第99話 ダキテーヌ家にて
「ヘイゼリア! なぜパトリックを地下から出した! あやつを出したらこうなることは分かっていただろう!」
ダキテーヌ家では当主ポールが激昂していた。
「あら貴方。では一体いつまで地下に閉じ込めておくおつもりだったの? まさか一生とはいきませんわよね?」
「奴の頭が冷えるまでだ!場合によってはベレンガリアの勘当を解いてもよかったのだ!それをお前は勝手に!」
「あら、それなら問題ないですわ。あの時パトリックの頭は充分冷えていましたわよ。だから出してあげたのです。」
「その結果がこれだ!プロスペルが後一年で貴族学院を卒業するというのに! 最早私達はクタナツには居れぬ! 魔境を開拓し領地を得ることもできぬ! 王都で法服貴族として細々と生きていくしかなくなった! プロスペルに継がせてやる領地も手に入れることはできぬ!」
「貴方、済んだことをあれこれ申し上げても仕方ありません。斯くなる上は王都でどう栄達するか、それが大事なのではありませんか?」
「お、お前という奴は! 自分のしたことを棚に上げて! 一体何を考えている!」
「何も含むところはございませんわ。私が考えているのは家族の平和。全員が揃って仲良く暮らすことが私の望みです。ああ可哀想なパトリック……」
「この後に及んで何を抜け抜けと! そもそもお前がベレンガリアの婚約を決めなければこんなことにはならなかったのだ! 私達から見ればディオン侯爵家との縁談は願ってもないことだった。しかしベレンガリアは違ったのだ。」
「それこそベレンガリアは気が狂ったのでしょう。だから貴方も勘当した。私達家族四人、王都で仲良く暮らしましょう。」
「くっ、これ以上話しても無駄なようだな。お前は先に王都に行っていろ。私も引き継ぎを済ませ次第行く。」
そう行って部屋から出て行くポール。
残されたヘイゼリアは笑みを浮かべて呟いた。
「これでやっと王都に戻れる……」
この女の本当の目的は王都に帰ること。
ただそれだけのために娘を盆暗貴族に差し出そうとした。
それが不調に終わり、二男が問題を起こしても、それさえ利用する。
それは狡知なのか、それともただの浅知恵か。王都に帰った後の暮らしがどうなるか、クタナツで魔境を開拓し領地を得たらどんなに賞賛を浴びることか。
何一つ考えてなどいない。
王都に帰りさえすれば全ての平民が自分に傅き、下級貴族は擦り寄って来る、そんな未来しか見えていない。
クタナツという辺境では社交界もサロンもない。夫の目を盗んで男娼を呼ぶこともできない。自分の魔力では入りたい時に風呂すら入れない、何という野蛮で不自由な生活。
王都帰還を目の前にしてヘイゼリアは自分の智謀に酔いしれていた。
夫から先に出発するよう言われた言葉の真意を見抜けぬまま……
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