第6話 カース、天才?
「ははうえー まほうって何ー? しゅくふくって何ー?」
「あらあらカースちゃんたら、もう魔法に興味があるのね。えらいわ。
魔法はね、火をつけたり水を溜めたり、暑い時は風を吹かせたり、とっても便利なの。
例えばさっきの教会なんかは石でできていたでしょ?
あれは魔法で石を削ってから組み合わせてるのよ。木は魔法でなくても削れるけど、硬い石は魔法でないと難しいのよ。
カースちゃんはどんな魔法を使いたい?」
「えーわかんない、鳥さんみたいに空をとびたいかもー」
「まあすごい! 空を飛ぶのはとても難しいのよ。それなのに飛びたいだなんて、さすがカースちゃん! えらいわね!
だったらたくさん頑張らないといけないわ。頑張れるかしら?」
「うん! がんばる! やりたーい!」
「よーし、そうと決まればまずは読み書きから始めるわよ。
たまにウリエンから本を読んでもらってたわよね? 少しぐらい読める?」
「わかんなーい、あにうえが読んでくれた本なら読めるかもー」
そう言って私は本を指差す。
タイトルは『勇者ムラサキ・イチローの冒険』
よくある勧善懲悪物だ。
どこか遠くからやってきた勇者が冒険をして魔王を倒しお姫様と結婚する、王道ストーリーだ。
子供向けかと思ったら時々ダークだったり卑怯だったりして楽しめた。
魔王を倒すために側近の子供を人質に取ったり、四天王最強の男を倒すために毒を盛ったり。
なのに悪いドラゴンを倒すのは正々堂々とだった。
訳が分からない。
そんな破天荒な所が人気の理由かも知れない。
もう十回は読んでもらった。
ウリエンもいい加減うんざりしているはずだ。
「さすがカースちゃん! じゃあ私に読んでみてくれる? カースちゃんが読むお話が聞きたいわ。」
「わかったー 読むねー」
『昔々あるところに、オジーさんとオーバさんがいました。
オジーさんは山にシヴァ狩りに、オーバさんは川に沐浴しに行きました。
すると川上から魔法陣を刻まれた大きな桃色の球体がどんぶらこ〜どんぶらこ〜と流れてくるではありませんか。
オーバさんは訝しみ球に触れることなく魔法の詠唱を始めました。』
「すごいわカースちゃん! もうそんなに読めるのね! ウリエンにたくさん読んでもらったのね。二人ともえらいわ。お母さんは嬉しいわ。
じゃあ次は文字を書いてみましょうね。今読んだ所を書いてみてくれる? ゆっくりと、丁寧に書くのよ。」
「はーい」
むかしむかしあるところにおじーさんとおーばさんが……………
「わぁすごい! もうこんなに書けるのね! さすがにギリギリ読める程度の字だけどすごいわ! きっとカースちゃんは天才なんだわ!」
前々から親バカっぷりがすごいと思っていたが、やはり間違いないようだ。
褒められるのは嬉しいからいいんだが、勘違いして増長しないよう気をつけねば。
ちなみに文字は日本語とは違うが、文法はほぼ同じだ。
だから書くのは難しくても読解は簡単だ。
漢字にあたる文字はまだほとんど覚えてないが、文脈から意味だけ判断すればよいって寸法だ。
魔法を勉強したいと言ったら文字の勉強が始まった。
これは魔法は文字と密接な関係があるためらしい。
たぶん楽器に例えると、楽譜を読むために必要な技能、知識なのだろう。
ということは、楽譜が読めなくても耳コピすれば魔法は使えるのだろうか?
まあそのうち分かるだろう。
個人魔法が使えることは誰にもバレていない。
そもそも使ってないし、当分使うこともないだろう。
早めに使って慣らしておきたいが、そうもいかないので、しばらく死蔵だな。
まずは普通の魔法が使えるようになってからだろう。
小さいうちから使っておけば魔力の総量が増えるのもファンタジーのお約束だが、ここでもそれは常識の範囲らしい。
貴族階級はやはり小さい頃から魔法の習得を始める。
特に上級貴族や王族は半ばスパルタで魔法教育を行うらしい。
私達のような下級貴族は家庭によるようだ。
騎士を目指すのか、官僚を目指すのか、はたまた商人になるか冒険者になるか。
それ次第で教育の方向性が違うからだ。
それが平民だと、両親が教えることができる場合は早めに始めるようだが、そうでない場合は学校に入るまでは何もしない。
そもそも普通は学校に入ってから文字を覚え、それから魔法の習得を開始するものだ。
だから慌てる必要はないと考えるものらしい。
さあ明日からは魔法を頑張ろう!
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