第543話 弓月の刻、龍神とダンジョンマスターと話をする
「それは、本当ですか?」
「紛れもない事実です」
ターディス様の言葉に隣に座る炎の龍神様であるエン様少しだけ恥じらいながら頷きました。
どうやら本当みたいですね。
「えっと、お二人はどういった経緯でご結婚されたのですか?」
驚くのは当然ですよね?
まさか、龍神様とドワーフの方が結婚し、まさかミレディさんという娘まで居るとは全く想像していませんでしたからね。
「出会った経緯はター坊がダンジョンで倒れていたのがきっかけだったな」
「ダンジョンでですか?」
「はい。私は当時、甥であるソティスの病気を治すために、色んな可能性を模索し、その一環でこの場所へとたどり着きました」
当時はまだガンディアとここのダンジョンは繋がっていなかったらしく、ターディス様がダンジョンを見つけたのはガンディアより遥か北にある大山脈だったようです。
どおりでダンジョンが広い訳ですね。
それならば六十階層もダンジョンがあるのも頷けます。
「まぁ、ダンジョンの広さと地上の広さは関係ないけどな」
「そうなのですか?」
「考えてみろよ。ダンジョンには空があるんだぜ? その広さを毎回確保したらどれだけの深さになると思う」
むむむ。
そう言われると確かにそうですね。
「では、実際はどうなっているのですか?」
「どうなってんだろうな」
「エン様でもわからないのですか?」
「ただ与えられただけだからな。暮らす場所がないなら暇つぶしに此処にでも済んどけってな」
「誰にですか?」
「そりゃ光龍よ。あいつは私達の中でも飛びぬけてへんてこな力を持ってたからな」
光龍様がダンジョンを作ったのですね。
もしかしたら、五龍神の中でも一番の力を持っているのは光龍様なのですかね?
僕たちからしたらどの龍神様もとてつもない力を持っているので比べようがないと思いますけどね。
「そんな事よりだ! ミレディの事を頼めるか?」
「ミレディさんですね……でも、いいのですか?」
「何がだ?」
「ミレディさんはエン様とターディス様の子供なのですよね?」
「間違いなく私の子だな。股から裂けて出てきたのは今でも覚えているぜ」
「エン。もう少し言い方を考えなさい」
「でもよ、事実だろ?」
「事実だとしてもです。お客様達が引いてしまっていますよ」
別に引いてはいないですけどね。
ただ、ちょっと露骨な言い方で驚いたくらいです。
「細かい事はいいんだよ。ミレディが私達の子供なのは確かだからな。で? それを聞いて何か意味があるのか?」
「はい……折角の子供なのですから、お二人で育てたいという気持ちはないのかなと思いまして」
僕だったら絶対に育てたいと思います。
だって、シアさんとの子供ですよ?
絶対に可愛いと思います!
それに、僕は子供が好きですからね。
実際に育てるとなると大変だとは思いますけど、それでも自分たちの手でどうにか立派に育てたいという気持ちは強くあります。
「それは思います。しかし、私はダンジョンマスターであり、エンに至っては世間では龍神と呼ばれる存在。その二人の子という事が世間に公になった時、ミレディはどうなるでしょうか?」
「間違いなく何かしらに利用されると思います」
「私もユアン殿と同意見です。親としての役目を果たせていないのは十分に承知ですが、それ以上にミレディには私達の存在に囚われず、自由に生きて貰いたいと思うのです」
親として何ができるかという事ですかね?
その気持ちはわかります。
親の存在に縛られ、自由に生きれないというのは息苦しいかもしれません。
でも、ミレディさんの望みが違ったらまた話は変わります。
「仮に、ミレディさんが二人に会いたいと言ったらどうするのですか?」
ミレディさんの口から、どうして一人で暮らしているのかを聞いた訳ではありませんが、ミレディさんは言わないだけで親に会いたいと思っている可能性だってあります。
「その時は会います」
「それは、今からでは駄目なのですか?」
「今は無理だな」
「どうしてです?」
「世界がこれほどまでに荒れているからです。少なくとも、ミレディの存在が公になっても問題ない世界が訪れるまでは、私達は大人しくしている方がいいでしょう」
その話しぶりからすると、二人は世界がどうなっているのかを知っているのですかね?
「知ってるぜ。次元龍の奴が復活したんだろ?」
「そして、魔力至上主義という魔族が力を蓄えているのですよね?」
「その通りです」
そこまで知っているのですね。
「だからこそ、ミレディの平和を守るためにはこの方法が一番なのです」
「お前の親と一緒だ」
「僕のですか?」
「はい。ユアン殿のご両親はユアン殿と直接会わないようにしているでしょう」
「はい。まだ直接お会いした事はありません」
「それは、ユアン殿を守るためでもあったのです」
「幼いうちに魔力至上主義に目をつけられないようにな」
そんな裏があったのですね。
今となっては魔力至上主義と戦う事になってもどうにかなると思いますが、まだ僕が成人する前……まだ補助魔法をここまで使いこなない時に狙われていたらどうなっていたのかわかりませんね。
その時はシノさんが動いてくれたかもしれませんが、確実に危険は迫ったと思います。
「では、もし魔力至上主義を倒してこの世界に平和が訪れたらお二人はミレディさんに会ってくれるのですか?」
「本人が望んでくれれば確実に」
「実際に私だって会いたいしな」
単にミレディさんを捨てた訳ではないみたいですね。
「わかりました。そういう事ならば、ミレディさんさえ良ければ、僕たちの街に案内しようと思います」
「ユアン殿達ならそう言って頂けると思いました」
「でも、一つ疑問があります」
「なんだ?」
「どうして僕たちなのですか?」
お二人の子供という事さえわからなければ、ガンディアにこのまま暮らしても問題ありませんよね?」
「理由は色々とありますが、ユアン殿達に希望の光を感じたからです」
「希望の、光?」
「あぁ。お前たちはあたたかい。街も人も土地も。全てがあたたかいんだ。だから任せたいと思った」
「えっと、僕たちの街の事を知っているのですか?」
「ナナシキだろ?」
本当に色んなことを知っているみたいですね。
魔力至上主義の事や次元龍……まぁ、レンさんですね。
その事もそうですし、お父さんとお母さんの事も、ナナシキの事まで知っているようです。
「もしかして、監視とかしています?」
「ご安心ください。そのような事はしておりませんよ」
「ただ、そういった情報を教えてくれる奴が居るだけだ。もちろん、お前たちの個人的な情報は聞いてないぜ? あくまでもこの世界の状況を聞いているくらいだ」
そうは言いますけど、僕のお父さんとお母さんの事はしっかりと伝わっているので、十分に個人的な情報は洩れていると思いますけどね。
まぁ、お母さん達がそれだけ凄い方だったから伝わっていたという事でもありそうですけどね。
でも、そんな人が居るのですね。
しかも、僕たちの街の事を知っているくらいですし、意外と身近な人だったりもしそうです。
候補は沢山居すぎて検討はつきませんけどね。
「ちなみにですけど、その人の事を教えてくれたりしますか?」
「申し訳ないですが、本人の希望もあり今は教える事が出来ません」
「今はですか?」
「はい。その時がくればいずれ本人の口から聞く時が来るでしょう。近い将来のうちに」
「そうなのですね」
いずれわかる事ならば焦って探す必要もないですかね?
逆に知り合い全員を疑うというか、この人がそうかなと見てしまうのも疲れますし、相手に不信感を抱かせてしまいそうですからね。
「ま、ミレディとお前たちを招待したのそれが理由だ。納得したか?」
「納得したかと言われるとまだ微妙な所ですが、お二人の気持ちはわかりました」
ミレディさんがあの暮らしをしていた理由はわかりますけど、他にも方法があったのではないかと思うので納得はできない感じですね。
僕もそうでしたが、孤児院に預けられ親の存在を知りたいと思う時はやはりありましたからね。
それでも、ここから先はミレディさんとエン様とターディス様の問題ですし、これ以上は口を挟まない方がいいと思います。
僕たちの目的である魔力至上主義を倒し、レンさんを納得させる事が出来ればそれが結果として繋がりますしね。
「では、こちらからの話は終わりですが、ユアン殿達から聞きたい事などはありますか?」
「私達の話を聞いて貰ったからには、私達に出来る事をしてやるぜ」
あ、そうでした!
僕たちは元々は別の理由で龍神様を探していたのですね。
まぁ、結果的には話の方向は似たようなものでしたけどね。
ですが、思い出して良かったです。
僕たちは龍神様を探していた理由をエン様に伝え、加護を頂けないか聞いてみました。
「そんな事でいいのか? 加護くらいだったらくれてやるけど」
「いいのですか?」
「任せとけ! といっても、適性があるのはちびっ子だけだな」
そして、エン様はあっさりと加護をくれると言ってくれました。
ちなみにですけど、ちびっ子は僕ではありませんよ?
火の魔法が得意な事からわかるように、適性があるのはサンドラちゃんです。
「ありがとうございますなー」
「いいっていいって。ただ、確認は自分でしろよ? 口で説明したってよくわからねぇし、私もよくわからねぇからな」
「わかりましたー」
サンドラちゃんが自分の手を見つめながら手を握ったり開いたりを繰り返しています。
その様子からすると、エン様から加護は無事に頂けたみたいですね。
「そんな所か。他になければ地上まで送ってやるけど」
「そうですね……」
無事にサンドラちゃんが加護を頂けたので後は大丈夫ですかね?
むしろこれからミレディさんと話をしなければいけないので、そっちの方が大変だと思いますが、とりあえずはやり残したことは……。
「あの、少し伺いたい事があるのですが、よろしいですか?」
そんな時でした。
ずっと静かに黙って話を聞いていたスノーさんが小さく手をあげました。
「ん? いいぞ?」
「お二方がよろしければですが、ターディス様がどのようにしてダンジョンマスターになったのかを詳しく教えて頂けませんか? 私も、ダンジョンマスターになりたいと思っていますので、出来る事なら参考にしたいです」
スノーさんの目はとても真剣でした。
そうでした。
スノーさんはダンジョンマスターになる事を目標にしていましたね。
そして、目の前にはドワーフにしてダンジョンマスターになり、目標の手掛かりとなる人物がいるのです。
その機会を逃す訳にはいきませんよね。
「いいぜ。といっても、条件を満たす必要がある」
「その条件とは?」
「簡単だぜ? 条件はな……」
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