第757話 熱闘! 九匹の龍

段々と近づいて来るドラゴン達と一定の距離を保ちながら戦い続ける。別に逃げてもいいのだが、まだまだ時間にも魔力にも余裕があるので、もう少し粘ってみようと思っているのだ。


大きく円を描くように空中を逃げる私。奴らは完全に私をロックオンしたようでしつこく追いかけてくる。まあ追い付けはしないだろうがね。そして執拗に攻撃をしかけてくる。さすがにレーザーのような放水を全て自動防御で防ぐのは魔力の浪費も甚だしいが。いくら高圧でも水は水なので『水操』が効く。これなら楽に逸らすことができる。

これって見ようによって魔力感誘だよな。見せかけだけだけど……くっ、虚しい……


それにしても悔しいことに、私の攻撃も効いていない。様々な魔法を撃ってみて分かったのだが、どうもあいつらには魔力そのものが効かないようだ。奴らの周辺ニメイルぐらいにバリアでも張られているかのように。


このまま千日手を繰り返すのかと思ったら、ドラゴンどもが突如、炎のブレスを吐きやがった。本気になったのか?

一瞬ヒヤッとしたが、やはり自動防御の前には無意味だ。岩をも溶かすって話だが、私は無傷。しかし結構な魔力を消費させられた。いつぞやの虫歯ドラゴンゾンビの腐ったブレスほどではないが、さすがはドラゴン。しかも外れた熱線が雲を消し飛ばしている。

それにしても水中から体を出さないものだな。空に飛び上がってもこないし。


ここまでの攻防でだんだん分かってきた。きっとこいつの周囲には魔法無効空間とか絶対魔法防御的な何かがあるんだ。狙撃や連弾、徹甲弾なら霧散せずに当たるのだから。


それなら……『降り注ぐ氷塊』

高高度から降り注ぐ隕石のような氷塊をくらえ! このドラゴンどもはノロいからな、いい標的だ。でも体のほとんどが海中だから効かないかも知れない。まあ半分嫌がらせだ。無駄のような気もするがせっかくだ、衝撃貫通もしっかり乗せておこう。




さすがに当たるより外れる方が多いか……それでも何百と巨大な氷塊が直撃してるんだ。体表付近で元の水に戻すにも限界があるだろう。




やがて濃霧のような水飛沫は晴れた。さて、どうだ? やったか?


周辺海域にはドス黒い血と肉片が撒き散らされており、付近の魚達が大喜びで食らいついている。まるでピラニアだ。そのうちまた他の魔物も来るだろう。今集まってる魚だけ釣って、帰るとするか。コーちゃんはどこかなー。それにしてもミスリルギロチンまでもが海の藻屑に……あれも高かったのに。加工にはかなり苦労したんだぞ……




なっ!?

次の瞬間、大瀑布が天に昇るかのように私を襲った。もちろん自動防御があるからダメージはないのだが、少しばかり上空に突き上げられてしまった。まだ生きてるのか、しぶとい奴らだな。まあ素材も肉も魔石も欲しいから考えようによっては助かる。


徐々に海の深いところから登って来やがる。ようやく胴体のお披露……目……なんだそりゃ!


あれだけ肉片を撒き散らしたクセに。

あれだけ海を血まみれにしたクセに。

何事もなかったかのように無傷な上半身を見せやがった。そして今分かった。奴らは九匹のドラゴンではなかったのだ。


たった一匹。九つの頭を持つ魔物、ヒュドラか!


なるほどね……確か一つでも頭が無事なら全部再生するって聞いてるぞ。魔法が効かないってのは今日初めて知ったが。まあいい、ここからお互い本気ってわけだな。


「グォゴゴゴァアアァーーーー!!」


うるさいな。九つもの頭が同時に咆哮をあげると、虫歯ドラゴンよりもうるさい。海上でも結構響くものなんだな。


「グァバァアグォボォオオアァーー!!」


九つの頭から一斉にブレスが放たれる。

レーザー水、氷礫、雷、火、毒……多種多様なブレスだ。ヒュドラめ、ようやく本気を出したか。だったら私も全力だ。残った魔力は六割、意外に消費したんだよな。くらえ!


『徹甲連弾』


ただし一秒間に十六発なんて生易しいもんじゃない。一秒間に五十発、必殺五十連弾だ!

魔力制御で頭がおかしくなりそうだが、死ぬまでやってやるよ! なんだかんだで三時間もこいつと戦い続けてるんだから。もうそろそろ終わりといこうじゃないか。


ブレスを吐くヒュドラの口から喉から全部目がけて撃ちまくる。上空から撃ち下ろす私の方が位置的にも有利だ。その首全部置いていきやがれ!





今度こそ、やったか……さすがに疲れたぞ。頭が痛い……

もう帰りたい。先ほど同様、海面には肉片と血が漂っている。奴は……浮かんでこないな。それはそれで困る。ヒュドラの肉って食べてみたいじゃないか!

よし、少し怖いが自分を信じて行ってみよう。


海中へドボン!


水中視と水中気を使って捜索する。


いた! と言っても胴体が半分ぐらいに減ってるし、頭も全然ない! 間違いなく仕留めたようだ。どうにか無理にでも収納! アレクにいい土産話ができたな。今度こそ帰ろう。


そのまま海面に出たらコーちゃんが奴の肉片を喜んで貪っていた。細かくしてくれて食べやすいって? コーちゃんは口が小さいもんね。

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