格が出たよね。とても同級生とは思えないよ。」


「それはグランツ君もだよ。明らかにスティード君より大きく逞しいし。」


「スティード君かぁ。みんな元気なのかなぁ。」


グランツ君とはそれほど友達付き合いをしていたわけではないが、懐かしさも味方して会話が弾んでしまった。


「おお? グランツは魔王知ってんのか?」


イクラムも混ざってきた。こいつは少し酔ってるようだ。グランツ君とは知り合いなのか。


「何言ってんだよ。僕らは同級生じゃないか。」


なんだと?


「あー、俺ら二組は一組とは交流がなかったもんな。そりゃあ知らんわな。」


「カース君も知らないよね。二組で目立ってる子なんて一人もいなかったもんね。」


「そうだね。誰も知らないんだよね。」


これはある意味同窓会だな。まあいいか。ガンガン飲むとしよう。


「おーい、お姉さん。ディノ・スペチアーレない?」


「あるよー。一杯金貨二枚ね」


「とりあえず三杯お願い。」


コーヒーと同じ値段と考えると名酒も安く感じてしまう。


「お、お前、なんてもん頼みやがる……」


「カース君……僕らも飲んでいいの……?」


「いいよ。たまにはね。ディノ・スペチアーレは最高だよね。」


明らかに私達のような子供が飲む酒ではない。しかし、そんなことは関係ない。飲みたいものを飲むのだ。


結局この日、吟遊詩人は現れなかった。これは本気でギターの開発を進める必要があるのか……由々しき問題だ。

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