第373話

応接室らしき場所へ案内された私達の前にリスナール君とダマネフ伯爵が現れた。


「お二人とも本日はようこそおいでくださいました。改めてお礼申し上げます。」


「ダマネフ伯、私もカースも楽しませていただきました。今までダンスパーティーなんて見向きもしませんでしたが、今後は少し出てみようかと考えておりますわ。」


「それは重畳。来月はフランティア開拓記念パーティーもありますし、ぜひご参加されるとよろしいかと。」


「それより父上、本日の賞品をお渡ししなくては。」


リスナール君が懐から何かを取り出した。

それをダマネフ伯爵がこちらに渡してくる。


「こちらは辺境の一番亭の宿泊券です。どうぞお納めを。そしてこちらは仕立て券です。カース殿は見たところ、お召し物にかなりの拘りがおありなようだ。これは領都内ならどの仕立て屋でも通用します。素材はご自分持ちですが、仕立て代は無料になります。ぜひご利用ください。」


「ありがとうございます。夏用に新しいシャツでも作ろうかと思います。」


来月もあるのか。楽しくダンスできるのなら参加してもいいな。その辺りはアレクに任せておこう。


「ではこれにてお暇させていただきますわ。良いものをいただきありがとうございました。失礼いたします。」


「また来週学校でお会いするのを楽しみにしております。」


伯爵父子に玄関まで見送られた私達は馬車に乗らずそのまま歩いて帰ることにした。やはりデートは歩きでないとな。


いくら領都でも今夜のアレクほど着飾った上級貴族が街中を歩いているのは珍しいのだろう。注目を集めている。馬車で帰るべきだったかな。さすがに絡んでくる者などいないだろうが。


そんなことを考えながら仲良く歩いていたら隣に馬車が停まった。そこから貴族らしき男の子が顔を出してきた。


「アレクサンドリーネ様、歩きとはどうされたのですか? もしや馬車の手配ミスか何かで?」


「あら、ソノディア君。違うわ。歩きたいから歩いているのよ。」


「しかしアレクサンドリーネ様ほどの方が不用心では……」


「あなたも見たでしょ? 私にはカースがいるの。どこでも安全よ。」


「……それもそうですね。余興と実戦は違う気もしますが……余計なご心配でした。では失礼いたします。」


「ええ、また学校でね。」


やはりアレクはモテモテだな。ソルダーヌちゃんもそんなことを言ってたよな。心配ってほどではないが、今日は私の存在を示せたのもよかったようだ。これでアレクに寄り付く虫が少しは減るだろうか?




自宅に帰った私達は早速お風呂に入る。もちろん湯浴み着を着ている。


ちなみにマーリンは夕食の必要がない時は帰っているので今夜はこの広い豪邸に二人きりだ。彼女は住み込みメイドではない。掃除や食事が必要な時だけ来てもらっているのだ。マーリンの旦那は庭師らしく、うちの庭の手入れもお願いする日が来るだろうか。現在は広い庭に何もない、殺風景な景色だからな。コーちゃんの湯船が置いてあるのみだ。




「今日は楽しかったね。ダンスって面白いもんだね。来月のパーティーってどうするの?」


風呂ではアレクが私に抱き着いている。色々と感触が艶かしい。


「カースが行きたいのならもちろん行くわよ。でも来月のは辺境伯主催だから堅苦しいわよ? ダンスだって色んな人と踊らないといけないしね。」


「そっか。それならやめよう。今日みたいな気軽なやつだけ参加しようよ。」


「私もそれがいいわ。ソルが言ってたけど本来のダンスパーティーはかなり面倒みたいだし。」


しょせん遊びだしな。関係作り、顔つなぎのパーティーなんか出たくもないな。さて、本日出席したアレク狙いの男達はどう出るか……


私にあからさまな敵意を見せてはこなかったが、それで終わりと行くはずがない。アレクは誰にも渡さんぞ。

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