第76話 カースの危機1

しまった!

今頃思い付いてしまった!

プールがあるせいで狭くて遊べないって言えばよかったんだー!

遅かった……


門が開き馬車が中に入る、馬車が完全に止まるまでみんなは降りてこない。

その隙に金操で鉄を隅に隠す!

そしてその周辺に土壁つちかべで外壁に見せかける!

この間わずか三秒、我ながら素晴らしい発動速度と遠隔操作だ。惚れ惚れするぜ。


みんなが降りて来た。

まずは母上に挨拶に行かねば。

と、思ったら母上とキアラが外に出て来た。

「カーにいおかえりー」

「カースおかえりなさい。みなさんもいらっしゃい。」


「イザベル様お邪魔いたします。突然の訪問で申し訳ありません。」


「あらあらアレックスさんたら。遠慮しなくていいのに。」


「おば様、お邪魔します。突然ごめんなさい。気になることがあったんですが、更に気になることが増えてしまいました。」


ぬあー! サンドラちゃんもう聞くのかよ!

母上が出てきたもんだから口止めもできねー!


「あらどうしたの? 何かうちに変なものでも?」


「昨日カース君が空に飛ばしてた物とお庭のアレが気になってます。」


終わった……

もうだめだ……

こうなったら自分の口から言うしかない……


「サンドラちゃん庭のアレが気になるの?

入っていく?」


「入る? どういうこと?

あれは何をするものなの?」


「あれは古い言葉でプールと言ってね。

大昔の王族は外の見晴らしのいい所にあれを作って水と戯れて遊んだらしいよ。

最近暑いからね。気持ちいいよ。

それにスティード君、あの中を歩くと足腰がすごく鍛えられるんだよ。」


みんな絶句している。

だよな、外で水を浴びるのは奴隷だもんな。


「カ、カースまさか裸であれに入っているの? やっぱりカースは破廉恥……」


「いやいや、そんな訳ないよ。だからハレンチって何なのさ。」


冬の露天風呂で裸なのは絶対内緒にする。


「今でも王都辺りでは大物貴族や王族がこれの大きいやつを愛用してるんじゃないの?

もしくは河とかで泳いだりしない?」


「ああ、それを言われると確かにそうかも知れないわね。王族ならありえるわ。

つまりカースは王族……」


「いやいやアレックスちゃんさっきからおかしいよ。どうしたんだい?」


「カース君、僕入ってみてもいいかな? このまま入って歩けばいいの?」


よし! スティード君が興味を示した!


「うんいいよ。服が濡れるけど気にせず入って前に後ろに歩くといいよ。こっち側は深いから注意してね。」


「服のまま水に入るって面白い感覚だね。それに歩いてるだけなのに、すごく訓練になる気がするよ。」


よし! スティード君はもうこっち側だ。

最早逃れることはできない!


「アレックスちゃんもこの先他の街に行くこともあるよね。河を渡るときにもし落ちたら泳げないと大変だよ。服を着ていると泳ぎにくくてそのまま死んでしまうこともあるらしいよ。」


「なるほど、さすがカース!

そんな場面も想定して備えているのね。破廉恥だなんて言ってごめんなさい。」


うっ、そう素直に謝られると心が痛い。


「うひゃー気持ちいいよ!」


セルジュ君も我慢できずに飛び込んだ。

やはり男の子はそうでなくては。

これで残りはサンドラちゃんだけだ。


「ところでカース君? 昨日の黒いのはどこ?」


さすが淑女サンドラちゃん。

目標を見失わない。


「あれ? 昨日の夜まではあったんだけど。」


思わず嘘をついてしまった。

何てことを……

ついさっき正直に言おうとしたばかりなのに。


「ないなら仕方ないわ。男子二人はプールに入ってるし私達三人でコボルト狩りをやらない? 投げるのは水球で。」


「それはいいね! 涼しそうだし。やろうやろう。」


よし! いい流れだ!

このまま有耶無耶にしてくれる!


「じゃあ言い出した私が狩人をやるわ。さあ二人とも逃げて。」


アレックスちゃんはまだ妙なことを考えているのか、逃げ足が遅い。

いかん、それでは当たってしまう。


ところが全然当たらない、サンドラちゃんの水球が変な方向にばかり飛んでいく。


ま、まさか!

狼ごっこでもなく、ゴブ抜きでもなく、コボルト狩りを提案したのは全方位に水球をばら撒くためか!

そして水球の当たった反応で黒い物を探そうとしている!

恐ろしい子……何という知略……

その年でオッサンである私を上回るとは……


だが!

私の土壁は頑丈!

外壁と区別などつきはしない!


その間、動きに精彩を欠いたアレックスちゃんに水球が当たり狩人交代となった。


だが、サンドラちゃんの知略はここからだった!

逃げる側になったことで、庭を隅から隅まで移動している!

もう彼女は確信しているのだ、私が黒いアレを庭のどこかに隠していると!

もうだめだー!


と思ったその時、

「皆さーんお茶が入ったわよ。こっちにいらっしゃい。」


母上ー!

ありがとう!

たすかったー!


「あらあらセルジュちゃんもスティードちゃんもびしょ濡れになって。カースの変な所がうつったのね。」


母上はそう言って何やら魔法を使った。

これはオディ兄の乾燥魔法?

見る見る二人の服が乾いていく。


「おば様すごーい! もう服が乾いた!

何て魔法なんですか?」


「これは乾燥魔法って言うみたいよ。うちのオディロンが得意な魔法なのよ。

私のは真似だからオディロンほどは上手くないの。ほら、服に結構シワがついてるでしょう?」


「へぇーオディロンお兄さんはもっとすごいんですね! カース君ちは皆さんすごいよね!」


ふふふ、母上もオディ兄もすごいんだぜ。

スティード君が喋らないな。ああ、息が切れているのか。ハードに頑張ったみたいだな。


このまま何事もなくお開きとなるか!?

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