第465話

領都二日目、デメテの日。

隣にはアレク、天気は晴天。爽やかな朝だ。ダミアンは泊まったのか帰ったのか。


居間に降りてみると、誰もいなかった。庭の塒にコーちゃんもいない。つまり三人で飲みに出たのか。何て羨ましい!


「坊ちゃん、おはようございます。」


「おはよ。先生達は?」


「昨夜坊ちゃん方がお休みになられた後、皆さんで飲みに行かれましたわ。コーちゃんも喜んでついて行ったようです。」


フォーチュンスネイクは狙われやすいそうだけど、先生と一緒なら問題ないよな。


「分かったよ。じゃあ朝食は二人分でお願いね。」


「はい、かしこまりました。」


アレクはまだ寝てるし、のんびり朝風呂といこう。




それから起きてきたアレクと朝食を済ませて本日の予定を決める。ちなみにアレク像は明日までの約束で玄関に置いてある。セルジュ君やスティード君にも見せたいもんな。


相談の結果、この日は王都のみんなへのお土産を買うことになった。アレクは本家や親戚へ、私は兄上と姉上、そして母上の実家用。サンドラちゃんへは二人で買うことになった。


まずは兄上、姉上へのお土産だ。衝撃吸収のサポーターを頼みに『ウォークライ』に来ている。


「と、いうわけで例のサポーターを四つ頼めるかい?」


「まあできなくはないけどよぉ。明後日の朝までかよ……特急料金を貰うからな。」


「構わんよ。受け取りは明後日ヴァルの日の朝八時ぐらいに南の城門で頼む。」


「いいだろう。魔石もあるだけ置いていけよ。」




さて、次だ。母上の実家へのお土産、これはアレクのお土産と同じものが無難でいいだろう。


「アレクは本家にどんなお土産を買うの?」


「無難な物よ。サヌミチアニの染め物や、ホユミチカの焼き物。後は櫛や簪、それから根付けなどの小物かしら。」


「それいいね! そのアイデアいただき。僕もそうするよ。」


サヌミチアニやホユミチカは辺境にしては兵が弱い。クタナツがあるおかげで平和なのが一因なのだが、その代わり文化は育っている。サヌミチアニは広大な草原に自生する様々な植物を原料とした染め物が有名だし、ホユミチカは付近の山々から焼き物に適した土が取れる。

サヌミチアニ周辺の草原、コフレフォート草原はグリードグラス草原と違って危険な植物もいなければ、凶暴な魔物もいない。いてもゴブリンかコボルトぐらいらしい。


しかしながらそれらを雑貨屋で買うわけにもいかない。上級貴族へのお土産なのだから一流店で高めのやつを買う必要がある。貴族って大変だよな。




所変わってベイルリパースや辺境の一番亭などがある繁華街。その一角に『マーキーブランダ』はある。領都一の大店、アジャスト商会の直営店にして一号店。フランティア産の高級品を買うならここで決まりだ。


「いらっしゃいませ」


この通りにある店は子供だけだからと言ってぞんざいな接客をすることがない。この店も例外ではないようだ。


「王都へのお土産を探してるの。訪問先はアレクサンドル本家の上屋敷よ。」


「かしこまりました。個数とご予算はいかほどでしょうか?」


「ご当主へ一つ、これは金貨十枚程度。他は金貨一枚程度で二十、男女比は半々、フランティアらしいものをお願いね。」


なるほど、さすがアレク。そうやって頼むのか。


「それからこちらはゼマティス家へのお土産をお願い。内訳は同じよ。」


こっちもアレクが頼んでくれた。頼もしいな。


「ここは私の奢りよ。いつもカースばかりお金を使わせてるんだから。」


「そう? じゃあありがたく奢ってもらうね。」


金貨三十枚を奢りって私達の金銭感覚はめちゃくちゃだな。


「お待たせいたしました。ご当主様用にはそれぞれホユミチカの『草紋茶壺』と『風紋茶壺』をご用意いたしました。それ以外にはホユミチカの湯呑み、コーヒーカップ。サヌミチアニのスカーフ、ハンカチなどをご用意いたしております」


私が見てもよく分からないが、楽園用にいくつか買うのもいいかも知れないな。アレクが、納得しているので、それでいいのだろう。

それからラッピング、というよりは箱詰めが終わり引き渡される。


「じゃあ僕が収納しておこうか?」


「そうね、お願いするわ。この世で一番安全ね。」


それは期待しすぎだ。


「ありがとうございました。またのご来店をお待ちしております」




「いやーありがとね。選んでもらった上に支払いまで。」


「こんなの今までカースが使ったお金に比べたら微々たるものじゃない。それにこのお金だってカースのおかげで稼げたんだから。」


「そっか。それでも嬉しいよ。ありがとね。」


アレクは何ていい子なんだ。惚れ直してしまうぜ。


「じゃあお昼は僕が払うね。ちょうどアレクを連れて行きたいお店があるんだよ。」


「あら、それは楽しみね。何てお店?」


「ノーブルーパスだったかな。貴族街にあるお店なんだよね。」


「へぇ、あんな所にお店があるのね。知らなかったわ。」


「ドニデニスが教えてくれたんだ。美味しかったよ。」


「ふーん? で、誰と行ったのよ……」


あら? アレクの機嫌が……


「もちろん一人、いやコーちゃんと二人だったかな。」


「ごめんなさい……つい、心配になっちゃって。学校での男の子達は昨日の通りだけど、女の子達がカースのことばかり話すものだから……」


「そうなんだ。でも僕には何の影響もないよ。興味もないしね。」


これは本当だ。ハーレムに興味はないし、アレクより美人も見たことがない。せめてエロイーズさんのように美貌と妖艶さを兼ね備えてないとね。

でもそんな心配をしてくれるなんて嬉しいぞ。よしよししてあげちゃう。


「カース……//」




お昼ご飯は美味しかった。クイーンオークが入ってると聞いたので麦飯で丼にしてもらった。素晴らしい贅沢だ。ペイチの実もつけて二人で金貨三十六枚。やはりクイーンオークとは希少な食材なんだな。


さあ、昼からはサンドラちゃんへのお土産を探そう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る