第629話 決勝トーナメント一回戦

『さぁ! 第二試合に参りましょう! 一人目はァー! オウタニッサ・ド・アジャーニ選手! 今大会の発起人であり王国一武闘会の覇者! 名実ともに最強であることを示し! ウリエン様を手に入れると意気込んでおります!

二人目はァー! キャロル・バルロー選手! 剣鬼様の弟子であり! 祖父は前クタナツ代官! しかし彼女本人はゆえあって平民! クタナツの血を燃やすことができるのかぁー!

奇しくも! 現クタナツ代官のイトコ対前クタナツ代官の孫の対決となりましたぁー!双方構え!』


『始め!』


猛然と距離を詰めようとするキャロル選手に対してオウタニッサ選手はチクチクとした魔法で対応している。足元を凍らせたり、後ろから風球を当てたり。そしてやっと近付いたと思えばするりと空中に逃げ、そこからじわじわと魔法を撃っている。キャロル選手も空中に浮かび上がり追撃しようとするが、慣れてないのか制御が甘い。攻撃を食らう面積が増えただけになってしまっている。


結果、真上からの魔法が直撃し、武舞台に叩き落とされて決着となった。


『勝負あり! オウタニッサ選手の勝利です!』


『改めて見ると、オウタニッサ選手の試合運びは見事の一言じゃな。接近戦を避け、自らの戦いやすい舞台で勝負をしている。』


『そうだな。王国一武闘会の時にも思ったが、あのクラスの貴族にしては実戦経験も豊富なようだ。二回戦の第一試合はいきなりの波乱だな。』


そっか。二回戦の組み合わせが確定するんだよな。もう優勝候補同士の対決か。見応えがありそうだ。




『第三試合を開始します! 一人目はァー! ウリエン・ド「キャアアアァァァー!! ウリエン様ー! 素敵ー! カッコいいー!」始め!』


司会の声が全く聞こえない。あれだけ観客がいて、さっきまでどっちが勝とうが静かだったくせに。対戦相手も武舞台に上がっているが超アウェイだ。可哀想に。




もう終わった。相手の女の子は大好きな兄上を目の前にして動けなくなってしまっていた。兄上は仕方なく浮身で優しく場外へ運んであげるのだった。あの子何しに来たんだ?


終わったのにまだ歓声が止まらない。人気ありすぎ。




「気を取り直して! 第四試合を開始します! 一人目はァー! ナーサリー・カムレイド選手! 平民ながら唯一のシード選手! 魔女イザベル様の薫陶を受けたことがあるのが自慢! 治癒魔法使いの年増だぁー!

二人目はァー! カッサンドラ・ド・ベクトリーキナー選手! まさかこの選手までウリエン様狙いなのか!? 王国一武闘会でのアレクサンドリーネ選手との激戦を私は覚えておりまーす! 年の差およそ二十歳! どんな勝負になるのでしょうかー! 双方構え!』


『始め!』


治癒魔法使いはエゲツない魔法を使うってのがファンタジーあるあるだが、ナーサリーさんはどうなんだろう? それに対して幻術使いのカッサンドラ選手か。結構強かったよな。




終わった。ナーサリーさんが勝った。カッサンドラ選手は幻術だけでなく毒の魔法も使ったようだが、ナーサリーさんには効かなかった。逆にナーサリーさんの強力な眠りの魔法にやられてしまった。


『勝負あり! ナーサリー選手の勝利です!』


『起きている者、気を張っている者を眠らせるには相当に魔力差がないと難しい。地力の差がありすぎじゃな。』


『カッサンドラ選手は目くらまし程度に毒焔どくほむらの魔法を使ったが、あまり意味がなかったな。大人気ないとも言いたくなるが。』


母上の薫陶か。どの程度か気になるな。王都にいたのって二十年ぐらい前だよな?

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