第160話

一方、盗賊は……

「テメーら! よく聞けや! 次の仕事で終わりだ! クタナツを売る!」


「そんな! お頭!? まだ早いんじゃないですか!?」

「そうですよ! まだまだ稼げるでしょう?」

「まさかビビったんじゃ……ぎゃっ!」


その手下の不用意な発言は、頬に突き刺さったナイフによって阻まれた。


「うるせーぞ。テメーらみたいな空頭が俺に逆らってんじゃねー。そろそろ潮時だ。騎士団や冒険者どもが本気になる前に離れるぜ。

それともテメー、あそこの六等星や騎士と一対一で勝てるかよ?」


「いや、それは、お頭……」

「でもお頭ほどの先読みがあったらまだまだ稼げるだろ? 開拓はまだ半分も終わってないんだし。」


「古い言葉でよぉ、もうはまだなり、まだはもうなり。って言ってな。まだいいって思ってる間はすでに手遅れなんだよ。本当はもうクタナツを売ってもいいぐらいだがよ。それじゃテメーらが納得しねーだろうが。盆暗なテメーらのためにもう一回だけやらせてやるぜ。」


「お頭ぁ。俺達のことを……」

「さすがお頭だぜ!」

「お頭万歳!」


大抵の盗賊は、昨日のことは覚えておらず、明日のことは考えられない。そんな低脳の集まりである。


そのためかクタナツ周辺では随分昔に一掃されており、それ以来近寄ることもなかった。

いくら低脳でもクタナツの危なさだけは理解しているらしい。


辺境では領都とサヌミチアニの間ぐらいに比較的よく出没する。

その辺りには盗賊が十〜二十グループ存在していたが、彼らはその内の五グループを吸収してできた大集団である。


頭目は『蓑火みのびのガストン』

元々は王都で冒険者をやっていたが周辺の盗賊の頭の悪さを知り、これなら容易くまとめられると考え自らが盗賊となった。


冒険者仲間と四人で結成した盗賊団『炎の戦車』はたちまち他の盗賊を駆逐し王都周辺を荒らしまわった。


ある程度の稼ぎを得たら役に立たない下っ端に金を持たせて派手に遊ばせる。

その間に本隊は次の場所に逃げるのだ。

遊びを覚えた下っ端はすぐに金を使い果たし街中で悪事を働き御用となる。

全てを自白させられるが下っ端が知っていることなど何もない。何の手がかりにもならないことを騎士団が必死に調べている頃には逃亡済みというわけだ。


下っ端だけあって頭目の顔どころか声や名前すら知りえない。金に目が眩んだ愚者の末路など推して知るべしだ。


そんな盗賊だから容易く裏切る。

仲間を殺す。

金を持って自分だけ逃げる。

そんなことは日常茶飯事だ。


そんな時ガストンは必ず同じ罰を与えていた。


雨の日に使う『蓑』を着せて火を付けるのだ。麦藁で作られた蓑は簡単に火が回り高温で燃える。火を消そうと必死に地面を転げ回る様を見てガストンは大笑いする。

運良く? 火が消えて死なずに済んだとしても全身大火傷だ。治療しても助かる見込みはない。

幹部によって傷口に塩を塗って放置されるのみだ。叫び声が消える頃、命も消えるというわけだ。


そんな光景を目の当たりにしても裏切る人間は裏切る。頭目の恐ろしさを知ってはいても金を目の前にした愚者は止まらないのだ。


それは今日も……


「さてテメーら。お楽しみの時間だ。今日はこいつだ。こいつは俺達の大事な仲間を二人も殺して金を持ち逃げしようとした。

俺達の金をだ。よって『蓑火の刑』だ。」


「お! お頭! 違うんだ! 何かの間違いなんだ! 俺じゃない! 俺は違う!」


この手の人間はいつも同じことを言う。

ガストンは少しうんざりしている。

しかし違う刑を考えるのも面倒なのでやはり蓑火の刑は継続だ。


「やれ。」


部下の手によって蓑に火がつけられた。

名もなき下っ端は意味不明な声で叫びながら転げ回っている。

普段は大笑いするガストンだが、今日はそんな気分でもなかったらしく黙ったままだ。


「おう、お頭。ご機嫌斜めかい? せっかくの見世物なのによう。」


「少し飽きてきちまってな。考えるのも面倒だが次からは違う刑にするかな。次があればな。ホントこいつらってバカだよな。こうなるって分かってる癖によぉ。」


「へっへっへ、だよな。で次回はどうすんだ?」


「いや、今回で終わりだ。俺達は足を洗う。貯めた金で四人とも一生豪遊できるぜ。」


「そうか。惜しい気もするがそれこそ潮時だもんな。」


「おう、最後のお勤めは俺達以外全員で行かせる。あらかじめ密告チンコロしとけば一網打尽ってわけよ。その間に悠々と逃げようぜ。」


「さすがお頭だぜ。」

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