第45話 補助魔法使い、手掛かりを見つける

 「手がかりらしい手がかりは見つかりませんね」

 「広いから仕方ない」


 地下通路に潜入してから1週間ほど経ちました。

 潜ってから3日目に地上に繋がる場所を発見したので、地上にでましたがそれ以外はずっと潜っている状況です。


 「レジスタンスも他の場所から侵入して探していようだけど、進展はないみたいね。罠と魔物で思った以上に進めていないみたい」


 地上に出た際に、それぞれ連絡と報告だけはしました。

 僕たちはローゼさんに現状を報告し、スノーは皇女様とレジスタンスに報告をしています。


 「期限はあと1週間ですか……」

 「エメリア様が協力できるのはそこが限界かな」

 

 そう考えるとかなりギリギリの状況ですね。

 皇女様がこの街から去ってしまえば、領主と組織が動き出すのは間違いないですからね。

 地上と違い、地下通路は入り組んでいるせいでマップを確認すると半分も進んでいない事になります。

 

 「私がレジスタンス側で探索していればもう少し捗ったかもしれないね」

 

 僕たちと反対側からレジスタンスは捜索をしているようで、もし同じだけ進めていれば1週間もあれば中央で合流できたかもしれません。


 「たらればを言っても仕方ありませんよ。僕たちが出来る事をやりましょう」

「そうだね。それにしても……」

 「うん。鬱陶しい」


 相変わらず水路をデビルフィッシュがついてきます。襲い掛かるわけでもなく、ついてくるのです。

 水の中はデビルフィッシュからしても視界が悪いのか、時折跳ねてこちらの様子を窺ってきます。

 そのせいで、水は跳ねるしバシャバシャ煩いですからね。二人が嫌がる気持ちもわかります。

 

 「何がしたいのかな?」

 「私達が水に入るの待ってるのかも」

 「歩く道があるから入るわけないのにね」

 「そうですねーー……うん?」


 魔物とはいえ知識はあります。

 デビルフィッシュがうようよと泳いでいる中、進んで水の中に入る人はいないですよね。

 ですが、それでもついてくるのに違和感を感じました。

 そう、感じたんです。感知魔法で。


 「もしからしたら、デビルフィッシュは人が水に入ると思っているのではないですか?」

 「入らないと思うよ?」

 「普通はそうですね。ですが、ルリちゃんは言ってましたよね、水の中を移動できる魔法道具があるかもって」

 「そういえば言ってたね」

 「つまりは……」

 「目的の場所には水の中を通らないと辿り着けない?」

 「はい、でなければ僕たちについてくる理由はありませんよね」


 僕は常に感知魔法を展開しています。

 そして、異様にデビルフィッシュが集まっている場所があったのを思い出しました。

 

 「もしかすると、そこが怪しいのかもしれません」

 「ユアン、その場所は覚えている?」

 「自信はありませんが、何となくです」

 「信じる」

 「そうね、向かってみるしかないかな」


 僕たちは奥に進むのをやめ、デビルフィッシュが集まる場所を目指す事にしました。

 こんな事ならデビルフィッシュが不自然に集まっている場所を記録しておけば良かったです。これも、たらればなので言っても仕方ないですけどね。


 「えっと、この先だと思います」

 「見覚えある」

 「本当?私はどこも同じに見えるよ」


 僕も何処の通路も同じに見えます。


 「大丈夫。この先に通路の合流地点がある」

 

 シアさんの言う通りでした。八方から水が入り込む場所に辿り着きました。

 通路というよりは小さな池みたいな場所ですね。


 「今思えば、かなり不自然ですよね」

 「うん」


 水路は水が流れます。

 ですが、ここは水の流れがなく、八方から水が集まっているのです。


 「よくよく考えれば、流れ込んだ水が行き場をなくすはずだよね」

 「はい、ですが溢れることなく水が集まるとすれば、何処か別の所に水が抜けている事になりますね。そして、デビルフィッシュが沢山集まっていると考えますと……」

 「ここから移動している、可能性があると」

 「けど、どうやって確かめるのですか?」

 「中に入るのは危険。戻れる保証も繋がっている保証もない」


 可能性があるだけで、実際は違うかもしれません。

 

 「ユアンの感知魔法で探れない?」

 「無理ですよー。僕だって万能じゃありません」


 離れた場所の映像を見たりする魔法道具はあるようですが、僕の感知魔法にはそんな性能はありませんからね。

 

 「イル姉に相談する」

 「そうね、何らかの魔法道具があるかもしれないから聞いてみる価値はあるかも」

 「そうですね、一度戻りますか」


 無理した結果が最悪の結末を迎える事はよくあります。

 時間は惜しいですが、急がば回れです。

 地上に出る頃には既に日が落ちかけていました。時計のお陰で時間はわかりますが、感覚としてはちょっと変になりそうです。太陽って偉大ですね!


 「イル姉、いる?」

 「ん?どうしたのこんな時間に」

 「急用」

 「何か困った事があったのね。ちょうど店を閉めようと思っていた頃だし、座ってちょうだい」

 

 ララさんがお茶を用意してくれ、お茶を頂きながら今見てきたことをそのまま伝えました。


 「なるほどね」


 難しそうな顔でイルミナは考え込んでいます。


 「何かいい方法はありませんか?」

 「あるにはあるけど、私の店は日常で役立つ物ばかりを扱っているから、すぐには用意できないわ」

 「そうですか……」

 「だけど、紹介はできるかもしれないわよ?」

 「紹介ですか?」

 「えぇ、私達以外にも魔法道具を取り扱っているお店はあるわ。そこにならもしかしたらユアンちゃん達が求めている品はあるかもしれないわね」

 

 これは朗報ですね。宛があるのと無いとでは全然違いますからね!


 「なら、紹介する」

 「紹介はするけど、相手は私達と違って商人なのよね。もしかしたら一筋縄ではいかないかもしれないわ」

 「お金なら多少であれば動かせるので大丈夫かな。エメリア様に話を通さなければいけないけどね」


スノーさんの言葉にイルミナさんは首を振りました。


 「お金じゃないわよ。商人が一番大事にしているのは信用よ。商人によっては相手が王族であっても信用できなければ売らない商人もいるくらいよ」

 「そうなんですか?」

 「えぇ、冒険者にも拘りがあるように商人にも拘りがあるの。むしろ、商人の方が厄介でしょうね。偏屈なのが多いから。目先の利益よりも先の利益を考え、更なる利益を生み出すのが商人よ。例え損をしてでも名前と信用がそこで買えるのなら、それを選択する商人もいるわね」


 王族や貴族に睨まれたなら拠点を移してまた商売をすればいい。そう考える商人も少なくないようです。元々は流れ商売をしていた人がほとんどみたいですからね。

 ほんの一握り、親から受け継いだ店を守る商人もいるようですが、商人からしたらそれは商人ではなく、お店屋さんって認識らしいです。

 それ故に商人を相手するのは骨が折れるようです。信用を得る為にはブレない拘りを持ち、妥協しない商人魂と向き合わなければならないようです。


 「ちょっと、大袈裟に言ったけどね」

 「大丈夫」

 「シアじゃ無理でしょうね。口下手だから」

 「……そんなことない」


 シアさんは苦手だと思いますよ。


 「売って」

 「お前には売れない」

 「なんで?」

 「~~~~だからだよ」

 「欲しいから売る」

 「だから~」

 「いいから売る」


 うん、想像つきますね。


 「ユアン、失礼な事考えてる」

 「そんな事ないですよ?」


 適材適所を考えていただけすからね。


 「それで、その商人は気難しい人なの?」


 イルミナさんの言った通り、商人にも色んな人がいますからね。気さくな人なら簡単に売ってくれる人もいるかもしれません。


 「気さくな人よ。だけど、これぞ商人って人ね。自分の足で買い付け、自分で販売し、自分の目で見たものしか信用しない人ね」

 「それって気さくな人って言えるの?」

 「えぇ、話は聞いてくれると思うわ」


 スノーさんと同じ意見ですね。

 僕もその人が聞いただけではとても気さくな人とは思えません。拘りがとても強そうに感じます。


 「名前、教える」

 「えぇ、ザック商店のザックよ」


 むむむ、何処かで聞いた事がありますよ?


 「もしかして、カイゼル髭の似合うおじさんだったりしますか?」

 「あれ、ザックの事知っているの?」

 「はい、僕の知っているザックさんもタンザの街で商人をやっていると言っていましたので」


 証拠ではないですが、確認のためにザックさんに頂いた紹介状をイルミナさんにみせます。


 「うん……ザックの紹介状で間違いないわね」

 「これ使えそうですか?」

 「えぇ、ザックが紹介状を渡すのはかなり珍しいから優遇してくれると思うわよ」

 「それは助かりますね」

 「紹介状を書いて貸し一つにしようと思ったけど失敗ね」

 「イル姉、せこい」

 「あら、私だって商人ではないけど、単なる善人ではないわよ?」

 「知ってる」

 「シアさん、イルミナさんはいい人ですよ。だから、悪く言っちゃダメですよ」

 「むぅ……」

 「ふふっ、シアはユアンちゃんには敵わないみたいね。それより、早くしないとザックの店が閉まっちゃうけどいいの?」


 時計を確認するともうすぐ6時になろうとしています。

 夜遅くまで開いているお店もありますが、防犯のために普通のお店は6時には閉まってしまう所が多いです。


 「シアさん、スノーさん急ぎましょう!」

 「そうね」

 「うん」

 「イルミナさんありがとうございました。ララさんもお茶美味しかったです。また、お礼に来ますね」

 「お礼はいらないわよ。だから、気軽にいつでもまた来てね」

 「はい~お気をつけて~」


 お礼はいらないと言われましたが、情報もお茶も頂いてしまったので、何か返さなければいけません。

 僕にできるのは魔法道具の案くらいですがそれで喜んでもらえますかね?

 そんな事を考えましたが、今はそれどころではないので、頭を切り替えザック商店に向かいました。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る