第4話神に向かってプロポーズ
どうしてこうなったんだろう。
「おー、ぶかぶかじゃのう」
いなりさんは、頬を紅潮させながら俺のグレーのスエットを着ていた。
巫女服が濡れたままでは可哀想だし、急いで引っ張り出してきたが、いかんせん先程の巫女服とは違いダボダボで、格式高さが皆無。
だが、これはこれでいい。袖からちらりとしか見えないその綺麗な指先に萌えを感じる。
「すみませんね、俺のしかないもので」
「いや、良いのじゃ。それに、旦那様の匂いがするからのう」
俺の謝罪を気にする様子もなく、いなりさんは袖口を鼻に当てて小さく呼吸して、はにかんだ。
なんだこの可愛い生き物は。
心臓が痛いくらいドキドキする。これがトキメキというものだろうか。
「旦那様は優しいのう。突然押し掛けた妾の事をきちんと気にかけてくれるからのう」
袖口を口に当ててふふふと笑ういなりさん。
なんて純粋な笑顔。
すみません、先程は邪な目線で拭いてる様子を目に焼き付けてしまって。
ちなみに今のスエットも脳内ハードディスクに保存してます。
こんな奴ですみません。
「ところで、いろいろと話さなければならないと思うんじゃが……。その、妾と結婚する。その方向でいいのかの?」
ここで話が戻ってくる。
多少いちゃついてしまったが、元々はいなりさんの勘違いなのだ。
俺としては非常に嬉しい勘違いなのだが、勘違いさせたまま結婚は心苦しい。
「……その、結婚するというのはすごく嬉しいです」
その言葉を言うと、いなりさんは目を輝かせ、耳がピンと立った。
でも、いなりさんが口を開く前に間髪いれずに喋る。
「ですが、勘違いさせたままいなりさんと結婚出来ません」
結婚出来ないと告げた瞬間、いなりさんの耳が垂れ下がり目に涙を浮かべる。
「な、なんでじゃ! あんな情熱的なプロポーズまでしたのに!」
「そのプロポーズがそもそも違うんです。俺は結婚したいと願い事をしてたんです。あなたにプロポーズした訳じゃない」
「そ、そんな……」
いなりさんは絶句し、涙をこぼす。
罪悪感で心が痛い。
「……妾の勘違いか。……すまんのう。その、すごく嬉しかったんじゃが、勘違いだったら仕方ないからのう。誠に申し訳ない」
いなりさんは泣きながらも無理矢理笑顔を作り、頭を下げた。
俺は慌て、いなりさんに頭を上げてもらう。
「いや、勘違いから始まりましたが、先程申し上げた通り結婚するというのはすごく嬉しいんです。勘違いさせたまま結婚したくなかったのです。なので、こんな俺ですが結婚していただけませんか?」
今度は誰でもいい結婚ではなく、いなりさんを見て、いなりさんにプロポーズする。
いなりさんは、ポカンとしたあと、また涙をぼろぼろと流し始めた。
え、ダメだった? 不安が心にすくったが、すぐさま不安なんて感じられない衝撃が身体を襲った。
俺の腰に手を巻いて、胸に顔ごといなりさんが突っ込んだ。
「もちろんじゃあああああああ!」
いなりさんの大きな大きな返事を聞いて安心する。
湿り気が胸元を這うが、それすらも愛おしい。
「うう……。妾を辱めおって! このー!」
いなりさんが腰に回した手の力が強くなったが、何の事はない。幸せの痛みだ。
「いなりさんは俺で良かったんですか?」
「……誰でもいいと思うたか? 妾は、お主がいいんじゃ」
この後むちゃくちゃ抱きしめた。
俺は、今日、神様と結婚した。
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