第683話 アレクと街角ショッピング

王都でデビルズホールや演劇以外に思いつく娯楽は王立賭博場だ。しかし、私やアレクは楽しめてもコーちゃんが楽しめそうにない。そうなると他に思いつくのは……ショッピングかな? 結局コーちゃんには我慢してもらうのか……


既製服はダサいのばかりだから買うことはなさそうだが、もしもアレクに似合う服があれば是非買いたいとも思ってるのだ。アレクって基本的に制服かドレスなんだよな。それにミニスカートを時々組み合わせたりしてオシャレかつ上品にコーディネートしている。だからたまにはカジュアルに決めるのもいいのでないか? そうしよう。


「というわけで買い物に行こうよ。アレクに新しいファッションをしてみて欲しいんだよね。」


「どういう訳? もちろん行くわよ。カースが選んでくれるんでしょ?」


「もちろんだよ。ミニスカートに合う服を買おうね!」


まずは第三城壁内の高級エリアから行ってみよう。カジュアルとは無縁そうなエリアだが。




悪くない。高そうな店だけあってアレクに似合いそうな服、ドレスはいくつもあった。しかし今日のテーマはカジュアルだ。よって買うことはなく店を出た。また来よう。


少し歩いて第二城壁エリアに出た。ここならカジュアルな服が見つかることだろう。さすがに人通りが多いな。ファンタジーあるあるだとスリを警戒するところだが、平民に至るまでほぼ全ての者が魔力庫を持っているため、まずスられることはないかな。


さて、たくさんの店の中から一軒の店を選んでみた。どことなくデビルズホールと同じ匂いのする店だ。周囲に冒険者が屯しているところも同じだ。あれ? てことはダサい服しかないのか? まあいいや。


店内に入ってびっくり。センスが昭和だ。このローランド王国で昭和を感じるってことは、かなりの最先端ファッションなのだろうか……?

あ、ドカンが売ってある……あいつらここで買ったのか……今日も元気だドカンが似合う。


そんなことよりアレクだ。何かないか……




あった!

ラメ入りのキャミソール!

結構趣味が悪いけど、アレクのミニスカートに合わせればオシャレかつセクシーに違いない。防御力皆無だから街中でしか着られないだろうが。色の種類は多いな。何着か買おうかな。


「これなんかどう? アレクの魅力を存分に引き出せる服だと思うよ。」


「もう……カースったらこんな服ばっかり……」


「いやー、アレクの魅力をみんなに伝えたくてさ。ミニスカートだって動きやすいよね?」


「確かにそうだけど……」


「まあここで買うのは一着だけにして、後日ケイダスコットンやシルキーブラックモスで仕立ててもいいかもね。」


「カースったら……贅沢すぎるわよ。」


「ではこのキャミソールと、ジャケットを買おう。」


紫でラメの入ったキャミソールと、パンクな香り漂う薄い革の黒いジャケットを買った。金貨一枚もしなかった。アレクの赤黒チェックのミニスカートと相性が良さそうだ。


「じゃあアレク。早速着てみてよ。待ってるから。」


「分かったわ。行ってくるわね。」


そう言ってアレクは試着室に向かった。

まだかなまだかなー。




「いよぉ〜坊主ぅ〜、ゴキゲンかぁ?」

「こんな店で買い物するときゃ気ぃつけなぁ?」

「この前デビルズにいたよなぁ? 目立ってんじゃねぇぞ?」

「いい女連れてやがってよ? ほーら、早く帰った帰った。今ならなんと無傷で帰れちゃうぜ?」


異世界情緒漂わない絡まれ方だ。というか大抵こんな絡まれ方をするよな。昭和ヤンキーあるあるか?


「おいおいガキのくせに魔王スタイルでキメてやがるぜ?」

「怖い者知らずかよ? それで強くなったつもりかぁ〜?」

「まあいいや、早く帰らねぇと泣きながら有り金とられちまうぜ?」

「そんな古クセェ格好してても誰もビビらねぇんだよ! そろそろ時間切れ〜、俺らもキレるぜぇ〜?」


上手いこと言ったつもりか?


それより新発見。私の服装は短ラン、ボンタン的な不良のステータスのようになっているのか? こんな紳士的な格好なのに。


「ところで最近デビルズに魔王が出たって聞いたぜ? 知ってるか?」


本人が言うんだから間違いない。


「はっはーん、それでテメーそんな魔王スタイルでキメてんだな?」

「たんじゅーん! そんなハッタリが効くかよ!」

「ガキだから知らねーんだろ? 魔王ってのぁなあ、ゼマティスの前当主の孫なんだよ! そんな奴がデビルズなんか行くかよ?」

「そーそー! いもしねー魔王にビビって帰った奴らはいたらしいけどよぉ?」


そのゼマティスの孫が二人、アレクを含めれば三人も行ってたんだがな。あの三人組のことは知られてるのか。意外な情報網。それともただの目撃証言か? いかんな。意外と楽しくなってきてしまった。ここからどう話を展開しよう?


「じゃあよ? 今の王都で顔が売れてる、もしくは名が知れてるのは誰だ? 若い世代でな。」


「はっ! やっぱり何も知らねーガキかよ! 教えてやるから帰れよ?」

「まあよ? 俺らの世代で有名人うれもんっつったら……」

「イグレイアスとかビッケインか?」

「おおー、『柳剣イグレイアス』と『鎌槍ビッケイン』な。おら、勉強になったろ? 早く帰れよー」


ん? 少し聞き覚えがあるぞ? 興味が湧いたな。


「もう少し! もう数人教えてくれたら帰るからよ。」


「しょうがねーな。俺ぁヤニックに一票だぜ?」

「おお『剛力ヤニック』かよ。いいとこ突いてくるな。俺ぁヘドラスを推すぜ」

「バーカ!『脳筋ヘドラス』なんかダメだろ? やっぱ『暴魔ナグアット』だろ?」

「おおそうだよな! ナグアットがダントツだわ! おら、分かったな? オメーみてぇなガキがあんなマブい女連れてんじゃねーぞ?」


もっと聞きたくなってしまった。それにしてもマブいって……マブいアレクはボードにハコ乗りだな。


「じゃあ最後。そいつらと比べて魔王ってどうなんだ? いい勝負なのか?」


「オメーホントに何も知らねーんだな? 魔王を知らねーってどこの田舎モンよぉ?」

「魔王はよぉ〜そいつらでも相手にならねぇバケモンよぉ?」

「そうそう。分かったらそんなハッタリ効かせたカッコなんざやめとけや? 怪我すんぞ?」

「あんな高めの女連れてっと金がいくらあっても足りねーぜ? 帰った帰った!」


ハクいスケを連れてハナキンはマハラジャでフィーバー。そんな光景が目に浮かぶ。ここは王都なのに。あー面白かった。


「楽しかったぜ。お前ら金に困ったら言ってこい。好きなだけ貸してやるからよ。行こうかアレク。」


「ええ。私も楽しかったわ。待たせたわね、どう?」


「すごく似合ってるよ。でも困ったな。似合いすぎてるからさ、もう脱がせたいよ。」


「もう、カースったら。じゃああそこに、行く?」


「行く行く!」


その間コーちゃんにはお酒を飲んでいてもらおうか。適当に買っていこう。


「おい待てや!」

「女ぁ置いてけや!」

「金貸すだぁ? 金貨十枚置いてったら許してやんぞ!?」

「無事に帰れっと思ってんのかよ!」


置いてけって言われたからには置いていこう。金貨を四十枚。


「ほれ。一人十枚ずつ貸してやるぞ? トイチの約束な。複利だけど。」


「ほほぉ? 素直じゃねぇの」

「素直なガキぁ長生きするぜぇ?」

「ほら、よこしな? 何かあったら言ってこいや」

「そこのアーパー女も忘れんなよ? 置いてけや?」


契約魔法が誰にも掛かってない。こいつら私の話なんか聞いてないな?


それよりも……


アーパー女って意味は分からんが、アレクに対する侮辱とみなす。

弱めに『麻痺』


「て、てめ!」

「何しやがった!」

「くそっだらぁ!」

「動けねぇ!」


だが首から上は動くだろ?

『浮身』外に出ようか。さすがに店内で長々と話しすぎた気がする。


さあ、どうしてくれようか。

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