第692話 法服貴族派と辺境派

私とパスカル君、そしてもう二人でソルダーヌちゃん達の所を目指している。


「カース君、せっかく来てくれたのにごめんね。あいつらはクワトロAの一角、アリョマリー派なんだよ。僕らみたいな法服貴族だけでは対抗すらできないのさ。」


「いやいや、僕としてはパスカル君が助かるならそれでいいんだよ。派閥って大変なんだね。」


「全くだよ。下っ端貴族は辛いよ。おっと、この二人を紹介するね。タイルート子爵家のガラナ君と、シャルドール子爵家のウォルト君だよ。」


「お初にお目にかかる。ガラナ・ド・タイルートと申す。此度はご助力かたじけない。」

「初めまして。ウォルト・ド・シャルドールです。時々パスカルから話を聞いてました。お会いできて光栄です。」


赤髪ガラナ君と藍髪のウォルト君か。下っ端と言いつつ思いっきり子爵家じゃないか。パスカル君のとこは伯爵家だったっけ? 忘れてしまった。


「カース・ド・マーティンです。パスカル君とはクタナツ時代の同級生です。」


「王国一武闘会はもちろん見ていた。妙な噂も聞いたが、あの魔王に助けてもらえるとは。もう何も怖くない。」

「全くです。あの大きな声が聴こえた時点でパスカルは助けてもらおうと提案していたんです。さっさと動いていれば……あいつらが来る前に移動できていたでしょうに。」


まあ色々悩んでみんなで話し合って決めたのかな。そりゃ遅くなるわ。つまり法服貴族派ってのはリーダー不在ってことか。

ところで妙な噂って何だ? 追求なんかしないけど。


「むしろ三人だけなら僕がいなくても問題ないよね。珍しい人を見れたからいいけど。」


「はは……すまない。今思えば無所属を選んでもよかったんだが……そんな勇気はなかったんだよ。」

「私もだ。腕っ節には自信があっても武闘会で勝ち抜けるほどではない。無所属を選択するような度胸はない。」

「僕だってそうですよ。魔力には少しだけ自信がありましたけど、王国一武闘会の魔法あり部門。あの中だとよくて予選の三回戦を突破できるかどうかってとこです。」


へぇ〜無所属もあるんだ。例えば誰がいるんだろう? 興味ないから聞かないけど。それにしても魑魅魍魎の貴族社会でも腕っぷしと魔力があれば生き抜けるのものなんだな。




さて、到着。安全な道のりで何よりだった。


「ただいま。結局この三人だけだったよ。残りは何とか派と合流するんだって。」


「ソルダーヌ様。せっかく温情をいただいたのに申し訳ありません。残りの者はアリョマリー派に吸収されてしまいました。不憫な奴らです。」


「おかえり。こちらとしては少ない分には問題ないわ。十人より多かったらどうしようって悩んでたのよ?」


「世話になる。何でも言いつけて欲しい。」

「よろしくお願いします。まずは何からやりましょうか?」


「ガラナ君にウォルト君。パスカル君も、あなた達のエリアはあそこ。今夜のところはトイレ以外であそこから出ないように。用があるのは明日の朝からね。それまで休んでなさい。」


「ありがとうございます。カース君もありがとう。本当に。」


「いいよいいよ。じゃあ外では寝にくいかも知れないけど、また明日ね。おやすみ。」


こうしてパスカル君達三人は屋上の隅へと移動していった。今なら少しぐらい帰ってもいいだろう。


「ソルダーヌちゃん、少し帰ってもいいかな? アレクが心配だからさ。」


「ええ、ごめんなさいね。また戻って来てくれると嬉しいわ。アレックスによろしくね。」


エイミーちゃんは戻って来て欲しくないけどいないと困るような複雑な表情をしていた。それでもソルダーヌちゃんの前だと何も言わないのね。


さあ帰ろう。アレクは大丈夫かな?




屋上を飛び立ってゼマティス家の正門前へ着地。私の氷壁は健在のようだ。

狭い隙間を通り抜けて敷地内へ。


「アレク、ただいま。大変だったよね?」


「おかえりなさい。こっちは大丈夫よ。ソルは無事だった? わざわざありがとう。」


ほっ、アレクは無事だ。


「無事だったよ。僕が行った時は魔力切れで寝てたけどね。」


「あの子って責任感が強いから……」


「そうみたいだね。自分だけここに避難するのは嫌なんだって。辺境派はよくまとまってたよ。」


「さすがソルね。ちなみにこっちは変化なしよ。それとシャルロットお姉様は帰って来てないわ。」


「そっか、少しは心配だけど問題ないよね。あっ、コーちゃんもただいま。」


「ピュイピュイ」


アレクを守ってくれていたんだよね。ありがとう。


「もうこの時間まで帰ってきてないなら、門は閉じていいよね。」『氷壁』


「それもそうね。お姉様だって子供じゃないんだし。心配いらないわよね。」


それから少し遅めの夕食。伯母さんも起きていた。


「カース君おかえり。助かったわ。もう大丈夫よ。休んでちょうだい。」


「それはよかったです。ところで、教団の黒幕はエルフでした。何人かいるみたいです。」


「そう……一体何が目的でこんなことをしてるのかしらね……」


「遊びらしいです。昼に殺したエルフが言うには人間をからかって遊んでただけみたいです。」


「そうなの……エルフともなると遊びの規模が違うのね……それで、カース君はどうするつもり?」


「もちろん残ったエルフを仕留めるつもりです。ゼマティス家にケンカ売ったんですから落とし前が必要ですよね?」


当然だよな。


「そうね。お願いするわ。私はここを動けないから。全く、こんな時にウチの男どもは……」


問題は生き残った幹部やらエルフやらがどこにいるのかってことなんだよな。明日は騎士団本部とか王宮とかにも行ってみようかな。あー、このままここでアレクと寝たいのに……

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