第612話 カースの告白

とうとう言い出せないまま城門をくぐってしまった。面倒だがまずは騎士団詰所に行かねばなるまい。二十何人も殺したのだからな。


それにしても吹き矢で毒とは……麻痺毒ってことは前回とは違うやつか。

それも死体と合わせて提出しておいた。闇ギルドなんていくらでもあるんだろうなぁ。

ご丁寧に魔封じの首輪まで用意してやがるし。アレクにそんなの効くか? 少しは効くかな。




そしてとうとう我が家へ。懐かしい我が家、私の城。


「まあ! 坊ちゃん! おかえりなさいませ! お元気そうで何よりですわ!」


「ただいま。心配かけたね。」


マーリンはそう言って私を抱きしめてくれる。豊満な腹が暖かい。メイドにあるまじき行為だけど嬉しい。


「さあさあ! すぐ夕食にしましょう! 今夜はご馳走ですわよ!」


ありがたいなぁ。日常っていいよなぁ。もう泣きそうだよ。しかし、夕食の前に言っておかなければ……




「……アレク、聞いてくれる?」


「いやよ! 聞きたくない!」


「アレク?」


「いやいや! 私が悪かったの! ごめんなさい! 至らないところは直すわ! だからお願い!」


「いや、アレク?」


「お願い! 何でもする! 妾でも! メイドでもいいの! 側にいさせて! 捨てないで!」


「アレク、落ち着いて。捨てられないようお願いしたいのはこっちなんだよ。」


アレクらしくないな。よほど寂しくて追い詰められてしまったのだろうか。


「カースが辛そうな顔をしてるから……そんな時にあんな手紙送ったから……私……」


「違うんだ。言いにくかったのは……僕が……魔法を使えなくなったからなんだ……」


「嘘……カースほどの魔力があって……え? 魔力が……感じられ……ない……?」


「だよね。感じられないよね。目を覚ましたのはいいけど、魔力を失くしちゃったんだ。それに自分の魔力はもちろん、人や魔物の魔力も、母上や姉上、キアラほどの魔力だって感知できないんだよ……」


そう、落ち着けばアレクなら私から魔力が感じられないことぐらい分かるよな。


「そんな……カース……何てこと……」


「だから……言えなかったんだよ。」


「カース……弱くなったの?」


「そうだよ。」


「だから木の板に乗って……お姉さんが魔法を使っていたの?」


「そうだよ。」


「もう……戦えないの?」


「いや、弱くなったけど戦える。フェルナンド先生を目標に強くなるよ。」


「無理しなくていいわ。カースは……私が守るから。」


「アレク?」


「今まで私はカースに守ってもらってばかりだったわ。だからこれからは私がカースを守るわ!」


「ア、アレク……」


何だ……湧き上がってくるこの気持ちは……


「だから……ずっと側にいて! どこへも行かないで!」


「もちろんだよ! ずっと、ずっと一緒だよ!」


「カース!」


「アレク!」


私達はきつく抱きしめ合う。姉上が早く夕食にしようよーって言いたそうに見ているが知らん! 待ってろってんだ!

間違いなく今の私達は世界一の幸せ者だ。アレクさえいれば魔力がなくても生きていける! 贅沢はさせてあげられないと思うけど、人並みのささやかな暮らしなら!


「はいはい、夕食ができましたよ! さあさあ食べてくださいな! 狼ちゃんも同じメニューですからね!」


マーリンは相変わらずだなぁ。私達の寝室にだってズケズケ入ってくるんだから。肝っ玉母ちゃんだな。


あぁ美味しい……マーリンの味だなぁ。

コーちゃんもおいしい? カムイも。

「ピュイピュイ」

「ガウガウ」




そして風呂。

疲れている姉上には悪いが後回しだ。

実家の風呂もいいが、ここの大きなマギトレント湯船も最高だ。


「改めてカース、おかえり。」


「うん、ただいま。すごく会いたかったよ。」


「がんばったのね。お姉さん、助かってよかったわね。」


「うん、マリーのおかげだよ。エルフの皆さんにも助けてもらったしね。」


「マリーさんはエルフだったのね。耳しか違いがないなんてすごいのね。」


「すごいよね。勇者のことも知ってるみたいだったよ。詳しくは聞けなかったけど。」


そして風呂から出て寝室へ。この部屋も久しぶりだよな。


「カース……」

「アレク……」


もう言葉はいらない。

思いの丈を全て、ありったけ私の想いを全て……

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