第695話 王城と辺境伯家の上屋敷

王城の門周辺は白い奴らの死体と瓦礫で埋め尽くされていた。結構上空にいるのに微かに臭うものがある。それにあれだけの瓦礫が一体どこから?

そして城門は未だ固く閉ざされていた。見たところ動きはない。無事と言っていいだろう。しかし、城壁の上に誰もいないのが気になる。この状況で見張りを放棄するとは思えないが。

まあいい、正門の内側に降りるとしよう。それから玄関まで歩くとするか。


「いてっ。」

「きゃっ!」


何かにぶつかった。痛くはないのに声が出てしまった。


「もしかして結界魔法陣かな?」


「そのようね。透明な上に魔力も感じないわね。だから見張りがいないのかしら。」


「そうみたいだね。まあこれなら王城の守りは万全かな。正門以外に入れそうにないし、帰ろうか。」


「そうね。無事を確認できただけでも収穫よ。」


できればエルフのことを伝えておきたかったけど。それにしても不気味なほどの静けさだな。余裕ぶっこいてるわけじゃないよな?


「せっかく出てきたんだから他に行った方がいい所とかあるかな?」


「じゃあ辺境伯家の上屋敷に行きましょうよ。ソルのことを伝えておきたいわ。」


「なるほど。そうだね。上屋敷の人達もソルダーヌちゃんが気になってるだろうしね。」




そして到着。王城から結構近いんだが……




正門が壊されている……玄関の大扉も……

ゼマティス家をやった奴と同じなのか。


室内に入ってみる。


「誰かいませんかー!」

「どなたかいらっしゃいますか! 私はソルダーヌの友人、アレクサンドリーネです!」


返事がない。広い廊下なのに足の踏み場もないぐらい白い奴らと家人らしき死体に覆われている。吐きそうなほどの匂いだ。

『乾燥』

少しマシになった。


ゼマティス家でもそうだったが、魔法を多用する人間は密室だと弱いのだろうか。ここでも数の暴力に屈してしまったように見える。

それにしてもあれから教団本部以外で生きた狂信者を一人も見ていない。一体どうなってるんだ?


「アレク、ここで一番偉い人って知ってる?」


「ええ、辺境伯家の人間以外だと『王都留守居役』のナタニエル・ド・シュレット様ね。辺境伯閣下の信頼も篤い忠臣だそうよ。」


アレクは生き字引かよ。何でも知ってて助かるな。


「じゃあその人の部屋に行ってみよう。執務室とかありそうだよね。」


「そうね。きっとあるわ。何人かだけでも生き残ってくれてたらいいのだけど。」


私達は声を上げながら屋敷内を歩いている。さすがに奥に行けば行くほど死体は少なくなっている。同じような扉ばかりで全く区別がつかない。片っ端から開けてみるが、白い死体があったり家人の死体があったりだ。他の貴族家でもこんな状況なのだろうか。少し気になってきたぞ。


「カース、こっちに来てくれる?」


「オッケー、何かあった?」


白い奴らに紛れて、白い鎧の奴が倒れていた。これって確か、絶対魔法防御とかのやつだったっけ? 教団騎士とか言ったか。紫の鎧の方が強いんだったか?


こいつ一人に対して死んだ辺境伯家の人間がえらく多いようだ。厄介な奴だったのか……こんな奴がまだまだいるんだろうな。一体どうなってるんだ?


ん? 外が騒がしくなってきたぞ? まさか二日目開始とか? それなら全滅させてやる。


「アレク、外に行ってみよう。気になるからね。」


「ええ、本当に一体どうなってるのかしら……」




辺境伯家上屋敷の正門から外に出てみる。いた、白い奴らだ……どいつもこいつも目が正気じゃない……


『神を畏れよ』『神を敬え』『神に跪き』『神に赦しを請え』『神は偉大なり』『神は慈悲深く』『神は悪を赦すまじ』『神を畏れよ』『神を敬え』『神に跪き』『神に赦しを請え』『神は偉大なり』『神は慈悲深く』『神は悪を赦すまじ』『神を畏れよ』『神を敬え』『神に跪き』『神に赦しを請え』『神は偉大なり』『神は慈悲深く』『神は悪を赦すまじ』『神を畏れよ』『神を敬え』『神に跪き』『神に赦しを請え』『神は偉大なり』『神は慈悲深く』『神は悪を赦すまじ』……………………

……………………




「オメーらどこへ行くつもりだ?」


まあ、返事がくるとは思えないが……

手には武器、足元はフラフラ、そんな状態でも数の暴力で蹂躙できる……つもりなのだろう。


『燎原の火』


全員燃えてしまえ。ついでに路上の死体も燃やしておこう。疫病が発生したら大変だもんな。さすがに平原で使うのとは違うな。あちこちに建物があるせいで一発で全滅させられない。仲間がどんなに焼かれようとも少しも怯むことなく襲いかかってくる。


『氷塊弾』


アレクも容赦なく撃ち込んでいる。近寄る狂信者は皆殺しだ。近寄らない白い奴らは嬲り殺しだ。

こいつらと広い場所で戦う分には問題なかっただろうが……

その上、何人か白い鎧の奴が紛れていやがる……猛然と私達に襲いかかってきた。


『狙撃』


いくら絶対魔法防御でも鎧の無いところは防げないだろ。目玉から脳みそをぶち抜いてやるよ。それに衝撃貫通だってあるし。


結局いくら高性能な鎧を纏おうとも、肝心の人間が雑魚なら無意味だな。しかしおかしい……いくら正門を破られたからってこんな奴らに辺境伯家の上屋敷が陥とされるか?


まあいいや。ここを通る奴らを片っ端から片付けていけば、そのうち会話が通じる奴も現れるかも知れない。どいつもこいつも話が通じないんだから。ゾンビかよ。


あっ、忘れてた。焼け残った周辺の死体もきっちり焼いておかないとアンデッドになってしまう。夏の日差しで程よく腐ったアンデッド……やだやだ。蘇る前に処理しておこう。全ての死体を焼くには、とても手が足りそうにないが……


この調子だと貴族学校も心配だな。夕方に顔を出す程度に考えていたが、早めに行った方がいいだろう。ここが片付いたら行こう。


なのに、この白い奴ら。一体何人いるんだよ! 後から後から通りを埋め尽くしやがって。奇声を発したり、変な呻き声を上げたり。仲間が炎に包まれているのに顔色ひとつ変えずに襲いかかってくる。アレクは氷弾でぶち抜く。私は燎原の火で焼き尽くす。とてもいいコンビネーション、さすが私達。息がぴったりだ。


結局アレクの魔力が切れるまでおよそ二時間。白い奴らの襲撃は途絶えることはなかった。

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