第455話 補助魔法使い、ナグサに仕事を紹介する
「ユアンさん、何処に向かっているのですか?」
「ナグサさんの仕事場ですよ」
今日はナグサさんにお仕事を紹介の為にとあるところへと向かっています。
戦争があったせいで色々と忙しく、実際に僕が行くのは初めてですけど、どうなっているのか少し楽しみです。
「着きましたよ」
「ここですか?」
「はい、ここです」
そして、僕達がやってきた場所は新たにナナシキを開拓した場所でした。
「こう見ると、ナナシキも変わって行っているのがよくわかりますね」
「そうなのですか?」
「はい。ついこの間まではこの場所には柵があって、川も流れていませんでしたからね」
それだけ開拓がスムーズに進んだという事ですね。
「あの、ここはどういった場所なのですか?」
「ここは影狼族の人たちが住む場所ですよ」
「影狼族……」
ちょっとだけナグサさんが不安そうな顔をしました。
それも仕方ありませんね。
ナグサさんもこの一年で色んな経験をしましたからね。
やっぱり違う種族の人達というのが少しだけ怖いのかもしれません。
そもそもナグサさんの住んでいた村は人族の人たちが住む村でしたし、他種族の人に慣れていないというのも原因の一つかもしれませんけどね。
でも、きっと問題ありません。
「大丈夫ですよ。みんないい人ですからね」
「そうなのですか?」
「はい。こうして居住区を新たに拡張しているくらいには街の人からも信頼されていますからね」
「確かにそうかもしれませんね。信頼されていない人の為に街を広げる事なんてしないですよね」
ナグサさんは僕の言葉を信じてくれたみたいですね。
まぁ、実際の所は違いますけどね。
影狼族の人たちの事を信頼しているのは本当ですが、居住区を新たに拡張したのは僕達がこうしたいと街の人に伝えたからです。
街の人は僕のやりたい事には反対しないので、それが通ってしまったのが事実だったりします。
ですが、街の人と仲良くやってくれているのは本当ですので、嘘ではありませんよね。
「それで、私は誰とお会いするのですか?」
「この先ですよ」
えっと、確かシアさんの話ですと、川沿いに居ると言っていましたけど……。
「あ、居ましたよ」
「あの方、ですか?」
「はい!」
良かった。どうやら間違っていなかったみたいです。
影狼族の居住区へと入り、シアさんの説明通り川沿いに進むと、探していた人物を見つけました。
そして、その人も僕達に気付いたようで、作業を中断して小走りでこちらへとやってきました。
「おはようございます」
「おはよう、ございます。ユアン様」
僕が挨拶をすると、ティロさんは頭を深々と下げ、挨拶を返してくれました。
そうです。
僕がナグサさんに紹介したいのはティロさんでした。
「お仕事の方はどうですか?」
「あまり順調とは言えないの。やっぱり、難しいです」
「ですが、一人でここまでやったのは凄いと思いますよ」
「ありがとうございます」
褒められたのが嬉しいのか、ティロさんが照れているのがわかります。
でも、実際にお世辞ではないのですよね。
ティロさんがさっきまでいた場所をみると、その場所は綺麗に耕されていました。
それも、僕達のお家のお庭くらいありそうなくらい大きな範囲で手入れされていたのです。
あの範囲を一人でやったとすれば、それは本当に凄い事だと思います。
っと、今はそれよりもナグサさんの事でしたね。
ティロさんも僕の隣に居るナグサさんの事が気になるのか、ナグサさんの事をチラチラと見ています。
「ナグサさん、こちらはティロさんといって、お花を育てるお仕事をしている人です」
「お花をですか。あ、申し遅れました、私はナグサです……よろしくお願いします」
「私はティロ。よろしくなの」
二人が頭を下げて挨拶を交わしています。
ですが、頭をあげた二人は気まずそうですね。
まぁ、それも仕方ありませんね。
初対面でいきなり一緒に仕事を頑張ってくれというのは酷だと思いますからね。
「それで、ティロさんのお仕事はどの辺りまで進んでいるのですか?」
なので、お互いの挨拶が済んだところで、まずは僕が仕事の状況をティロさんに確認する事にしました。
そうすれば、ナグサさんがアドバイスできると思いますからね。
何せ、ナグサさんはお花を育てるのが得意と言っていました。
僕がアドバイスするよりも、よっぽど有意義な事を伝えてくれると思います。
「まだまだです。ようやく花壇を耕し終えたばかりなの」
ですが、早速困ってしまいました。
畑を耕した段階だと言われてしまったのです。
むむむ? これ以上、何を聞いていいのかわかりませんよ?
「となると、これから土に栄養を与える段階ですか?」
助かりました。
僕が困っている事に気付いたのか、ナグサさんがフォローに入ってくれました。
というよりも、ナグサさんが単に気になっただけですかね?
「栄養? どういう事なの?」
「えっと、まだ耕したばかりですよね?」
「そうなの。だけど、これからどうすればいいのかチヨリ様に聞かないとわからないの」
どうやらやる気はあっても知識がまだ追い付いていない段階のようですね。
まぁ、僕もナグサさんが言っている事はあまりわかりませんけどね。
この街に来たばかりの頃、シノさんと一緒に少しだけ街を回りましたが、その時に説明された気がしますけど、正直覚えていませんしね。
「肥料とかは撒いていないのですか?」
「肥料?」
「枯草などを燃やした時にでる灰を撒いたりは、していないという事ですね?」
「うん。その辺はわからないの」
シュンと耳と尻尾をティロさんは垂らしてしまいました。
あれれ、もしかしてこれってマズい状況ですか?
傍からみると、ティロさんがナグサさんに怒られているようにも見えます。
ですが、その心配はいらなかったみたいです。
「えっと、なら畑を耕すのは中断して、先にそっちをやりますか?」
「その方がいいの?」
「はい。そちらの準備をした方がよりお花は育つと思います」
「わかったの。もっと色々教えて貰えますか?」
「はい。その代わり、私も一緒に働いてもいいですか?」
「もちろんなの!」
良かったです。
何も知らないティロさんに対し、ナグサさんは優しく接してくれました。
ティロさんも色々と教えてくれそうなナグサさんに心を開いたみたいですね。
となると、僕はお邪魔ですかね?
「それでは僕はーー……」
この辺で失礼しますと言おうとした時でした。
「折角だし、ユアン様も一緒にお花を育てませんか?」
「ふぇ? 僕もですか?」
「はい。みんなで共有しながら育てるとよりお花に親しみと愛情が注げますので、よろしければ一緒にどうですか?」
「親しみと愛情……ナグサさんはいい事を言うの!」
「ふふっ、お花も人と同じですからね」
「そうなの!」
なんだか、二人が盛り上がってきたのは気のせいですかね?
いえ、でも僕はわかりますよ。
これでも僕だって色んな経験をしてきたのです。
ナグサさんはまだティロさんと出会ったばかりで不安な気持ちが拭えていません。
なので、少しでも僕に居て貰うようにしているのだと思います。
そうとわかれば仕方ありませんね。
ナグサさんにお仕事を紹介した責任もあります。
それに、シノさんではありませんが、自分の育てたものが誰かを喜ばせるというのはいい事だと思います。
「わかりました。ですが、僕は素人なので何もわからないので、お手柔らかにお願いします」
「はい。では、早速出来る事から始めましょうか」
「頑張るの!」
何故か、僕も一緒にナグサさんとティロさんとお仕事をする事になり、今日一日付き合う事になりました。
そして、後悔することになりました。
お花を育てる為の作業がこんなに大変だと思わなかったのです。
まさか、次の日に立ちあがるのが大変なほどに色んな場所が痛くなるなんて思いもしませんよね。
ですが、命を育てる大変さがよくわかりました。
お花も食べ物も、こうやって育てられ、僕達の暮らしを支えていると、よくわかったのです。
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