第580話 エルフの飲み薬
私はこんな状況にもかかわらず、親切にも村長の家にミンチになりかけのエルフを連れて帰った。
「姉上! マリー、姉上は!?」
「坊ちゃん。お見事でした。まさかイグドラシルが実を結ぶほどの魔力……しかしこれからです。実を原料として飲み薬は作られます。まだまだ魔力が必要です。」
「分かった! 回復するよ!」
魔力ポーションはまだまだある! 後のことなんか知るかよ! いくらでも飲んでやるよ!
「よいか? 坊ちゃんよ。今から儂は作業に入る。その間お前はこの結晶に魔力を込め続けるのだ。途切れたら終わりだ。分かったな?」
「はい!」
やってやるよ。じっくり魔力を込めればいいんだな……
なんだこの実!?
まるでオリハルコンみたいに魔力を食いやがる! ゆっくり込めようと思ったのにガンガン魔力がなくなってしまう!
くそ! 二分に一本ぐらいポーションがなくなる。確かに大量に持ってるけど……
くそ……
話には聞いていたが、ポーションを飲み続けると、段々効き目が悪くなってくる。しかも気分まで悪くなってくる……一体何本飲んだんだ……
「よし! イグドラシルの結晶をここに置くのだ!」
村長が座っている場所は祭壇のようになっている。そこに置けばいいんだな……
「うむ。魔力が充満しておる。見事だ。これなら助かるだろう。後は任せておけ。」
「あ……ありがと……ござ、ます……」
マジで頼むぞ……もう……意識が……
およそ五十年ぶりに舞い戻った故郷は何も変わっていなかった。両親は元気にしているのだろうか。
しかし今はそれどころではない。いち早く
幸い門は私の声で開いてくれた。裏切り者とは思われてないようだ。顔見知りも元気そうで懐かしい気持ちが胸に去来する。
久しぶりにお会いする村長。以前は強大な魔力を持つ恐ろしい方だと思っていたが、カース坊ちゃんと比べると何ほどのこともない。
「元気そうだな。マルガレータバルバラ。人間と精霊様を連れて戻ったそうだな。」
「お久しぶりです。村長もお変わりないようで何よりです。助けを乞いに参りました。私の恩人のお嬢様が『死汚危神』に似た毒に侵されております。本物ほどではありませんので、エルフの飲み薬ならば助かるはずです。いかなる対価も用意する所存です。」
「ふむ。お前がそこまで言うとはな。同胞の頼みだ。対価は必要ない。しかしお前も分かっておろう? 魔力次第だということを。」
「もちろんです。私をここまで連れて帰ってくれた人間は勇者を超える魔力を持つお方。必ずや!」
「大きく出たな。イグドラシルの結晶が実を結ぶには勇者の一人や二人でも足らぬ。せいぜい足掻くがよい。よしんば結晶ができたとしてもその後もあることだしな。」
そして坊ちゃんは見事にイグドラシルの結晶を手に入れた。なぜかバルトロメーウスイニが血まみれで転がっているが些細なことだ。
しかし、本番はここからだ。イグドラシルの結晶を村長が飲み薬に加工する。エルフの村ではそれができてこそ村長たり得るものだ。ただし膨大な魔力が必要となる。
通常は村の全員で何ヶ月もかけて少しずつ魔力を溜めておくのだが、人間のために村人が協力してくれるはずもないし、時間もない。村長が助けてくれることすら望外だというのに。
それでも坊ちゃんはやり遂げた。しかし、あれだけの数の魔力ポーションを飲んでしまったら、もはやどんな副作用が出るか分かったものではない。せめて命に関わらなければよいのだが……
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