第737話 王都出立

そして朝食。全員集合なので食堂に入りきれない。立ち食いスタイルとなっている。


「おはようございます。アステロイドさん達はどうします? 今日帰りますか?」


「おう。いや、俺らも月末まで滞在することにした。」


「そうでしたか。じゃあ母上を頼みますね。」


そうなると、クタナツに帰るのは……


「父上は? 今日帰る?」


「ああ、頼むな。まだクビになるわけにはいかないからな。」


クタナツ騎士団に有給って何日あるんだろう?


「僕らは帰らないよ。マリーとサウジアス海で水泳を楽しむことにしたから。」


「オッケー。じゃあやっぱり月末だね。」


オディ兄達も滞在か。


「私は帰るわ。旦那様が一人になってしまうもの。」


「はいはい。分かってるよ。」


父上が帰るんならベレンガリアさんも帰るよな。


「キアラはどうする? まあ帰りたくなったら自分で帰ってもいいけど。」


「まだ居るよー。フランツ君と遊ぶ約束したからー。」


なん……だと……


あのクソ王子……まさか本気でキアラに手を出すつもりか……

ふふふ……まあいい……月末に対戦する約束だ。場合によっては不幸な事故が起こることだってある。


「キアラ、遊ぶのはいいけど絶対日没までにここに帰るんだよ? 分かってるな?」


「分かってるよー。カー兄も遊ぼうよー。」


ぬっ、なんて無邪気なお誘い。私も遊びたい……しかし、行かねばならないんだ……


「ごめんなキアラ。今日出発しないといけないからさ。また月末に会おうな。あ、これ小遣いな。」


「ありがとー! カー兄も気を付けてねー!」


おお、キアラが心配してくれてる。妙に嬉しいぞ。子供の小遣いに金貨一枚は大金すぎるが、王都は物価が高いからな。




「ちょっとカース君! ひどいじゃない!」


「あら、サンドラちゃん。おはよ。どうしたの?」


何かあったのかな?


「気がついたら夜中だったのよ! 呼びに来てくれてもいいじゃない!」


むしろ夜中まで書庫に没頭していたのか……


「あははごめんよ。父上に頼んでおいたんだけど。行かなかった?」


「アランおじ様が来てくれなかったら朝になってたわよ! もーっ!」


飲食もなしに夜中まで……やはりサンドラちゃんの学問にかける情熱は半端じゃないな。


「ところで、夏休み後半だけど領都で過ごさない? うちかセルジュ君ちに泊まればタダだよ。」


「もーっ、ありがたくお世話になるわ。ちょうどお願いしようかと思っていたの。学校はあの様だし、クリュヴェイエ教授は怪我してるし。」


「ならちょうどいいね。昼前に出るから準備しておいてね。」


「ええ。ねぇアレックスちゃん、一度寮に帰ろうと思うの。付き合ってくれない?」


「いいわよ。一人で歩くにはまだ物騒だものね。」


なら私はあれこれお土産を確保しておこうかな。特に香辛料をしっかりと。


「あ、マリー。フェアウェル村にも行く予定だけど、手紙とか届けようか?」


「ありがとうございます。後ほど書いておきます。」


マリーのポイントも稼いでおかないとな。私のやったことに反省はないが、恩のあるマリーに恨まれるのはキツいからな。

まったく、どんな呪いをかけられたんだろうか。幸いアレクに嫌われた様子はない。




そうなると本日はまずクタナツで父上とベレンガリアさんを降ろしてから領都だな。マイコレイジ商会には一週間後に顔を出すと伝えていたのに、だいぶ遅れてしまったな。

カムイだって楽園に待たせたままだ。お土産をたくさん用意しておこう。


さて、朝食を終えた者からバラバラと食堂を出て行く。私も出よう。たまには一人で、いやコーちゃんと二人きりで歩くのも悪くない。ねー、コーちゃん。「ピュイピュイ」






そして昼前。ゼマティス家の庭に集まった私達。


「じゃああなた。気を付けてらしてね。月末に会えるのを楽しみにしているわ。」


「ああ、イザベルも久々の王都なんだ。しっかり楽しむといい。アステロイド達、頼んだぞ。」


「ああ旦那。任せてくれ。」


「ベレンも。アランを頼むわね。」


「はい奥様! お任せください!」


父上と母上はイチャイチャしながらも真面目な話をしている。子供の前でやめてくれよ。


「では伯母様、お世話になりました。また月末に会いましょう。」


「お世話になったのはこっちよ。本当にありがとう。遊んでばかりのグレゴリウスには過ぎた物まで貰っちゃって。」


「いえいえ、いいんですよ。それからラグナ達に、約束が果たせそうだとお伝えください。ではまた。」


「ええ。待ってるわね。」

「無事に帰ってきなさいよ!」


シャルロットお姉ちゃんまで出てきた。


「うん。お姉ちゃんもまたね。」




それからはいつものようにゼマティス家の馬車に乗り王都の第一城壁外まで乗せてもらう。ここから飛び立とう。ちなみに問題が一つ。


「えらく狭いな。これは鉄か?」


「悪いね父上。ミスリルボードは海の藻屑と消えてしまったんだよね。あれ高かったのに。」


今回は五人だけ、コーちゃんを入れても六人なので昔使っていた鉄ボードでも何とか乗れる。月末までには何とかしておくつもりだが。

くそぅ、クラーケンにワイバーンめ。あいつらの所為でミスリルボードを失ってしまった。ところでクラーケンって美味しいのかな。魔石しかゲットできなかったのが悔やまれる。


「私は旦那様と密着できるからいいけど。」


「仕方ないわね。私もカース君に密着してあげるわ。アレックスちゃんと両側から挟むようにね。」


残念ながらサンドラちゃんの胸では密着しても当たるのは骨ぐらいではないだろうか。でもいい匂いはするな。

痛っ、アレクに抓られた。ぬっ、サンドラちゃんにも抓られたぞ。




本来の予定ならムリーマ山脈でラグナ達を探してみるつもりだったが、やめた。どうせ月末には会えるんだし。

クタナツに一直線だ。いやぁたった二週間なのに色々あったよな。

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