第790話 最高の男

ゼマティス家に戻るとすぐに夕食。いいタイミングだ。


「ただいまアレク。これを読んでみて。」


「カース、おかえりなさい。これはあの時の契約書?」


「そうだよ。アレクがサインした契約書だよ。特に裏をしっかり読んでみてね。」


「裏……?」


アレクの顕微の魔法は私より上手いはずだ。


「これは……」


「危なかったよね。アレクは勝てばいいって言ったけど。契約書には気をつけようね。」


「うん……」


それにしてもクワトロAほどの大貴族にしては詰めが甘いよな。サインしただけでアレクが負けるような文章にしておけばよかったのに。

もしくはアレクだけ魔法禁止とかね。大勢で囲めば勝てると考えたのだろう。その上勝つために手段を選ばないつもりだったんだろうが、まだまだだな。


そうなると、今夜はおしおきだな。ふふふ、アレクめ。


おっと、それから……


「ラグナ、後で僕らの部屋に来てくれ。」


「かしこまりました。」


ラグナには悪いがね。

明日は全員を連れてクタナツに戻る日だ。いよいよ夏も終わりだ……






「ボスぅ、失礼するよ。どうだったんだぃ?」


ラグナが部屋にやってきた。


「すまんな。ダメだったわ。シンバリーだがな、王国騎士団に欠かせない人材になってたもんでな。」


「そうかぃ……仕方ないねぇ。はぁ……アタシは一人かぃ……」


「聞くだけ聞いとくけどさ、お前の男の好みは?」


「は? ボス何言ってんだぃ?」


「シンバリーがダメだったからな。好みのタイプがいたら用意してやれんかと思ってな。奴隷市とかで。」


「本当かぃ? 嬉しいよぉボス。アタシの好みはねぇ、太くて硬くて持続力のある男だねぇ。だからってガサツな奴はダメ。ソフトなタッチで女体を繊細に扱える男でないとねぇ。」


「はぁ。」


「当然顔はイケメン。チビハゲデブは殺すかねぇ。アタシの肌に傷をつけるような下手くそも殺す。早い男、ビビって勃たない男も殺すかなぁ。」


「お前……殺す殺す言ってるけど契約魔法がかかってるからな。分かってるよな?」


「分かってるさぁ。アタシは真人間だよぉ? ボスの契約魔法は怖いねぇ。このアタシが真人間になっちまうんだからさぁ?」


「まあいいけどね。なら今度奴隷市にでも行ってみるか。気に入った男がいたら買ってやるよ。」


「ありがとねぇ。ボスは甘いねぇ。嬉しくなっちまうよぉ。」


もうシンバリーのことは忘れたのか。女は怖いねえ。いや、ラグナが怖いのか?




さて、今夜はアレクにお仕置きだ。水鞭の魔法で拘束してくれる。針で止めた美しき蝶のように動けないアレクは私のものだ。ふふふ……







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最高の夜だった。このプレイは楽園だとより楽しめそうだな。






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朝。私はスッキリと目覚めたが、アレクは起きない。かなり疲れさせてしまったかな? 朝食まではまだ時間があるし、寝顔を眺めておこう。天使の寝顔だな。昨夜の乱れ顔が嘘のようだ。かわいい。




「う、うぅん……カース?」


「おはよ。かわいい寝顔だったよ。」


「もう……起こしてくれればいいのに……」


「ふふ、よく寝てたからさ。」


「昨夜は……カースって絶妙に意地悪なのね……」


「いやぁ、すごいのはアレクだよ。お仕置きのつもりだったのにあんなに喜んでくれちゃって。」


「だって……カースが上手だったから……」


これは堪らん。朝から盛ってしまいそうだ……しかし今は我慢だ……

そろそろラグナが呼びに来そうだもんな。




さて、ラグナに呼ばれて朝食だ。これがこの夏最後のゼマティス家での食事か。次はいつここに来るんだろうな。




朝食を終え軽くティータイム。伯母さんが言う。


「みんなは今日帰るんだったわね。大勢でワイワイと楽しかった日々も終わりなのね。」


「お義姉さんにはすっかりお世話になってしまいましたわ。懐かしい王都で楽しく過ごせました。」


母上は本当にリラックスできたのだろうか。働いてばっかだったってことはないよな?

ナーサリーさんは母上の隣で小さくなって座っている。


「みんなにはそんなに必要なさそうだけど、ほんの気持ちよ。一人一本貰ってくれる?」


おお、伯母さんがポーションを配っている。ゼマティス家秘蔵の奴か?


アステロイドさん達は声をあげて喜んでいる。やはり価値が分かる人には貴重なものなのだろう。


「カース君、今回もありがとう。領都の豪邸には滞在させてもらったし。おかげで楽しい夏休みになったわ。」

「サンドラちゃんの言う通りだね。僕なんかゼマティス卿や夫人、イザベルおば様にまで稽古をつけてもらっちゃったし。」

「セルジュ君は頑張ってたもんね。僕もアステロイドさん達に鍛えてもらったしね。ツイてたよ。」


仲良し三人組だね。私だけ稽古をつけてもらってないのが気になるな……いや、アステロイドさんと一回だけやったか。よし、明日から本気だす。


「カー兄ぃー、私帰る前にフランツ君のとこに寄るねー。まだ起き上がれないんだってー。」


「そうかー。キアラは優しいな。待ってるから気にせず行ってくればいいさ。」


くっ、キアラ……なんて優しいんだ……

よし、決めた。フランツウッドの野郎が側室なんか迎えた日には王城を更地にしてやる。


「ありがとー。行ってくるねー。」


行ってしまった……


この際だ、思い切って聞いてみるか……


「ねー、母上ー。フランツウッド王子ってキアラにマジみたいなんだけど、いいの?」


「あら? カースったら何を心配してるのかしら? 二男とは言えフランツウッド王子は王族よ? そこに嫁入りできるなんて下級貴族にとっては望外の幸せよ?」


「母上マジで言ってんの?」


「カースこそ何を気にしてるの? キアラがいいならそれでいいわよ。」


「そうだね……」


そうだよな……キアラがよければいいよな。

そして今、気になったことがある。


「母上だったらさ……男はどうやって選ぶの?」


「あら、カースにしては面白い質問ね。そんなの簡単よ。最高の男を選べばいいの。アランのようにね?」


さすが母上……

全く分からないが揺るぎない。母上にとっては父上は最高の男なんだな。うーん、深い。そう言えば父上も昔似たようなことを言ってたな。様々なタイプの女の子を落とせるようになってこそ、母上のような最高の女と出会えるとか……

似た者夫婦め!

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