第599話 マリー、エリザベス、そしてコーネリアス
村に戻ったマリーは早速蟠桃の実を絞ってみる。まずは半個だけ使用する。
それをほんの少し、一、二滴だけカースの口に含ませてみる。するとどうだろう。カースの喉が動いたではないか。これなら上手く行くのではないか、そんな希望が生まれた。
マリーは残り半個も絞って少しずつカースに飲ませていく。動く、やはりカースの喉が動いている。マリーの判断は正しかったのだ。
ちなみに果汁の絞りカスはカムイとコーネリアスが喜んで食べている。
やがて実一個分の蟠桃の果汁を全て飲みきったカース。ほんの少しだけ顔色がよくなったのではないだろうか。
残りの蟠桃は三個。それまでにカースは目覚めるのだろうか。マリーは一日一個ほど飲ませるつもりだが、それでも目覚めなかったら……再び行くしかない。怒れる魔猿の園へ……
そのままカースは目覚めることなく二日が過ぎ、そして明日には最後の蟠桃を使わざるを得ない……そんな夜遅く。
ドムン、と何かがぶつかるような音がイグドラシルの方から聞こえてきた。
静かな夜でなければ聞き逃したかも知れない程度の音だった。
カースの世話で起きていたマリーは胸騒ぎを覚え、音がした方へと向かってみる。そこに横たわっていたのはエリザベスだった。
「お嬢様! お嬢様! しっかりしてください!」
「おいおいマルガレータ。怪我でもしてるんじゃないか? 手当てしてやったらどうだ?」
「そうそう。人間はバカだからな。こんな夜に飛ぶからこうなるのさ」
「しかしこいつはツイてるんじゃないか? もしぶつからなかったらどこまで行ったんだろうな?」
このタイミングで村へ舞い戻ったエリザベス。果たしていいタイミングだったのか、そうでもなかったのか。
エリザベスは酷い怪我をしていた。イグドラシルにぶつかっただけではない、きっといくつもの魔物に襲われたのだろう。それでも方向を失うことなく、フェアウェル村を目指して飛んで来たのだろう。
しかし普通の怪我ならいくら酷くてもマリーの手持ちのポーションと治癒魔法、回復魔法でいくらでも治せる。
翌日の昼、エリザベスは目を覚ました。
「お嬢様。お加減はいかがですか?」
「マリー……私……やっと戻って来れたのね……」
「ええ、よくお戻りいただきました。ですが坊ちゃんはまだ……」
「そう……これを試してみてもらえない? 母上や母上の実家の秘蔵のポーションを貰ってきたの。」
「なるほど……これはいい物ですね。幸い坊ちゃんは無意識ですが飲み物を飲める状態になりました。これなら上手くいくかも知れませんね。」
マリーは最後の蟠桃の半分を絞り、そこに同じ量のポーションを注ぐ。少しだけ飲んでみたが、やはり蟠桃の甘みは強烈だ。これならカースも吐き出すことなく飲んでくれるのではないだろうか。
一滴ずつ、カースの口内にポーションカクテルを注ぐ。カースの喉が動く。問題なく飲んでいる!
残り半分はまだだ。ポーションと混ぜているため一気に飲ませるわけにはいかない。様子を見ながら時間を置いて飲ませる必要があるのだ。
「ねえマリー。こっちの魔力ポーションは使わなくていいの?」
「ええ。どういうわけか今の坊ちゃんからは魔力が感じられません。ですから魔力に影響を与えるポーションを飲ませるべきではないかと。」
「そうね。妙な状態だけど、顔色は良くなってるわね。」
そして同日深夜。
「これが最後の蟠桃です。これを使っても目覚めないようであればお嬢様、私と二人で採りにいきますよ。」
「ええ、マリーとなら怖いものなしよ。」
そして昼間と同じようにポーションカクテルを作り、カースに飲ませようとした。その時……
「ピュイピュイ」
なんとコーネリアスが容器に首を突っ込み全部飲んでしまったではないか。
「コーちゃん……何てことを……」
「このクソ蛇、何やってんのよ!」
絶望的な表情を浮かべるマリー、怒りを露わにするエリザベス。しかしコーネリアスはどこ吹く風といった表情のまま、頭をカースの口に突っ込んだ。
そのままスルスルと奥に入り込む。
「え、コーちゃん? 何を?」
「カースに何するのよ!」
五十センチも体が入っただろうか。静止すること十数秒。それからコーネリアスは体を引き戻した。
「ピュイピュイ」
どことなく満足そうな顔をしてマリーを見つめるコーネリアス。一体何をしたのだろうか?
「これで坊ちゃんは助かるのですね?」
「嘘!? ホントに!?」
「ピュイピュイ」
もはやドヤ顔と言っていいかも知れない。そんな表情でエリザベスに返事をした。それからコーネリアスはカースの体の上にトグロを巻き、眠ってしまった。
隣にはカムイも寝ている。
「お嬢様はもう休まれてください。後は私が見ておきますので。」
「そう、悪いわね。じゃあ休ませてもらうわ。おやすみ。」
コーネリアスは一体何をしたのだろうか。
カースの命運はいかに。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます