第784話 決着

アレクの魔力を頼りに歩いていたらコロシアム付近でコーちゃんに出会った。アレクはコロシアムにいるそうだ。なぜ?


入ろうとしてみれば貸切だと言うではないか。まだ慰霊祭の片付けすら済んでないだろうに。


仕方ないから一旦外に出て、上から飛んで入ってみた。あらら、エイミーちゃんがいるじゃないか。聞いてみよう。


「これは決闘? それともただの魔法対戦?」


「なっ、ま、魔王! 貴様ソルダーヌ様はどうされている!? なぜここにいる!」


「ソルダーヌちゃんは眠り込んでしまったから部屋に寝かせてきたよ。メイドさんにも頼んであるし。で、これは何事?」


「アリョマリー家のメギザンデ様がアレクサンドリーネ様に魔法対戦を申し込んできたのだ。負けた方は家名を失うという契約魔法まで交わしている。」


「へー、手が込んでるんだね。」


「おい! 助大剣すけだちしないのか!? もはや真っ当な魔法対戦ではないのだぞ!?」


「いやー、必要ないと思うよ。アレクは勝つよ?」


結構長いこと戦っているようだけど、アレクの魔力は半分ぐらい残ってるよな。今も地下に身を潜めて機会を伺っているようだし。それよりカムイはあんな所で何やってんだ? 私の白いコートを被っているではないか。


『アレク、そろそろ終わらせてお茶でも行かない?』


伝言で私が来たことを知らせる。カムイもこっちに来た。


「ガウガウ」


へえ、アレクがコートを掛けてくれたって? こんな不利な状況なのにカムイの心配をしてくれるとは。で、カムイは何しにあそこに行ってたんだ?


「ガウガウ」


アレクの背後だけ守ろうと思ったのか。でも必要なかったのね。ありがとな。よしよし、いつも通り綺麗な毛並みをしやがって。


アレクはふうっと浮かぶように土中から姿を現した。そして……


『燎原の火』


一面に炎が広がる。


「エイミーちゃん、こっち。」


「気安く呼ぶな!」


しかし素直に私の背後に移動してくれた。アレクって私がいても気にせず広範囲魔法を使うもんな。悪い子だ。


「早く消しますの!」


「任せな!」『吹雪ける氷嵐』


『氷塊弾』『氷塊弾』『氷塊弾』


吹雪ける氷嵐で視界と動きが悪くなった相手に対して個別に仕留めるアレク。

相手の魔法選択ミスだな。わざわざ温度なんか下げなくても、適当な水の魔法で火さえ消せば充分だったものを。


そして残りは二人。


「アレクサンドルの分家のくせに! アリョマリー家に逆らって許されると思ってますの!」

「王都に上屋敷もないくせにな! 絶対許さんからな!」


「もうすぐアリョマリー家を名乗れなくなるあなたが心配することじゃないわ。謝るなら引き分けにしてあげるわよ?」


アレクは優しいな。良い子だ。


「バカにするなですの!」『風斬』

「勝てば国軍だからな!」『風弾』


見えはしないが二人の攻撃はアレクにかすりもしない。アレクも頑張ってるもんな。偉いなぁ。


「お兄様! いきますの!」

「おう! やるからな!」


『『旋風斬』』


おお、これは危ない。切れる旋風がアレクを取り囲む。王国一武闘会でも見た覚えがある。


『金操』


ぬおっ、アレクの短剣が相手の女の子の脛から下を斬り落としてしまった。あれってめちゃくちゃ切れ味がいいんだよな。


「キャアアっ!」

「メギザンデ!」


アレクの方は……結構服が切れてるぞ……血は出てないようだが。髪も無事か。

それにしてもすごいな。あの短剣はサウザンドミヅチの牙、つまり魔物素材。金属でない物を金操で動かすのは魔力の消費が酷い。まあその分軽いからまだマシか。


「円から出たわ。私の勝ちね。」


「き、貴様ぁー! 絶対許さんからな! 覚えておくんだな!」


「今なら彼女の足は余裕で繋がるわよ? 急いだ方がいいんじゃない? それとも、負けたことだしもう兄でも妹でもないのかしら?」


「ちっ! メギザンデ! しっかりしろ! すぐに治療院に連れてってやるからな!」


これにてお終いか。一応気になることがあるから確認だけしておこう。


「逃げる前に契約書を置いていきな。対戦が終わって『はいそれまで』ならいいんだがな。少し気になることがあってな。」


「……メギザンデの魔力庫に入っているからな、今は見せられないな……」


「では約束だ。明日の夕方、アリョマリー家に寄らせてもらう。その時に現物を見せてもらおうか。」


「ちっ、仕方ないなっとぉがっ……」


よし、かかった。


「もちろん今のは契約魔法だ。『約束』を違えると酷いことになるぜ? 分かったな?」


「くっ、当然だなっぐあぉ!」


ふふふ、追加でかけてやった。約束を破るとどうなることやら。




そして私達はコロシアムを出た。


「ねぇカース? 契約書がどうかしたの?」


「いやー、あいつらアレク一人に寄ってたかって攻撃してたじゃない? きっと契約書にも何か罠があったんだろうと思ってさ。今後の参考に確認だけしておこうかなってね。」


「あるかも知れないわね。私は勝てばいいと思ってたから、さらっと読んだだけなのよね。」


「意外だね。アレクはもっと慎重にいくタイプだと思ったら。」


「相手を舐めてた訳ではないんだけど、全然負ける気がしなかったの。ほら、楽園でいっぱいアレを飲ませてもらったから……」


なるほど。魔力が充実しまくってるってことね。しかも魔力感誘も覚え始めてるし。


「じゃあこの勢いでいつものあそこに行こう、と言いたいところだけど……今日は帰ろうか。サンドラちゃん達もとっくに帰ってる頃だよね?」


「そうね……あの三人はどこかで何か食べてから帰るって言ってたから、もう帰ってる頃かしら。はぁ……本当に疲れたわ……」


最後の金操で一気に魔力を消費したもんな。それに長いこと戦ってたみたいだし。


サンドラちゃんに相談することもあるし、ちょうどいいかな。さっさと帰ろう。

ちなみにエイミーちゃんはいつの間にかいなくなっていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る