第435話 領都一子供武闘会 表彰式

「これより表彰式を行います。選手の皆さんは武舞台の周りにお集まりください。」


みんなさっさと帰ったと思ったら結構残ってるもんだな。五十人はいる。


『大会委員長ダミアン・ド・フランティア様よりご挨拶申し上げます。』


ダミアンは武舞台に立ち会場を見渡してゆっくりと発言する。


『領都のみんな、今日はこのお祭りによく来てくれた。子供の遊びだったがそれなりに盛り上がり、楽しめたと自負している。今回このお祭りを開催したのはただの思い付きからだったが、これをキッカケにまた来年もやれたらいいと考えている。それも一種のフランティアスピリットだ! そして優勝したカース選手。最後まで危なげなく勝ち進む強さ、ポーションを必要としない堅牢さ、そして膨大な魔力。馬鹿な実況が魔王と呼んでいたがしっくりくると思わないか? なあみんな?

魔女の息子は魔王。どうだ、俺はいいセンスしてるだろう。優勝おめでとう!』


開会の時は誰も拍手しなかったのに、今は拍手喝采じゃないか。こいつこの一日で知識が豊富な上に鑑定眼もあることを知らしめたもんな。それにしても魔王か……私は勇者が好きなのに。


『続きましてアレクサンドリーネ・ド・アレクサンドル様より賞品の贈呈を行います。カース選手は前に出てください。』


「皆様、お疲れ様でした。名勝負の数々で、私も負けてはいられないと感じております。では賞品を贈呈いたします。まずは大金貨一枚。」


女王様から下賜されるように恭しく受け取る。


「そして、辺境の一番亭 最高級部屋ペア宿泊券。」


またもや女王様から受け取るように片膝をつく。


「最後に私。」


アレクは私に近寄り腰を屈め、頬に口付けをしてくれた。そして耳元でそっと「大好き」と囁いた。顔がにやけてしまう。いかんいかん。


『みんな! 二人に祝福の拍手を!』


今までで一番すごい、怒号のような拍手と歓声が上がる! 中には「もげろ」「爆発しろ」といった声もあったかも知れない。

ちなみにコーちゃんはいつの間にか私の首に巻きついていた。「ピュイピュイ」


『さーて、では野郎ども、お待ちかねの時間だ! 特にカースに無様にやられた奴は納得してないよなあ? まだまだやりたいよなあ?』


敗者達のみならず、観客からも「そうだそうだ」と声が聞こえる。


『そこでだ、今から自由にカースに挑戦できるってことでどうだ? 選手だけじゃない、腕に覚えのある観客もだ。もちろん怪我しても知らないけどな。いいかカース?』


「いいけど参加料はきっちりらもらうぞ? 一人金貨一枚な。」


『聞いたかオメーら! 参加してー奴ぁ金貨一枚払って武舞台に上がれ! 人数無制限だ! 寄ってたかってボコっちまえ!』


マジかよ! そりゃまあいいけどさぁ。ちゃんと金払えよ?


『皆さーん! 金貨は私に払ってくださーい。払った方から武舞台に上がっていいですよー!』


この黒百合さんは持ち逃げしないだろうな? あっと言う間に行列になっている。金貨が並んでるようなもんだ。


「オラぁー! 運が良かったからって調子に乗ってんじゃねーぞ!」『風球』

「お前みたいなガキにアレクサンドリーネちゃんは似合わねーんだよ!」『水球』

「まぐれで優勝したくせに生意気なんじゃあ!」『微風』

「魔法ばっかり使う臆病モンがー!」虎徹でドン!

「いざ、尋常に勝負!」ごめん無理『風球』

「不意打ち御免!」それは不意打ちではない『風球』

たまぁとったらぁ!」それは困る『水球』

「足元がお留守だぜ!」そうでもない『水鞭』

その後、突っ込んで来た奴らは水鞭で薙ぎ払った。


「ようやく邪魔がいなくなったな。次ぁ俺だ。いくぜ!」

確か……ブリジスト選手だったか? 『水球』

避けられた。ならば『水散弾』アレクの氷散弾を参考にしてみた。私の散弾のオマージュのオマージュか。当たってもノーダメージ……そりゃそうだ。

ブリジスト選手からは『石礫いしつぶて』が何発も飛んでくる。結構危ない! 『氷壁』で防御する。

自動防御でもいいのだが、盛り上がりに欠けそうなので。

ぬっ、ブリジスト選手が剣を抜いた! やる気か! しかもそこに後ろから別の選手まで! 「油断してんなよ!」してない。『水球』


それからも酷かった。四回戦クラスの選手や決勝トーナメントの選手までもが縦横無尽に襲いかかってきた。ただ連携などは誰も考えてないので意外と同士討ちになったりもしていた。


さすがに疲れてきたぞ。

「私の出番だな。この鎧の真価を見せてくれよう!」ネクタール選手だな。鎧に興味があるので虎徹でお相手してみよう。彼の動きは標準レベルなので近づくことは容易だった。剣の腕も並みなので打ち合いも問題ない。しかしミスリル合金の鎧が厄介だった。虎徹で多少は凹むがダメージは通ってない様子だった。少し悔しいな。せめてはっきり分かるぐらいには凹ませてやりたいぞ。『身体強化』

普段全然使ってない魔法だ。一撃だけこの状態で叩き込んでやる!

「無駄だ! 木刀でこの鎧と渡り合おうなっぐぉおぉ」

全力で胴に横薙ぎを叩き込んだら、木刀の形に合わせてべっこり凹んだ! しかしこちらも手が痛い……魔法解除。次は誰だ!

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