第529話 決勝戦の後

私が目を覚ましたのは決着から三十分ほど経ってかららしい。負けたのか。やっぱりスティード君は強いな。くそ、分かってはいたが悔しいぞ。


「カース、起きたのね。よかった、心配したのよ。」

「ピュイピュイ」


「おはよ。負けちゃったよ。やっぱりスティード君は強いね。」


「そうね。でもカースの方がカッコよかったわ! 惚れ直したんだから。」

「ピュイピュイ」


「ふふ、ありがと。」


そしてアレクを抱き寄せる私。私の首に顔を埋めるアレク。それから顔を引き私の口に……


「ここ治療室なんだけど。元気なら帰ってやってよね。こちとら三年ぐらいご無沙汰なんだからさ。」


治癒魔法使いさんだ。たぶん三十代前半、鋭い目をした色気が漂う女性だ。


「全部きっちり治しておいたからね。よくもまぁそこまで戦ったもんよ。脇腹がかなり痛かっただろうに。」


「ありがとうございます。おいくらですか?」


「金貨五枚。本当は四枚だけど、機嫌が悪いから五枚払いな。」


「もちろん構いませんよ。ありがとうございました。」

「カースがお世話になりました。」

「ピュイピュイ」


お茶目な人だな。あれだけ怪我をしてもあっさり治るのが魔法のいいところだよな。これで明日に差し支えなし!

コーちゃんにも心配かけたね。「ピュイピュイ」


治療室を出るとみんなが待っていてくれた。


「やっぱりアンタ普通に戦っても強いじゃない!」

シャルロットお姉ちゃん。こんな戦い方をするのはスティード君とだけだよ。


「あの騎士学校の猛虎スティードにあそこまで食い下がるなんてね。やっぱり側室にもらってくれない?」

ソルダーヌちゃん。アレクの希望に沿うなら貰うことになりそうなんだよな……困ったな。


「カース、強くなったな。驚いたぞ。」

ウリエン兄上! 見ててくれたんだね!


「中々やるじゃない。まあ兄上ほどじゃないけど。」

兄上がいるなら姉上もいるよな。ちゃっかり腕を組んでるし。


「見事な戦いだったよ。よくやったね。」

フェルナンド先生まで……いかん、泣きそうになってきた……


他にもゼマティス家の面々や道場の人達。色んな人が声をかけてくれた。なんて嬉しいんだ。


そして表彰式。

国王が武舞台まで降りて表彰を行うため、武舞台の周りは近衛騎士によって囲まれている。その一人一人が兄上並みか、それ以上の腕なんだろうな。

それよりも開始前は遠くて見えなかったが、やはり国王ともなるとオーラが違う気がする。アレクの上級貴族オーラもすごいが、やはり王族ならば差は歴然か。細身でしなやか、魔力だけでなく剣術も強そうだ。年齢を感じさせない凛々しい表情。やはり王族は違うもんだな。


『ただいまより表彰式を行います! 皆さま、ご起立、脱帽の上、ご注目ください。まずは国王陛下より総評をいただきます。全員静聴!』


『まずは参加者諸君に労いの言葉を贈りたい。よくやった! いい戦いであった! お前達には本日の結果を胸に明日からの糧にして欲しい。さて、総評であったな。知っての通り、この武闘会は何でもアリだ。バレなければ魔法を使うことすらアリだろう。もっともバレなかったやつはいないがな。今回印象的だったのはもちろんスティード選手だ。大貴族相手に一歩も引かない姿勢は小さな勇者と呼んでいいだろう。体は大きいがな。ちなみに誘拐の実行犯と黒幕はすでに処理してある。マルセル選手の友人達が共謀して行ったことであり、アジャーニ家は関与しておらぬことが判明した。まあそれはどうでもよい。人質を取るなとは言わん。取ったら取ったで初志を貫徹せよ。勝ちたいのなら目を抉られようが腕を捥がれようが戦いを止めないことだ。最初に伝えたな? 決して最後まで諦めるなと。

その点、決勝ではよい戦いを見せてもらった。両者とも最後まで勝利を求めて足掻く姿は印象的であった。

お前達! 明日の戦いも期待しているぞ!』


やはり拍手喝采だ。いいコメントするよな。


『続きまして、トロフィーと賞金の授与を行います! スティード・ド・メイヨール選手、前へ!』


スティード君は緊張した面持ちで国王の前へと歩み寄る。


「汝の勇戦に敬意を表してこれを授ける。また、この度の功績で近衛学院だろうがどこでも好きな進路を選ぶ権利を得た。卒業までに考えておくがよい。」


「ありがとうございます。ライバルに負けないよう精進したいと思います。」


「さて、それとは別に優勝者の特権だ。何か望みを言ってみよ。叶うかも知れんぞ?」


おおー! 国王へのおねだりタイムだ! スティード君は何を望むのだろうか。


「では、おそれながら申し上げます。先ほど拐われた女性、サンドラ・ムリスと申しますが、彼女に学問の自由をお与えいただけないでしょうか。具体的には各地の図書館、各学校、施設等の図書室への立ち入りの自由を。」


「ほう、自分のことより女を優先するのか。いいだろう。完全にどこでもとはいかんがな。後日許可証が届くようにしておいてやろう。」


「陛下の寛大な御心に感謝いたします。」


『皆さま! お聞きになりましたでしょうか!? なんとスティード選手! 優勝者の特権、陛下への貴重な願い事を愛する女性のために使ってしまいました! これがクタナツ男の真髄です! 騎士道です! どうぞ拍手をお願いいたします!』


さすがスティード君。役者が違うな。サンドラちゃんも嬉しいだろうな。勉強し放題だ。

ちなみに私にも国王直々に賞金と盾をもらった。


『これにて王国一武闘会! 十五歳以下の部、魔法なし部門を終了いたします! それでは国王陛下の御退出です! ご起立・脱帽でお見送りください!』


すると上空からドラゴンが降りてきた。朝のやつだ。あれが国王の召喚獣じゃなければフェルナンド先生なんかは戦いたいんじゃないかな?




やっと終わった……長い一日だった。

魔法なしで準優勝なら上出来だよな。始めから麻の服で戦ってたら、決勝トーナメントにすら進出できなかっただろうし。

さて、明日も朝八時にここに来なければならない。今夜はおじいちゃんがお祝いをすると張り切っているので、みんなにも来れそうなら来て欲しいと伝えておいた。私とアレクはなるべく早く寝るつもりなのだが。


ちなみにスティード君はお兄さん一家にお祝いをしてもらうらしい。サンドラちゃんもそこに同席する。

兄上は来れない。近衛騎士は大変だよな。

姉上は来てくれた。

ありがたいことだ。

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