第575話 イザベルとマリー
王都を飛び立って一時間。ほぼ一直線でクタナツを目指している。オディ兄に貰った羅針盤があるから楽勝だ。ムリーマ山脈だって上空を通過する。魔物はたくさんいるが、私に追いつける奴なんかそうそういない。無視してぶっちぎる。
解毒をかけ続けながらも全速力。さすがにキツいな……
見えた! クタナツ! 上空から急降下!
実家へ直接着陸だ!
「母上! 母上!」
「カース君? 王都に行ってたんじゃあ? それにエリザベスさん!? どうしたの!?」
「ベレンガリアさん! 母上は!?」
「いらっしゃるわ! 奥様ー! 奥様ー!」
よかった。いるのか。
「カース? どうし、エリザベス! 毒なのね!?」
さすが母上。話が早い!
「ベレンガリア! 急いでマリーを連れて来てちょうだい! 早く!」
「はいぃ!」
マリーも必要なのか……
やはり危ない毒か……
「おじいちゃんはまるで『死汚危神』みたいだって言ってたよ……」
「そうね。私もそう思うわ。クタナツに連れてきて良かったわ。助かる可能性が少し出てきたわ。カース、しばらく解毒を頼むわね。」
「押忍!」
母上はそう言って家の中に入っていった。助かる可能性か……やはり母上は頼りになる。それでも少しなのか……
ほどなくしてマリーも来てくれた。
「マリー! 姉上が!」
「坊ちゃん……お任せください。坊ちゃんはそのまま解毒を続けてください。」
母上も出てきた。な、なんだその服装は!?
まるでどこかの神殿の巫女のようだ。
「マリー、どう見る?」
「奥様……まるで禁術の毒です……」
「やはりそうなのね……お願いできる?」
「お任せください。私もちょうど行かなければならない用がありましたので……
さて、坊ちゃん。話は後です。今から私とお嬢様を乗せて北に飛んでもらいます。いいですね?」
「分かった! どこへでも行くよ!」
すると母上は着ていた服を脱ぎ、姉上を覆ってしまった。顔だけは出しているが。
そして、いきなり自分の髪をほとんど根本から切ってしまった。それを姉上と服の間に詰め込んだ。
その上、手首を斬って……上から血をかけている……
「母上! 何やってんの!」
「ギャワワッ!」
「エリの生命維持よ……でもごめんなさいねカース。これでもきっと足りないわ……あなたに大変な思いをさせてしまうわね……」
一体何を……?
姉上は母上の髪と血、そして巫女のような服に包まれた。
「いいわよマリー。できればまた会いたいわ。帰って来てね。」
「もちろんです。さあ坊ちゃん出してください!」
「分かった! 母上行ってくるね! ベレンガリアさん! 母上をお願い!」
「分かったわ! 任せて!」
話がさっぱり分からんが、姉上が助かるならそれでいい! 行くぞ北へ!
カース達が飛び立った後、マーティン家では……
「私は騎士団詰所に出頭してきます。キアラを頼んだわよ。」
「そんな……奥様……」
「仕方ないわ。こんなに白昼堂々と関所破りをしてしまったんですもの。隠しきれないわ。せめて少しでも罪が軽くなるよう祈っておいて。」
「はい……奥様……」
イザベルは服装を整え、騎士団詰所に出頭した。乱雑に切られた髪が悲壮感を漂わせる。一時的ではあるが髪と魔力を失ったイザベル。よほど親しい者でない限り今の彼女を見て、あの魔女だと気付けないだろう。
一体どれほどの罪になるのか。カースはクタナツに帰って来ることができるのだろうか。
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