第806話 ダンスパッピーカース
踊り疲れた私は壁際で椅子に座っている。アレクも隣に座って休憩をしている。
「いやー楽しいね。まるでコーちゃんの好きなお薬『音速天国』をキメたみたいにハッピーだよ。」
「まあカースったらいけないんだから。薬は十五歳を過ぎてからよ。」
もちろんそんな法律などない。アレクが言っているのは成長に悪影響を及ぼすからだ。もちろん私は前世でも今生でも薬に手を出したことなどない。ただの想像で言ってるだけであり、アレクも分かっている。
「これはアレだね。アレクの魅力に酔ったに違いないね。」
「もぅカースったら。」
やはり私達はバカップルだなあ。
そこにやって来たのはリスナール君? だよな?
「アレクサンドリーネ様。余興前に一曲お付き合いいただけませんか?」
「カース?」
「いいよ。踊るアレクを横から見るのも楽しそうだしね。」
「ではアレクサンドリーネ様、お手を拝借。」
「一曲だけよ?」
アレクはそう言ってリスナール君の手を取り会場の中心へと向かって行った。入れ替わるかのようにコーちゃんが戻ってきた。
「ピュイピュイ」
え? 私だけ薬を楽しむなんてズルい? そんな覚えはない……あ、まさか何杯か飲んだ酒の中に一服盛られてたのか? それで私はこれだけハッピーにラリラリしてるのか?
私に酒を給仕したメイドさんは……見当たらない。まあいい、毒殺が目的とは思えないしな。
「あのぉー魔王さんですよねぇ?」
「私達貴族学校の四年なんですぅけどぉ……」
「私達とも踊ってもらえないですかぁ?」
うーむ、アレクが踊るのを見ていたかったのだが……まあいい。パーティーに来ておいてアレクとしか踊らないのもノリが悪いよな。
「もうすぐ余興が始まるらしいからそれまででよければ。」
「きゃあ! ありがとうございますぅ! 私ぃドレイク伯爵家のモンティーヌですぅ」
「カース・ド・マーティンです。ではお手を。」
現在流れているいる曲はワルツ調。私には難しいが気合で踊ろう。リードしないとな……
「魔王って言われてるからどんな恐ろしい方かと思ったらぁ優雅に踊られるんですねぇ」
「それはどうも。」
逆にこいつは上級貴族のくせにダンスが下手だな。私のリードなど無視して好きなように踊ってやがる。一人で踊る分にはきっと巧いのだろう。
「ねぇ魔王さん……私あなたの魅力に酔ったみたいなんですぅ。どこか二人きりになれる所にいきません?」
「はい失格。次はそちらの君かな?」
約束だから三人とは踊るが、あのようなことを言う奴とこれ以上踊るなんて嫌なこった。
まさか自分が誘って断られるなんて想定してなかったのか、えっ? えっ? 嘘?ってうろたえている。お前アレクより美しい自信でもあるのかよ?
そして二人目。
「私ってよく注目されて困るんですぅよぉ……なんでなんですかねぇ?」
そう言って私に胸を押し付けてきている。ダンスをしようぜ?
「なんでだろうね?腹の肉がみっともないからかな?」
実際には全然そんなことはない。しかしアレクほど胸はなく、アレクよりウエストが太い時点で失格だ。その程度の体で私を誘惑しようとはまさに太ぇ野郎だ。
この子もショックを受けた顔をしてブツブツと壁際に行ってしまった。普通に踊ればいいのに。そして三人目。
「聞いてますよ? 殺し屋に狙われているんですよねぇ?」
「いや、それはダミアンだね。僕には関係ないよ。」
「セルジュ先輩が心配してましたよぉ? 大変ですねぇ?」
いや、それは嘘だな。セルジュ君が私の心配をするはずがない。私がセルジュ君に危ない仕事を頼んだのに全然心配してないように。
「何が目的だい?」
「いえ別にぃ? 魔王さんがピンチかなぁって?」
「名前を聞いていいかな?」
「シャロン・ド・バズガシカ。バズガシカ子爵家だけどご存知ないですかぁ?」
知るわけないだろ。まあいいや。
「協力してくれるんならセルジュ君に相談してみるといいよ。」
「じゃあこの件がうまく解決できたらお願いを聞いてくれますかぁ?」
「聞くだけね。叶えるかどうかは知らないよ?」
「いいですよぉ。魔王さんと繋がりができれば充分ですからぁー」
どうせロクな情報なんか持ってないくせに。くそ、アレクのダンスが見れなかったじゃないか。まあいい、そろそろ余興が始まる。私の出番はあるのだろうか?
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