第89話 補助魔法、怒る

 許さない。

 絶対に許さない。


 「来た、来た来た来た!にっくき相手がまたひとりぃぃぃぃ」


 私の事を知ってる?

 まぁ、関係ない。

 私の事を知っていようが知らなかろうが、許さない事は変わらない。

 もちろん、待ってもあげない。

 

 「闇よりいずる、這いよる影、我が敵を捕縛せよ……ダーク拘束バインド


 影から闇の手が伸びる。

 私のではなく、シアを傷つけた敵達から。

 一人も、一匹も逃しはしない。

 

 「ぐっ…………」


 痛い、痛いです!

 体中に痺れるような痛みが走りました。

 これだから、闇魔法は相性が悪いから嫌いです。

 ですが、敵を捕らえましたよ。


 「なんだぁ、何が起きたんだぁ!?」

 

 影から伸びた無数の手が肉団子みたいな魔物を捕縛し、それに驚いていますね。

 

 「捕まえましたよ」


 僕はスタッフを取り出し、ゆっくりと歩き、距離を詰めます。


 「離せ! オーガよ、儂を救出せよ!」


 肉団子は慌てたように指示をだしますが。


 「無駄ですよ。他も捕まえましたから」


 肉団子もオーガも、冒険者と戦っていたゴブリンも全て捕まえました。

 動けるのは僕たちだけです。


 「シアさんを傷つけたからには、わかっていますよね?」

 「知るか!」

 「そうですよね、敵ですからね、戦うのは当たり前です。死のうが生きようが知った事ではないですよね」


 僕はスタッフを振り上げます。


 「待て!」

 「待ちませんよ。まずは、シアさんの分です」


 シアさんがやられたので、シアさんの力を借りて、僕は戦います。

 シアさんとの繋がりで、僕も少しだけ力が強くなりました。

 その力を精一杯使わせて頂きます。


 「てーーーーいっ!」


 振り上げたスタッフを全力で肉団子に叩きつけます。


 「ぐぎょっ!」


 蛙が潰れたような声をだし、肉団子が跳ねました。


 「まだまだいきますよーー!」


 次は全力で、スタッフを横に振ります。


 「ぶべっ!」


 肉団子がスタッフに押され、とんでいきます。ですが、拘束されているので、影が伸び、再び僕の目の前に戻ってきます。


 「おかえりなさいっ!」

 「まて、儂がっ!」


 儂が何ですか?聞こえませんね。

 戻ってきた肉団子を再び打ち返します。

その度に、骨の軋む鈍い音が聞こえてきます。

 ですが、知らないですよね。相手の事なんて。


 「これは、シアさんの分!」

 

 転がって戻ってきた肉団子にスタッフを叩きつけます。


 「これも、シアさんの分!!!」


 跳ねた所を横振りで殴りつけます。


 「これも、これも、シアさんの分です!!!」


 何度も何度もスタッフで攻撃をします。

 相手は再生持ちのようで、何度も僕が攻撃するたびに回復をしています。


 「ゆ、ゆるして」

 「だめです」


 ですが、回復するのなら回復が追い付かなくなるまで攻撃すればいいってシアさんは言っていました。

 僕の体力が尽きるか、肉団子の魔力が尽きるかの勝負ですね。


 「たぁぁぁぁ!」

 「ひ、ひぃ!」


 僕がスタッフを振り上げるだけで怯えた声を出すようになりましたが、構わずに殴ります。

 攻撃魔法は苦手ですが、打撃攻撃で頑張ってます!

 

 「ゆ、ゆあん!」


 僕が頑張って攻撃をしていると、背後から僕の名前を呼ぶ人がいます。


 「スノーさん、どうしました?」

 「いや……ね?」


 スノーさんは引きつった顔で僕を見ています。


 「ば、馬鹿め、目を逸らしたなぁぁぁぁぁ!」


 キンッ。

 僕の防御魔法に何かが当たりました。


 「うるさいですよ」


 ちょっと、イラっときたので助走をつけて、スタッフを振ります。


 「ぐぎぎ、な、なでだぁぁぁ?」

 「知りませんよ、何がしたいのか。黙って、やられてください」

 

少し息が上がってきましたが、その程度で休みません。

 何度も何度もスタッフで肉団子を殴り、叩きつけ、ぶっ飛ばします!

 その度に、肉団子の口から苦悶の声があがります。


 「これも……シアさんのーー」


 ダメージが蓄積され、再生も遅くなり、僕の攻撃に震え怯える肉団子に更なるダメージを与えるためにスタッフを振りかざすと、その動きを止められました。

振り返ると、振り上げていたスタッフをスノーさんが掴んでいるのが目に映ります。


 「スノーさん、何ですか?」

 「いや……だから、その辺でね?」

 「ダメですよ、この魔物はシアさんを傷つけたのですから。許せないですよね?」

 「そうだけど」

 「なら早く倒さないとだめですよね」


 シアさんを傷つけた、魔物ですから。倒さないとダメです。

 こんな事している間にも折角与えたダメージが回復されて、無駄になってしまいます。


 「倒すなら核か角を壊せばいいんじゃないかな?」

 「そうでした。ですが、何処にあるかわかりませんので」


 角は体内にあるのか見えませんし、核の位置もわかりません。

 なので、蓄積ダメージを与えるしかありません。


 「ユアンの魔法で探れば……」

 「僕の武器はスタッフなので無理ですよ」


 スタッフは鈍器です。刃がないので、体内を攻撃できませんからね。


 「あぁ、もう! キアラ!」

 「は、はい!」

 「ユアンを説得して!」

 「わ、わかりました。……あの、ユアンさん?」

 「何ですか?」

 「えっと、後は私達に任せて、シアさんの所に……」

 「わかりました、直ぐに倒しますね!」


 そうでした。

こんな魔物に構っている暇はありません。

 少しでも早く、シアさんの所に行かないとですね。

 シアさんは血を流し、毒にも侵されていました。回復魔法で癒しましたが、流した血で、侵された毒で体力は下がったままです。

 心配なので直ぐに行かないといけません。

 僕は、肉団子に攻撃をしようと、スノーさんに掴まれたスタッフを振り解こうとしますが。


 「痛いです!」


 スノーさんに頭を叩かれました。しかも割と本気でです!

 痛みはありませんが、衝撃はあります。


 「スノーさん、酷いですよ!」

 「酷いのはユアンだよ」

 「え?」

 「私だって、キアラだって、シアが傷つけられた事に怒ってる。心配してる。私達もシアの仲間、ユアンの仲間!」

 「あ……」


 熱くなりすぎていた事に気付きました。

 シアさんの事を思うのは、僕だけではありません。

 スノーさんだって、キアラちゃんだって、同じ気持ちを持っている事に気付けませんでした。


 「すみません」

 「わかればいいよ。だから、後は私達に任せてくれる?私達もやらなきゃ気が済まない事があるからね」

 

 僕は頷き、後はスノーさん達に任せる事にします。


 「ぐふふふふふ……」


 僕がシアさんの所に向かおうとした時、肉団子が不気味に笑いました。


 「何がおかしいの?」

 

 笑う肉団子を警戒しながら、スノーさんが剣を構え、肉団子に問いただします。


 「のんきに喋ってるからこうなるのだ。殺るならさっさと殺らぬからこうなるのだ!」

 「何の話?」

 「黙れ、終わりだ、これで終わりだぁぁぁぁ!」


 トレントの森の入り口が激しく光りました。

 そして、気持ち悪い魔力を感じます。


 「嘘でしょ……」

 「儂がどうなろうと最早どうでもいい、道ずれだ……道ずれじゃぁぁぁぁはははは!」


 叫びながら笑う肉団子の背後から冒険者が姿を現しました。

 いえ、元冒険者らしき人達が、です。

 恰好は冒険者、ですが額から角を生やし、土色の肌、虚ろな瞳……角に完全に支配されたと思われる元冒険者達です。

 それだけではありません。

 森の入り口の光が治まると、そこから同じく額から角を生やした人がこちらに向かってきます。

 太った男、がりがりに痩せた男、髭を生やした老人など、冒険者に見えない人達がです。


 「そこまで落ちていたとは……」

 「何とでも言うがよい、果たして、この軍勢を疲弊しきったお主らで防げるかな?」


 百をも軽く超える数の敵が向かって来ています。


 「やるしかないようね、二人はまだ戦える?」

 「僕は平気ですよ」

 「私も、大丈夫です」


 闇魔法のせいで魔力はかなり減ってしまいましたが、まだ戦えます。


 「なら、私が抑えるから二人はいつも通りよろしく」

 「わかりました」

 「任せてください!」


 シアさん、シアさんの所に行けるのはもう少し後のようです。

 なので待っていてくださいね。

 トレンティアの夜はもう少し、続くようです。

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