第336話

宿に入り落ち着いたタイミングでアレクに事情を説明した。


「そうなのね。所詮あの人も自分が命令すれば何でも思い通りになる、そんな愚かな貴族だったのね。」


アレクは少しだけ悲しそうだった。


「という訳だから家のことは残念だけど、もういらない。アレクとソルダーヌちゃんの友情は変わらないと思うけどね。でもソルダーヌちゃんの言う通りかもね。アレクの領都での生活が少し心配になってきたよ。」


「今回の場合、もしカースが一人でクタナツに帰ったとしても私の気持ちは変わらないわ。カースが、私なら一人で大丈夫と判断して先に帰ったと解釈するだけよ。だから心配要らないわ。」


「それもそうだね。少し心配し過ぎかな。だってアレクはこんなに綺麗で可愛いんだから。」


「カース……//」


それから私は初めてアレクの紅い唇に口付けをした。中身がおっさんの癖に気持ち悪いかも知れないが、かなり胸が高鳴ってしまった。アレクにも「鼓動がすごいわ」と言われてしまった……恥ずかしい。

それにしても無事脱出できて、なによりアレクが無事でよかった。


その夜、私達は同じベッドで抱き合うようにして眠った。きっといい夢が見れるだろう。






朝、先に目を覚ましたのは私だった。どうやら追っ手は来なかったか……部屋中に張っておいた範囲警戒が無反応だった。まだ油断はできないが。

そこにノックの音が。朝食かな。


ドアを開けると案内係とソルダーヌちゃんがいた。係がてきぱきと朝食を配膳し帰っていくと彼女は開口一番「ごめんなさい!」


ソルダーヌちゃんは勢いよく頭を下げて謝罪してきた。その声でアレクも目を覚ました。


「おはよ。ちょうどソルダーヌちゃんが来たよ。朝御飯もね。」


「おはようカースにソル。早いのね。」


「二人とも昨日はごめんなさい。せっかく泊まりに来てくれたのに……」


「ソルダーヌちゃんが謝る必要はないけど事情は分かってる? まあ食べながら話そうよ。」


そこが重要なんだよな。わざわざ来てくれたってことは理解してそうだが。でもよくここを突き止めたな。朝まで待ってから来てくれたんだろう。


「ええ、分かってるつもりよ。兄上はカース君が突然襲ってきて部屋を荒らして逃げたって言ってるけど。おばあ様付きのメイドがカース君から話を聞いていたわ。私にはお引き止めできず申し訳ありませんって謝ってきたわ。」


あー、あのメイドさんはおばあ様付きね。辺境伯家では各個人ごとにメイドがいるわけか。

一応私の口からも説明しておこう。





「と言う訳だから家のことは無理しなくていいよ。」


「いえ、あの件は母上にも話してあるから大丈夫よ。心配要らないわ。それよりどうしたらいい? 口ではいくら謝っても謝り足りないわ。」


「うーん、だったら辺境伯家としてアレクサンドル家に詫び状を出すってのはどう?」


「それはいいわね。それなら今後、妙な真似はしないでしょうしカースも安心ね。」


「分かったわ。母上に言ってみる。カース君には……」


「要らないよ? アレクサンドル家への詫び状の隅にでも名前を入れておいてくれたらいいよ。マーティン家への詫び状とか貰うと話が面倒になる気がするからね。」


本当にいいのか? 家から家への詫び状って結構重大な事だが……


「そう……大事おおごとにしないでくれてありがとう。兄上も無傷だったし……部屋は傷だらけなのに無傷だったわ。部屋の傷は兄上の魔法よね?」


「そうだよ。風の魔法をあれこれ使ってたね。」


「あれでも兄上は魔法学校の四年生では十番台なの。それでも相手にならないのね……エリザベスさんも二位以下が相手にならないそうよ。」


おお、さすが姉上。面倒だけど今回の件を伝えておかないとまずいかな?


「アレク、デートの予定を変更して悪いけど姉上のところに行こうか。」


「ええ、いいわよ。お姉さんにも説明しておかないとね。」


ソルダーヌちゃんはしゅんとしている。デートの予定を変更させて申し訳ないってとこかな。


では朝御飯も食べたことだし、魔法学校の寮に行ってみよう。朝風呂したかったなぁ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る