第57話 カース、張り切る

昼食を終え移動を再開する。


それから一時間ほどで到着したようだ。


「さあ着いたぞ。あの遠くにうっすら見えるのがグリードグラス草原だぞ。あそこまでは危ないから行かないけどな。

ここなら好きなだけ魔法をぶっ放していいぞ。」


「じゃあ私から見せるわね。上級魔法『燎原の火』よ。」

そう言って母上は杖を構え呪文の詠唱を始める。

次の瞬間、見渡す限り前方が炎に包まれた。炎の高さは二メイルもないが、広さがとんでもない。どれだけの面積を焼いたんだ?


「どう? 雑魚を大量に始末する時によく使う魔法よ。効かない魔物も多いけどね。

張り切って詠唱までしちゃったから疲れたわ。」


「すごーい! 辺り一面焼け野原になってる!

なのにこっちが熱くないのはなんで?」


「うふふ、それはね、魔法の向きをきちんと制御したからよ。火の魔法は事故が多いって話をしたわね。この制御がきちんとできていればそんなこと起こらないのよ。しかもその方が効率もよくなるのよ。しっかり練習しなさいね。」


そんなことがあるのか、さすが魔法。

つまり自分には熱くない都合のいい火を使えるってことだな。

どんどん課題が増えてきたな……

しかし面白そうだ。


「さーて火が落ち着いてきたらイザベルの魔力に釣られて魔物がやってくるぞ。

もちろんカースも全力でぶっ放したいだろ?」


「うん! やってみる! 火球を使ってみるから母上、水壁お願い。」


「いいわよ。楽しみね。」『水壁』


よし、全力でやってみるぞ!

循環阻害の首輪を外して……と。

木刀の先に火球を作る。

大きくしたら危ないので小さく圧縮するイメージ。

大量に魔力を込めてやった。

こいつをぶっ飛ばす。


『火球』


風操は発射にしか使ってないので、放物線を描き飛んでいく。

直径一メイルにも満たない火球がおよそ二百メイル先に着弾し爆発した。

母上の水壁があるため爆風が届くことはないが、そこそこの威力はあるようだ。

爆心地には小さいクレーターもできているし周辺の土がちょこちょこガラス化しているようだ。


「すごいじゃないか。範囲は狭いが威力はとんでもない。あれが当たればオーガだろうがトロルだろうが一発だな。」


「ええそうね。本当にすごいわ。しかもあの地面を見て、所々ガラスらしきものができているわ。ガラスってああやって作るものだったのね。」


本来火球は爆発などしないが、魔力を大量に込めたために着弾時に何やら反応したのだろう。


「次いってみるよー。」


今度は着弾地点に先に水球を置いておく、そこに同じ火球をぶつけてみる。

すると大規模な爆発が起こり噴煙が巻き上がる。

水蒸気爆発だ。うまくいった。

水の量を増やすとさらに大規模な爆発が起こりそうだ。


「次いくよー。」


水壁を長大に展開し、一斉に風操で押し出す。これが単発なら高波だが、連続して行えばほぼ津波だ。

高さ三メイルの津波が五百メイル範囲を押し流す。


ふぅ、全力を出すのは疲れるが心地よい。


「おいおいカース、どれだけ魔力があるんだよ。下級魔法でイザベルの上級魔法をかき消せるじゃないか。」


「すごいわカース! どんどん教えることがなくなるわ! むしろ教えてほしいぐらいよ。」


「えへへ、うまくいってよかったよ。」


「あー、スパラッシュ、このことは誰にも言うなよ。まあ言っても信じないとは思うが。」


「も、もちろんでさ……自分の目も信じられねーぐらいでさ。」


「凄すぎて自慢できないのが残念だよ。

これでカースが掃除魔法や洗濯魔法、乾燥魔法の精密操作ができるようになったら王国最強の魔導士になるんじゃないの?」


「王国最強? それはすごいね。がんばるよ。」


マジかよ。まだ二年生だぞ。

いやいや増長してはいけない、精密操作を極めるまでは油断できないぞ。


「さあて大きい魔法を使ったことだし、大物が出ないうちに帰るとしようか。この分だと無事に帰れそうだな。でも油断するなよ?」


「そうね。あれだけ立て続けに使ったものね。大物が出るかも知れないわね。早く帰りましょう。」


「帰りは屋根に乗ってもいい? 景色をしっかり見たいんだ。魔法も使いたいけど。」


「ああ、いいとも。弁当を食べた所までな。

そこからは中に入るんだぞ。」


行きは酔わなかったけど、帰りも酔わないとは限らないからな。

それに前から馬車の上に乗ってみたかったんだよな。

外はだいぶ暑いけど、たまにはいいだろう。




一方車内では、

「カースの魔力量はとんでもないね。まだまだ力技で魔法を使ってる感じだけど、本当に宮廷魔導士になれるよね。」


「そうね。カースがなりたいと思うならなれるわね。まだまだ魔力は増え続けるし、制御だって上達するでしょうし。」


「これで騎士を辞めても安泰だな。と言いたいところだが、そうもいかないな。

宮廷魔導士なんぞになって王都のバカ貴族どもと関わるようになるとロクなことがないからな。

それにカースは自由に生きる気がするしな。」


一方カースは直射日光が暑く、頭上に土壁を作り風操で浮かせ続けていた。

非常に効率は悪いがいい修行になっているようだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る