第660話 楽園のど真ん中
そんな熱い夜を過ごした翌日、パイロの日。
行きたい所はたくさんあるが、しばらく放ったらかしだった楽園へ行こうと思う。
コーちゃんとカムイを連れて行こう。荒れてなければいいのだが……
到着。クタナツから一時間足らず。恐るべき速さだ。我ながら感動すら覚えてしまう。
楽園の城壁内には……
掘立小屋がポツポツと点在していた。さすがに中央の私の家周辺には何もないが。勝手に建てやがって……と言いたいところだが、許す! 全然腹が立たない。再び楽園に来れた喜びが大きすぎるのだ。
「ピュイピュイ!」
「ガウガウ!」
コーちゃんとカムイは走り出した。思いっきり遊びたいそうだ。行っておいで!
「よーし、アレク。久しぶりに中に入ってみようよ。何事もなければいいね!」
「ええ、ここに来るのは二年ぶりかしら。見たところ無傷のようね。」
玄関は壊れてない。魔力錠も問題なく作動した。中に入っても異変は見当たらない。どうやら一安心か。
気になっているのが風呂とトイレだ。まずは風呂から。
二年前の九月に両親が使って以来放置だった湯船。さすがに空になっている。保温や魔力回復性能がどうなっているのか、検証はまた今度。今日は取り敢えず収納しておこう。そしてクランプランドに発注していた新しい湯船を置いておこう。ここのサイズに合わせて発注したやつだからな。
次にトイレ。
ん? 臭いぞ?
ってことは浄化槽内のスライムが死んでしまったのか……
二年間も餌なしだもんな……悪いことしてしまった。ごめんよ、名も無きスライム。
となると浄化槽ごと入れ替える必要があるな。マイコレイジ商会のセプティクさんに相談してみよう。
よし、確認終わり!
予想外の損傷はあったけど、予想していた損傷がなかったので良しとしよう。
「じゃあアレク。寝室に行こうか。」
「うん……先に行っててくれる?」
「分かったよ。待ってるね。」
トイレかな? しかしそんなことはどうでもいい。ここならどんなに激しくしたって問題なしだ。ふふふ、まだかなまだかなー。
ドガッ
ん? 何かが壊れたような音がしたぞ?
アレクがどうかしたのか? 行ってみよう。
「アレク!」
トイレのドアが内側から壊されていた。アレクの風球か? 大丈夫なのか?
中に入ってみると……
アレクが……
スライムに包まれていた……
「アレク!」『乾燥』
まずは顔だけでも出さないと!
さらに『乾燥』
よし! 上半身が出てきた!
『乾燥』
よし!
見たところ全滅したか……
「アレク!」
急いでポーションを飲ませて、さらに身体中にも振りかける。服は全て溶かされており、下着がわずかに残るだけ、全身大火傷状態だ。
スライムがギリギリ生きていたのはいいとしても、どうやって浄化槽から登って来たんだ? もういないよな?
それよりクタナツへ帰ろう。アレクを母上に診てもらわないと!
コーちゃん、カムイ! 帰るよ! 乗って!
「ガウガウ」
え? 番をする? 分かった。ありがとな。二週間後にはまた来るからな。待っててね。
行くぜ!
全速力!
その間にアレクの容態チェック。
呼吸はしている。
心臓も動いている。
ならば大丈夫だろう。
せっかく伸びた髪がまた短くなってしまったが、命が助かってよかった。
ベリーショートのアレクだってかわいいさ。
そんなことより……
あと二、三分遅れたら絶対死んでたよな……
自宅のトイレで魔物に襲われるって……怖すぎる。しかしアレクが抵抗もできないなんて、やはりスライムは恐ろしい魔物だよな。オディ兄直伝の乾燥魔法があってよかった。
帰りは三十分ちょい。城門の手続きがもどかしい。城門から実家まですらもどかしい。高級ポーションのおかげで外傷はすでに消えたが、早く母上に見せないと安心できない。
全く、私達の人生って波瀾万丈だよな……
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