第764話 楽園の夏休み

片付けを終えたアレクと風呂に入る。もちろんコーちゃんとカムイも一緒だ。今夜はカムイだけでなくアレクも私が洗ってあげよう。


「はいアレク。こっちに座って。」


「え、え?」


「はーい、きれいきれいしようねー。」


「も、もうカースったら……」


その間もカムイは水人形で洗う。これは中々制御が大変だな。いい訓練だと考えよう。


「はーい、両手を挙げてーばんざーい。」


「こ、こう? くすぐったいわよ……そんな所まで……」


「はーい、今度は足を伸ばしてー。」


足の指の隙間までしっかりと洗うのだ。ついでに足のマッサージもしておこう。今日はたくさん歩いたもんな。疲れたよね。


「はーい、最後だよ。足をこっちねー。」


「も、もうカースったら……そんな……」


ちなみにアレクが座っているのは私が水の魔法で作った椅子だ。


「はい。ばっちりきれいになったよ。」


「もうカースは……ありがとう。」


「ガウガウ」


カムイもきれいになって気持ちいいってか。よしよし。


「ね、ねぇカース……早く出ましょうよ……」


「おや、どうしたの?」


顔を見れば分かるけど聞く私。ふふふ。





〜〜削除しました〜〜





こうして私とアレクは十日間ほど夏休みを過ごした。

寝室で、台所で、玄関で、風呂場で。

スティクス湖で、上空で、ノワールフォレストの森で。

砂漠で、岩石地帯で、楽園の城壁の外側で。




そして最終日。明日の午前中には楽園を発つ。今回はカムイも連れて行こう。カムイは百人力だからね。


そして夕方。玄関前でバーベキューをしていたら何やら声が聞こえてきた。冒険者達が騒いでいるのかな?


「オメーら新人かぁ!? 挨拶行っとけって!」


「オッサンうるせーよ! ここは天下の大魔境だろうが!? 誰にはばかることがあんだよ!」


「これだけの城壁が自然に出来たとでも思ってやがんのか!? オメーらが魔王に睨まれんのは勝手だがよぉ! 俺らを巻き込むんじゃねーよ!」


「バカかオッサンよぉ? 魔王だぁ? あんなガキに何ビビってやがんだぁ? おぉ?」


「オメーら……素人トーシローかよ……よくここまで来れたな……俺らに関わるんじゃねーぞ? 俺らは魔王に逆らう気はねーんだからよぉ……」


「へっ、情けねーオッサンどもだぜ! 今からここは俺ら『ドグラマグラ』が仕切るぜ!」

「俺らを七等星だと思って舐めてんじゃねーぞぉ? ヘルデザ砂漠をたった十日で越えたんだからよぉ!」

「途中の湖もうちらの縄張りにするからね! 使いたけりゃあ挨拶に来な!」

「おら! 聞いてんのかぁ? おーい魔王ちゃんよぉ?」


うーん、聞いてんのかって言われたからには行ってみるか。面倒だなぁ。こんな魔境の真っ只中なんだから協力し合うべきだろうに。


「ちょっと行ってみるね。食べてていいよ。」


「ええ。教育してあげるといいわ。」


教育か……面倒な言葉だよな。




小高い私の邸宅から奴らの掘立小屋へひとっ飛び。そしてスタッと着地。


「俺に何か用か?」


「へっ! 魔王とか呼ばれて調子に乗ってるらしいなぁ!」

「けっ! ロクに魔力ねーじゃんかよ! ここまで七光ぁ届かねーぞ!?」

「何チャラチャラした服着てんのさ! ここをどこだと思ってんだい!?」

「おら! お貴族のお坊ちゃんよぉ! あんまハネてっと怪我すんぞ!?」


これは酷い……

人んちに来ておいてこの言い草……

本当に七等星なのか!?


「……用がねーんなら帰るぞ?」


「あぁ? 何スカしてんだ、あ?」

「イジメるぞ? おおコラ?」

「キャハハ! 酷〜い! アンタ早く謝った方がいいよぉ〜?」

「とりあえず食い物出せや? 物によっちゃあ勘弁してやるぜ?」


「飲み物でもいいか?」『水壁』


魔境で水は貴重だよな。全員を水壁に閉じ込めてやった。踠いても出られまい。なんて弱い奴らなんだ……


一分経過。頭だけ出してやる。


「お前ら何考えてんだ? ここは俺んちだぞ?」


この楽園エデンは国王も認める私の領土だ。


「ゲホッ……魔女の七光野郎が……」

「ゴホゴホ……魔境で貴族の力が使えると思ってんじゃねーぞ……」

「あ、アタシだけは助けてよ! 何でもするから!」

「テメッ! オルガ! 何考えてんだ!」


まとまりの無い奴らだな。それにしてもこの女の変わり身の早いこと。ならば助けてやろう。


「じゃあ絶対服従な。約束だぜ? そしたら助けてやる。」


「わ、分かったわっぐぅっ……」


バッチリかかった。他の奴らはこの女を口汚く罵っている。


『消音』


さすがにうるさいから黙っておいてもらおう。


「さて、取り調べと行こうか。名前は?」


「オルガ・エクスタ……」


「どこの出身だ?」


「サヌミチアニ……」


またサヌミチアニかよ。縁があるのか偶然なのか。


「なぜここに来た?」


「ここを乗っ取ったら……貴族になれるって……」


「誰がそんなことを言った?」


「サヌミチアニのギルドで噂になってた……」


バカかこいつら……噂なんかでここまで来たのかよ……


「俺が本当に七光だと思ってんのか? これでも王国一武闘会で優勝してんだけどな。」


「サヌミチアニでは……誰も信じてない……まぐれだとか運だとか……」


まぐれで勝てるわけないだろ。準決勝で当たったナグアットさんとか手強かったんだぞ?


「ここに怖い番人、いや番狼がいることも知らないのか?」


「知らない……魔力を失くした魔王なんてただのガキだって……」


魔力を失くした? いつの話だ? まさか、噂が遅れて伝わったのか? あり得る話だな。


消音解除。


「さて、お前ら。事情は分かった。大人しく言うこと聞くか、それとも死ぬか。二択だ。」


「ハッタリかましてんじゃねーぞ!」

「やれるもんならやってみろや!」

「テメーごときに舐められて冒険者なんぞやってられっかよ!」


あーあ。残念。まずは一人だけ水圧十倍、温度も十倍。


「ぐあちゃちゃちゃー! ぎゃぁ熱いィィ!」


「こいつが死んだら次はお前な。」


人間って何分煮込んだら死ぬんだろう。まずい出汁が取れそうだ。


「たた助けてくれぇー! ああ熱ぃよぉー! 死んじまうぅ!」


初めからそう言えばいいのに。




結局全員に契約魔法をかけて解放してやった。内容は、真っ当な冒険者として生きること。ヘルデザ砂漠を十日で通過するほどの実力なら真面目に生きればいいセン行くのではないだろうか。それが本当のことなら……な。


ついでに有り金は全部いただいた。集めた素材や装備、ギルドの口座には手を付けなかったのだから優しい処置と言っていいだろう。


それにしてもサヌミチアニか……行ったことはないが変な噂が流れてるものだ。いつだったか偽勇者が暴れた街でもあるな。あいつ、七回生まれ変わるとか言ってたが……まさかな……

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